世界のスタートアップ投資、リーマン危機より深刻か

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コラム(テクノロジー)
2020/7/3 2:00
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 新型コロナウイルスによる経済的な打撃は2008年のリーマン・ショックとよく比較される。CBインサイツがスタートアップ投資分野で比べたところ、投資件数では今回の方がより大きな影響が出たが、金額ではリーマン危機の方が深刻だった。今後の見通しを分析すると、しばらく投資が鈍ったリーマン危機時と違い、今回は感染者の少ないアジアを中心に投資が回復しつつあるようだ。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

2000年代後半、米国の住宅ローン危機が波及し、世界経済は苦境に陥った。その時と同様に、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)も世界経済に壊滅的な打撃を与えている。サプライチェーン(供給網)は寸断され、人の往来は途絶え、企業活動は止めざるを得なくなった。

今回のリポートでは、08年の景気後退がベンチャーキャピタル(VC)の投資件数や投資額に及ぼした影響に注目し、現在の経済危機と比較する。

<経済危機がVCに及ぼした影響>

CBインサイツのデータから、新型コロナの感染拡大に伴う世界の投資件数への影響は08年の世界金融危機よりもずっと深刻であることが明らかになった。もっとも、金額ベースではこれまで通りの投資活動が続いている。

・新型コロナの感染拡大に伴い、20年1~3月期の世界の投資件数は前四半期比16%減少した。一方、08年の金融危機の発生直後にあたる08年10~12月期は8%減にとどまった。

・20年1~3月期の世界のVC投資額はパンデミックにもかかわらず11%増えた。一方、08年に金融危機が発生すると、世界のVC投資額はすぐ減少し、08年10~12月期は10%減だった。

米国では新型コロナの影響が続いており、スタートアップの資金調達件数と調達額が減少傾向にあることがデータで示された。

・08年の金融危機の発生を受け、米国の08年10~12月期のスタートアップの資金調達件数は16%減少した。一方、20年1~3月期の調達件数は6%減で、4~6月期はさらに減少する見通しだ。

・08年10~12月期の米VC投資額は13%減だった。これに対し、20年1~3月期の米スタートアップの調達額は22%増えた。1回の調達額が1億ドル以上の「メガラウンド」が増えたのが主な理由で、20年4~6月期には減少に転じるとみられる。

■世界のVC投資

08年9月15日、当時米銀4位だったリーマン・ブラザーズは米連邦破産法11条を申請した。リーマンや他の銀行がサブプライム住宅ローン担保証券(MBS)への投資で多額の損失を被ったことをきっかけに金融危機が起き、世界的な景気低迷に陥った。

リーマン・ショック後すぐに世界のVC投資活動は縮小し、低迷は3四半期にわたって続いた。

【リーマン危機】08年の金融危機で世界のVC活動が減速
(08年1~3月期から10年10~12月期の四半期ごとのVC投資件数の変動、%)

【リーマン危機】08年の金融危機で世界のVC活動が減速
(08年1~3月期から10年10~12月期の四半期ごとのVC投資件数の変動、%)

世界保健機関(WHO)の事務局長は20年1月30日、新型コロナを「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」と宣言した。この宣言により、ウイルスに伴う経済的混乱が事実上始まった。08年の金融危機と同様に、感染拡大でスタートアップの事業拡大の見通しが狂い、投資活動が低迷した。

08年の金融危機では、リーマン・ショック直後にあたる08年10~12月期の世界の投資件数は8%減だった。一方、20年1~3月期の件数は新型コロナ危機を受け、16%減少した。

【コロナ危機】世界のVC投資件数、回復基調に
(19年1~3月期から20年4~6月期の四半期ごとのVC投資件数の変動、%)
注:20年4~6月期の数値は20年6月8日時点の実績に基づく予測値(以下同)

【コロナ危機】世界のVC投資件数、回復基調に
(19年1~3月期から20年4~6月期の四半期ごとのVC投資件数の変動、%)
注:20年4~6月期の数値は20年6月8日時点の実績に基づく予測値(以下同)

もっとも、世界のVC投資件数は順調に回復しつつあるようだ。今のペースが続けば、20年4~6月期の世界の投資件数は2%増える見通しだ。

08年の金融危機をきっかけに、世界のVC投資額は2四半期連続で減少した。その後、09年7~9月期に59%も増えたのは、欧州での投資額が大幅に増加したためだ。米投資会社シルバーレイクが09年9月、ルクセンブルクに拠点を置くスカイプに19億ドルを投資し、この数字をつり上げた。

【リーマン危機】世界のVC投資額は、米住宅ローン危機を受け減少
(08年1~3月期から10年10~12月期の四半期ごとのVC投資額の変動、%)

【リーマン危機】世界のVC投資額は、米住宅ローン危機を受け減少
(08年1~3月期から10年10~12月期の四半期ごとのVC投資額の変動、%)

