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香港国家安全法を施行 一国二制度、崩壊の危機

(更新)

【北京=羽田野主、香港=木原雄士】中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は30日、中国政府が香港の統制を強める「香港国家安全維持法」に署名し、公布した。香港政府は同日午後11時(日本時間7月1日午前0時)施行した。香港は高度な自治を認められた「一国二制度」が崩壊しかねない歴史的な節目を迎えた。

香港政府が施行と同時に官報に掲載してようやく明らかになった条文によると、中国政府が香港に治安維持機関を新設し、司法や教育などあらゆる面で関与を強める。習指導部は2019年夏から香港で広がった「逃亡犯条例」を巡る抗議活動を封じ込めるため、同法を検討してきた。

同法は1997年の香港返還後も高度の自治を50年間にわたり保障した「中英共同声明」に違反するとの声が米欧で高まっていた。日米欧の主要7カ国(G7)外相が中国政府に「再考」を求める共同声明を打ち出したが、中国政府は「内政」の問題だとして同法制定を強行した。

新法では反中的な言動や過激な抗議活動を念頭に「国家分裂」「政権転覆」「テロ活動」「外国勢力と結託して国家安全に危害を加える行為」の4類型を犯罪として定め、刑事責任を問う。最高刑として「終身刑」を適用する。香港では外国人を含め「いかなる人もこの法律を適用する」と明記した。

外国勢力と結託するケースとして中国、香港への制裁を外国に要求する場合を挙げた。香港の選挙に影響力を及ぼす行為や損害を与える行動も罪に問われるとした。定義があいまいで香港民主派からは恣意的な解釈を懸念する声が上がる。

14年の大規模民主化デモ「雨傘運動」の元リーダー、黄之鋒氏や周庭氏ら民主派は米国などに中国への制裁を求める「国際戦線」の活動を展開してきたが、今後は禁じられる。

過去に遡る遡及適用はしないとした。

中国政府は新法に基づき、香港に治安維持機関の「国家安全維持公署」を新設し、国家安全に関わる情報の収集・分析や犯罪事件の処理を扱う。

同公署は「特定の状況」のもとで、国家の安全に危害を加える「ごく少数の犯罪に管轄権を行使する」とした。(1)外国勢力が介入し事態が複雑になった場合(2)香港政府が同法を執行できなくなるケース(3)国家の安全が脅かされていると判断した場合――を挙げた。

香港政府は行政長官をトップとする「国家安全維持委員会」を新設する。中国政府が監督し、顧問を派遣して関与する。

香港は外国籍の裁判官が多く「司法の独立」を担保してきたが、今後は国家安全にからむ事件を審理する裁判官は行政長官が指名する。外国籍の裁判官が排除され、判決が常に中国寄りになる懸念がある。

香港のほかの法律と矛盾する場合は国家安全法の規定を優先し、法律の解釈権は全人代常務委が持つと明記した。香港の憲法に相当する「香港基本法」の付属文書に例外として追加し、香港立法会(議会)の審議を経ないで施行した。

いずれも中国政府による統制を強め、香港の国際都市としての繁栄を支えてきた一国二制度を揺るがす内容だ。

7月1日の返還記念日には毎年、民主化を求める大規模なデモが起きている。7月18日には9月の立法会選挙に向けて立候補の届け出も始まる。習指導部が国際社会の反対を押し切って法制定を急いだのは、香港の抗議活動や民主派の選挙運動を抑え込む狙いがありそうだ。

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