トランプ氏の対中批判は本物か(The Economist)

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2020/6/30 0:00
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トランプ米大統領は6月20日と23日に開いた選挙集会で、中国共産党を激しく批判した。新型コロナウイルス感染症のことを3回も「カンフルー(中国武術のカンフーとインフルエンザを組み合わせた造語)」と呼んだのだ。

6月20日の選挙集会でトランプ氏は中国共産党を酷評したが、ボルトン氏はトランプ氏の対中政策は弱腰だと批判する=ロイター

6月20日の選挙集会でトランプ氏は中国共産党を酷評したが、ボルトン氏はトランプ氏の対中政策は弱腰だと批判する=ロイター

3月にはもっとソフトに「中国ウイルス」と表現した(それでも当時は衝撃的だった)が、今回はそれをさらにエスカレートさせた。トランプ陣営のスローガン「米国を再び偉大に」の下に集まったマスク未着用の支持者を前に、トランプ氏は「新型コロナ感染症は間違いなく、歴史上のどの病気より多くの名前を持っている」と前置きした上で、この造語を披露し、大喝采を受けた。もっとも、トランプ氏はいわれるほど対中国強硬派ではないことが多くの人に露呈しつつある。

■トランプ氏の最大の関心事は自らの再選

ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)が6月23日に出版したホワイトハウスの暴露本「それが起きた部屋」は、トランプ氏の対中強硬姿勢は虚構で、それが崩壊していく様子を詳細な証拠をもって冷静に描いており、ゆえに説得力を持つ。強気な中国に自分は強硬姿勢で臨むとトランプ氏が明らかにしたタイミングはよかった(そう主張したのはトランプ氏が初めてではなかったが)、とボルトン氏は書いている。米国は中国に毅然と立ち向かうべきだとする見方は党派や省庁の枠を超えてかねてあり、トランプ氏がその思いを「はっきりと言葉にした」だけだった。ただ、トランプ氏のその取り組みは就任当初から本気とは思えない言動や矛盾に満ちており、どうみても彼にとっては自滅行為ばかりだった。

それでなくてもトランプ政権の政策が日々大きく変わる中で、ムニューシン財務長官などの親中派と、ライトハイザー通商代表やナバロ大統領補佐官(通商担当)といった対中国強硬派が少しでも幅を利かせようと張り合い、政権運営の混乱に拍車をかけたことも対中国政策に打撃を与えた。だが、打撃を与えた主因はトランプ氏にある。ボルトン氏によれば、中国が経済システムを自国に都合よく操ることに対し、トランプ氏がそれを何とか変えようという情熱も、それに必要な忍耐心を見せることもほぼなかったという。習近平(シー・ジンピン)国家主席が独裁色を強めても、それを抑える気はなく、むしろ称賛した。トランプ氏が習氏に、100万人ものウイグル族を収容施設に拘束するのは「全く正しい」としたのは一度だけではない(トランプ氏が習氏に「あなたは中国史上最も偉大な指導者だ」とこびをうる姿は、見る者には極めて恥ずかしいものだった)。

ボルトン氏によると、トランプ氏の唯一の関心は、いかに内容が薄かろうとも自身の支持層に勝利としてアピールできる米中貿易協定を締結することだった。時がたつに従いトランプ氏はこれを交渉の場でもはっきりと口にするようになった。ボルトン氏は、トランプ氏が習氏に米国産の大豆や小麦をもっと購入することで自分の再選が「確実になるようにしてほしいと懇願した」と書いている。パンデミック(世界的大流行)が起きる前にトランプ氏が中国に貿易戦争を仕掛けたのは、自らの大統領選のためで、それによって米国では推計30万人の雇用が失われた。

同じく関税に悩まされていた中国は、米国がその程度で手を打とうとしたことに驚いたに違いない。今年1月に署名された米中貿易協議「第1段階の合意」をトランプ氏が切望していたことを考えると、中国が合意の履行を逃れられる可能性は常にあった。中国は年末までに米国からモノやサービスを2110億ドル輸入することになっているが、案の定、今の状況では目標を達成できそうにない。ナバロ氏が22日、米FOXテレビのインタビューでこの合意は「もう終わっている」と語ったくらいだ。これに対し、トランプ氏はツイッターで、中国との合意は「全くの無傷だ」と反論した。