一方、20年の世界のVC投資額は今のペースが続けば、2四半期連続で増えることになる。コロナ危機にもかかわらず、4~6月期の投資額は27%増える見通しだ。これは一部のスタートアップによるメガラウンドが主な理由だ。

【コロナ危機】世界のVC投資額は、パンデミックにもかかわらず増加
(19年1~3月から20年4~6月期の四半期ごとのVC投資額の変動、%)

【コロナ危機】世界のVC投資額は、パンデミックにもかかわらず増加
(19年1~3月から20年4~6月期の四半期ごとのVC投資額の変動、%)

20年1~3月期の世界のVC投資額が増加したのは、自動運転の米ウェイモ(Waymo)による増資(調達額23億ドル)や、中国のオンライン不動産取引プラットフォーム貝殻找房(Beike Zhaofang)のシリーズD(15億ドル)、インドネシアで配車サービスなどを手がけるゴジェック(Gojek)のシリーズF(12億ドル)など、10億ドル以上のメガラウンドが相次ぎ、合計投資額が増えたためだった。

4~6月期はインドの通信大手リライアンス・ジオ(Reliance Jio)の計129億ドルに上る資金調達が合計投資額を押し上げた。同社のこの未公開株による調達(ラウンド)がなければ、5%減少だっただろう。

同じ理由から、このペースが続けば20年4~6月期のアジアのVC投資額は108%増える。欧州は4%増え、北米は12%減る見通しだ。

■米国のVC投資

米国は08年の金融危機の震源地だったため、米スタートアップのエコシステム(生態系)は大量のデフォルト(債務不履行)や失業、個人消費の落ち込みの影響を即座に受けた。08年10~12月期の米国のVC投資件数は16%減少した。

【リーマン危機】米VC投資件数、08年の壊滅的打撃から緩やかに回復
(08年1~3月期から10年10~12月期の四半期ごとのVC投資件数の変動、%)

【リーマン危機】米VC投資件数、08年の壊滅的打撃から緩やかに回復
(08年1~3月期から10年10~12月期の四半期ごとのVC投資件数の変動、%)

その後、09年7~9月期の米国のVC投資件数は21%増え、復活した。財政出動や金融緩和で失業率が元の水準に戻り、個人消費が持ち直したことが寄与した。

一方、20年4~6月期の米国のVC投資件数は4四半期連続で減少することになりそうだ。

【コロナ危機】米VC投資件数、4四半期連続で減少へ
(19年1~3月期から20年4~6月期の四半期ごとのVC投資件数の変動、%)

【コロナ危機】米VC投資件数、4四半期連続で減少へ
(19年1~3月期から20年4~6月期の四半期ごとのVC投資件数の変動、%)

09年7~9月期には米国のVC投資件数が回復しただけでなく、投資額も29%増えた。

【リーマン危機】米VC投資額、08年の金融危機で低迷
(08年1~3月期から10年10~12月期の四半期ごとのVC投資額の変動、%)

【リーマン危機】米VC投資額、08年の金融危機で低迷
(08年1~3月期から10年10~12月期の四半期ごとのVC投資額の変動、%)

20年1~3月期の米国のVC投資額にはパンデミックの明らかな影響はみられなかった。新型コロナの感染者数の増加とそれに伴うロックダウン(都市封鎖)は3月末以降に起きたからだ。それどころか、米スタートアップによるメガラウンドは58件と前四半期比で50%近く増えた。

ところが、4~6月期にはビジネスの混乱や失業率の上昇などロックダウンの経済的影響がスタートアップを襲い、投資家は各社の成長見通しを修正した。このため、4~6月期の米国の投資額は13%減少する見通しだ。

【コロナ危機】米VC投資額、ロックダウンで打撃
(19年1~3月期から20年4~6月期の四半期ごとのVC投資額の変動、%)

【コロナ危機】米VC投資額、ロックダウンで打撃
(19年1~3月期から20年4~6月期の四半期ごとのVC投資額の変動、%)

<今後の見通し>

世界のスタートアップ投資は新型コロナの感染拡大初期から急回復している。中国とインドで投資額が急増しており、20年4~6月期の世界の投資額と投資件数は増える見通しだ。

一方、米国で投資額と投資件数がともに減少するのは、米スタートアップの厳しい先行きを表している。失業の長期化や大企業の予算削減が個人消費や事業支出にダメージを及ぼすとみられる。

09年後半にVC投資が回復すると、新たな業界を形作るテクノロジーやビジネスモデルをとり入れた企業が生まれた。例えば、ライドシェア大手の米ウーバーテクノロジーズ(Uber)は09年7~9月期のシードラウンドで25万ドルを調達。個人の信用情報を無料で提供する米クレジットカルマ(Credit Karma)は09年10~12月期のシリーズAで250万ドルを集めた。

今年に入りVC投資件数が最も伸びているのは、サプライチェーンや物流のテクノロジーを手掛けるスタートアップだ。2位にはデジタル医療がつけている。こうした部門への投資は、新型コロナを契機にこうした業界の進化が加速し、革新的なスタートアップが登場する可能性を示している。

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