敵基地攻撃能力「自衛権の範囲」 政府自民、コスト・効果議論へ

北朝鮮
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政治
朝鮮半島
2020/6/30 2:00
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政府のミサイル防衛の再検討にあわせ、攻撃を受ける前に拠点をたたく敵基地攻撃能力保有を巡る議論が再燃した。政府は自衛権の範囲にあって能力を保有でき、国際法上認めない「先制攻撃」と異なると解釈する。政府・自民党は効果やコストで保有の是非を具体的に論じる見通しだ。

再燃のきっかけは地上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の計画停止だった。政府は国家安全保障戦略の改定にあわせてミサイル防衛のあり方を示す。自民党は30日に検討チームの初会合を開く。

政府は憲法9条に基づく専守防衛の下でも敵基地攻撃能力を保有できるとの見解を踏襲する。1956年の鳩山一郎首相の「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とはどうしても考えられない」との答弁が根拠だ。

政府は「国際法上も認められている」との立場だ。防衛大学校の黒崎将広准教授(国際法)は「相手が武力攻撃に着手した段階で自衛権を行使できるという解釈は国際的なコンセンサスだ」と話す。敵基地攻撃能力の是非が論争になるのは「日本独特だ」と指摘する。

国連憲章は51条で自衛権を「固有の権利」と定める。慣習国際法上、必要性と均衡性が行使の原則となる。「差し迫った侵害があって他に手段がない場合、相手の措置と比べて過剰になりすぎない範囲で許容される」という趣旨だ。

国連憲章は自衛権を行使できるのを「武力攻撃が発生した場合」と記し先制攻撃は禁じている。

日本の場合、政府は憲法9条の下で抑制的な防衛政策を取り、敵基地攻撃能力を保有してこなかった。

野党が反対し続けてきたこともある。今回も「憲法上許されない。先制攻撃であり国際法違反にもなる」(共産党の志位和夫委員長)との声が上がる。

自民党は能力保有を主張してきた。それでも2018年の防衛大綱改定に合わせて提言したのは「敵基地反撃能力」だった。攻撃を受けた後、2発目以降を防ぐために発射基地をたたく構想だ。

政府見解では1発目の準備段階から自衛権の行使が可能とみる。防衛力の拡大に慎重な公明党や野党の反発を懸念した。

今は北朝鮮のミサイル技術が高度化し、中国が軍事力を拡大し東アジアで覇権をうかがうなど安全保障環境の変化は著しい。

明海大の小谷哲男教授(安全保障論)は「国民の意識も変わってきており、何のために、どの程度の能力を持つべきか整理して議論を進める必要がある」と語る。相手の攻撃を未然に防ぐ抑止力強化にもつながると説明する。

敵基地攻撃能力の保有は自民党の保守派を中心に盛り上がり、政府が採用を見送ることの繰り返しだった。政府や自民党は先制攻撃との混同を避けながら議論を進める。

先制攻撃は明確に国際法違反だ。1981年、イスラエルは稼働間近だったイラクの原子炉を爆撃した。国連安全保障理事会は認めず多くの国が国際法違反と指摘した。

どこからが「武力攻撃が発生した場合」かは議論が分かれる。

2003年に石破茂防衛庁長官は日本を攻撃する意思表明と準備行為があれば敵国の基地を攻撃可能との見解を示した。「(ミサイルに)燃料を注入し始めた、準備行為を始めたような場合は(攻撃の)着手と言うのではないか」と語った。

日本のミサイル防衛は発射後に迎撃するシステムで対応する。イージス艦の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)と地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)の2段階で撃ち落とす。

政府・自民党にはイージス・アショアを含めても迎撃システムへの限界論があった。北朝鮮が低高度で変則軌道を描くミサイル、中国は極超音速ミサイルを開発している。

小谷氏は「一般的に守るよりも攻撃する能力を持つ方がコストは下がる。既存のミサイル防衛システムと合わせて能力を持ち、米国や韓国と協力するのが有効だ」と分析する。

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