米政治の議論を品のないものにおとしめたトランプ氏の言動は、社会学者で上院議員だった故ダニエル・パトリック・モイニハン氏がまさに指摘していたところの「逸脱という定義をさらに下げる」行為だとみられてきたが、トランプ氏の中国への"強硬姿勢"という定義の内容もますます水準が下がっている。

トランプ氏の通商政策が打撃を与えたのは、米国の農業や製造業だけではない。ボルトン氏によれば、トランプ氏は貿易交渉で合意が危うくなるのを恐れ、中国企業による不正を封じるための米政府による日常的な法の執行にも介入した。違法取引をした中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)への制裁阻止はその一つだ。米国の同盟国はこうしたトランプ氏の一貫性のない行動に「落胆、混乱した」が、中国は勇気づけられたようだ。パンデミック中やそれ以外の場面での中国の強気な姿勢を見る限り、トランプ氏が同国に経済モデルや世界への影響力の及ぼし方を再考するよう力を発揮した跡はうかがえない。

■再選されたら「台湾を見捨てる」ことも

トランプ氏の対中姿勢でいいことが言えるとしたら、もっとひどい事態には至らずにすんだという点だ。米中関係は冷え込んでいるが、多くの人が恐れたほどは悪化せず、一定の関係は維持している。それは、中国が最も神経をとがらせている戦略上の問題にトランプ氏の関心がほぼないことが間違いなく助けとなっている。同氏が再選を果たしたら、台湾を「見捨てる」ことは十分あり得るとボルトン氏はみている。

もう一つの救いは、中国を大統領選の武器にするトランプ氏の試みが失敗しつつある点だ。世論調査では、民主党候補のバイデン前副大統領は中国への対応でも総合的な支持率と同様にトランプ氏を7ポイントリードしている。自らを対中強硬派と定義し、バイデン氏を「北京バイデン」と呼んで弱腰のレッテルを貼ろうとしたが、米国民の関心はもはやコロナ禍など他の問題に移ってしまっている。

欧州連合(EU)がコロナ感染拡大が深刻な米国からの渡航禁止措置の継続を検討している今、トランプ氏が2月に中国からの渡航者の入国を禁じたことなど誰も気にしていない。ボルトン氏が指摘するように、トランプ氏の対中政策が今の米国の惨状の一因であるならばなおさらだ。ボルトン氏は24日、米CNNテレビとのインタビューで「トランプ氏は(新型コロナについて)耳にしたがらなかったし、習近平氏の悪い話や自身が進める"素晴らしい"米中貿易協定に悪影響を及ぼす恐れのある中国経済の悪い話などは一切聞こうとしなかった」と主張した。

■「国益」を「読み誤る」底割れを起こした大統領

トランプ氏の対中姿勢でいい点があったとすれば、その第3は中国との対決姿勢を鮮明にすべきだとする民主・共和両党の熱意に陰りがない中で、中国にどう対応してはならないかという反面教師になってくれた点だ。トランプ氏の支持率が下がるほど、政治家はその教訓を生かしつつある。トランプ氏が17日に渋々、署名したウイグル人権法はほぼ全ての共和党議員が支持した。チベット自治区での人権や信教の自由を支援する超党派の法案も可決され、法制化が進む。一方、3カ月前に左派の保護主義者らとトランプ氏から対中強硬路線を打ち出すよう促されたバイデン陣営の選挙運動は、ここへきて中国には慎重な姿勢を見せている。

中国についてバイデン氏に助言するあるベテラン顧問は、米国が強みとする競争力を見極め、そこに投資していく方針だと説明、米国の経済や同盟関係、民主主義的価値観を大事にするという。これでは漠然としており、しっかりした対中政策が導かれるか判断できない。バイデン氏はこの数十年、何度も外交政策を間違えてきた。だがトランプ氏は外交面でも底割れを起こし、国益を「読み誤る」ことまでも普通のことにしてしまった。それに比べれば同顧問の発言内容は、非常にまともに聞こえる。

(c)2020 The Economist Newspaper Limited. June 27, 2020 All rights reserved.

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