格安スマホ通話料半額も ドコモ回線レンタル料下げ裁定

格安スマホの日本通信がNTTドコモに通話回線のレンタル料の引き下げを求めていた問題で総務省は30日、ドコモに値下げを求める裁定を公表した。ドコモと契約する他の格安スマホ会社にも適用され、通話料が半額になる可能性もある。世界的に割高な携帯電話料金の「官製値下げ」の新たな呼び水になりそうだ。
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裁定は法的拘束力を持ち30日から適用される。ドコモは12月29日までに日本通信に新たなレンタル料金を示す必要があり、他の格安スマホ事業者にも同条件で料金を設定することになる。数年に及んだドコモと日本通信の争いは、日本通信に軍配が上がった格好だ。
ドコモは30日「当社の主張が認められず大変遺憾である」とのコメントを出した。日本通信の福田尚久社長は日本経済新聞の取材に対し「やっとキャリアと同じ土俵で競争できる」と歓迎。月3ギガ(ギガは10億)バイトのデータ通信と通話し放題のプランを組み合わせ、月額2500円以下を目指すことを明らかにした。
同社の現在の主力プランでは月3ギガバイトまでのデータ通信料が1390円。従量課金の通話料と合わせると、仮に月60分話した場合は3790円になる。新たなプランだと、同じ時間話しても3割以上安くなる計算だ。

日本通信が要望
日本通信が通話回線のレンタル料引き下げを求めていたのは、価格が高止まりしていると考えるためだ。自社回線を持たない格安スマホは、ドコモなど大手の通話回線などを借りてサービスを提供する。データ通信回線のレンタル料は年々低下しており、総務省によると2020年度から22年度までにさらに3割下がる見通し。だが通話回線では高止まりしている。
日本通信は約10年前からドコモと契約し、30秒の通話当たり14円のレンタル料を払ってきた。ドコモの回線でKDDIなどの利用者に電話する場合の原価は3円程度とされる。大手も格安スマホも消費者には20円でサービスを提供。コストが高い格安スマホは定額制プランを提供しづらい。
日本通信は14年からドコモに値下げを求めていた。昨年11月には、電気通信事業法に基づく裁定を総務省に申請。総務省は2月、ドコモについて「交渉上の優位性を背景に料金を高止まりさせている」と指摘し、レンタル料の値下げを求める裁定案を示していた。
法的拘束力を持つ今回の裁定でも、日本通信の申し立てをほぼ認め「原価に適正な利潤を加えた金額を超えない料金設定」にすることをドコモに求めた。裁定に従い算定し直すと、通話回線のレンタル料は現在の半額程度に下がりそうで「通話料も半額になる」(総務省関係者)との見方もある。高市早苗総務相は30日「事業者間の競争がより一層本格化していく。引き続き、公正な競争環境の整備に取り組む」と話した。
KDDIやソフトバンクにも影響
KDDIとソフトバンクも通話回線のレンタル料の見直しを迫られる見通しだ。通話回線のレンタル料はこれまで算定基準がなかったが、総務省の有識者会議は30日、算定のガイドライン案を公表した。ドコモへの裁定と同じく、原価に基づく算定が望ましいとした。
格安スマホ市場の20年3月末の契約数は1500万回線。格安ブランドのソフトバンク系の「ワイモバイル」を含めると約2000万件となり、全国の携帯電話の契約数の1割を占める。総務省によると3万件以上の契約数を持つ格安スマホの事業者は約60社。「ドコモ回線を借りる業者は50社程度」(業界関係者)とされる。
調査会社のMM総研(東京・港)の資料を基に試算すると、格安スマホの通話料が半減すれば、音声とデータを合わせた平均的な月額利用料金は3割ほど安くなるとみられる。格安スマホのインターネットイニシアティブ(IIJ)は「今年度中にわかりやすくリーズナブルなプランに見直す」と話している。
ドコモなど大手3社の寡占が続く携帯電話業界に対して、国は料金の引き下げを促してきた。楽天が第4の通信キャリアとして本格参入したが、対応周波数のトラブルなどもあり値下げの旗振り役とは言いにくい状況だ。30日に総務省が発表した世界6都市のスマホ利用料金によると、月5ギガバイトのデータプランで東京の料金はニューヨークに次ぎ2番目に高かった。
菅義偉官房長官は30日の記者会見で「東京の料金は依然高い水準で大幅な引き下げの余地がある。寡占状態は変わっていない」と述べた。今回の裁定で格安スマホ各社が値下げに踏み切れば「遅かれ早かれ大手も料金プランを見直さざるを得ない」(業界関係者)との声が出ている。
(太田明広、広瀬洋平)