身近になったチャイナテック~日本より先行、是々非々で利用を

2020/6/29 10:40
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中国発のイノベーションが日本で急速に普及してきた。感染症対策の広報や小中学校の教材など、社会の運営に欠かせない領域でも利用が広がっている。日本の技術やサービスに比べ、使いやすさや品質が優れている例が増えてきたからだ。安全保障上のリスクが拭えない「チャイナテック」とどう付き合うべきか、日本社会は真剣に考える時期を迎えている。

TikTokで牛乳の消費を呼び掛ける北海道の鈴木直道知事

顧客は買いたい商品の画像を入力すれば瞬時に在庫状況を検索できる(東京・北のニトリ赤羽店)

小学校のプログラミング教育に使うメイクブロックのロボット

「牛乳チャレンジですか」「うまい!」。北海道は5月25日、鈴木直道知事がコップ1杯の牛乳を飲み干す動画を「TikTok(ティックトック)」で公開した。新型コロナウイルスの流行による学校給食の休止などで、北海道産牛乳の需要が減っているためだ。

TikTokは中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)が国外で提供する動画投稿アプリ。道は4月、牛乳の積極消費を訴えるキャンペーンをユーチューブとツイッターで始めたが、これにTikTokを追加した。

北海道のほか東京都、大阪府など21自治体がTikTokの公式アカウントを開設済みで、コロナ危機下で外出自粛要請などの動画を発信した。中央官庁でも厚生労働省が正しい手洗い、スポーツ庁が自宅での運動推奨などの動画を流した。

TikTokは2017年に日本版の提供が始まり、女子高生など若者の定番アプリに育っていた。さらに「複雑な内容も直感的に伝えられる」(バイトダンス日本法人)動画の特長が生き、官公庁の広報手段のひとつに定着しつつある。

中国のイノベーションは米中摩擦の最大の焦点だ。米政府は中国のIT(情報技術)機器・サービスからの情報漏洩を疑い、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)には制裁を科している。

日本も米国の意向を受け、次世代通信規格「5G」では中国製基地局を事実上排除している。しかし、中国のイノベーションは消費者のより近くに、幅広く浸透してきた。

「『STEAM教育』の総合プロバイダーという経営目標に衝撃を受けた」。東京大大学院の山内祐平教授は4月から、中国のスタートアップ企業、メイクブロックの教育用ロボット使い、小中学校のSTEAM教育の研究プロジェクトを始めた。

STEAM教育とは、理数系の学問や芸術を組み合わせて課題解決力を養う教育を指す。教材に初歩的なプログラミングで動くロボットを使うことが多い。日本製もあるが、世界のSTEAM教育の潮流を意識していない例が目立つという。

140カ国・地域で納入実績を持つメイクブロックは「世界的な視野でロボットを開発している」(山内教授)。すでに日本でも大阪市の公立小60校以上などで採用実績がある。20年度から小学校でプログラミング教育が必修となったため、採用はさらに増えそうだ。

日中間のビジネスでは長年、先に経済成長した日本の企業が輸出や工場進出で中国を開拓するパターンが続いた。10年ごろから、中国側が技術・ブランド力のある日本企業を買収する例が出てきたが、最近は多くない。

「中国側が技術を供与する提携など、直接投資の統計に表れない日本進出が増えている」。桜美林大学の雷海涛教授はこう分析する。中国の方が技術力で先行し、日本に存在しない技術・サービスを提供する提携が増えてきたとの見立てだ。

ニトリホールディングスが19年8月に運用を始めた商品検索アプリが好例だ。スマートフォンに商品の画像データを入力すれば、どの店舗にあるかなどを瞬時に検索するシステムを中国のネット通販最大手、アリババ集団のクラウドサービスを使って開発した。

人工知能(AI)で画像を解析し、ネット検索する仕組み自体は珍しくない。ニトリは日米のIT大手の類似技術と比較し、「在庫情報との連携などでアリババが格段に優れている」(O2O推進室の岡本孝正氏)と判断して採用を決めた。

顧客のほか、全国で約450店舗の店頭に立つ従業員もシステムを利用し、検索回数は週に数万回に達している。アリババが中国の膨大なネット通販で蓄積した商品管理のITを使うことで、店舗運営を効率化できた。

中国のイノベーションを新規事業の開拓に生かす企業もある。中堅住宅会社の大倉(大阪市)は19年11月、あらゆるものがネットにつながる「IoT」事業を手がける中国のスタートアップ、杭州塗鴉信息技術(Tuya)と提携した。

Tuyaはエアコンなど家電を手軽にIoT化できるモジュール(複合部品)などを手がける。大倉はまず、Tuyaの技術を標準装備したスマートハウスを千葉県習志野市、和歌山県橋本市で相次ぎ発売する計画だ。

スマートハウスを手がける住宅会社は多いが、TuyaのIoT技術はリフォームの際に組み込みやすい柔軟性もあるという。大倉はTuyaのIoTを装備した住宅オーナーの会員組織をつくり、「関連のネットサービスに事業を広げる」(清滝静男会長)方針だ。

経済性も加味すると、日本社会がイノベーションの利用で「チャイナフリー」を貫くのはもはや困難だ。安全保障や政治のリスクは意識しながら、是々非々で使っていくのが現実的な選択だろう。(アジアテック担当部長 山田周平)

コロナ禍が招いた「新しい日常」の中で生き残るために、企業はこれまで経験したことのない「破壊的な創造」に挑むことになる。イノベーションを起こし続ける力を持つ企業や人材が育つ国に日本をリ・デザインするには何を変え、何を守るべきなのか。日本を代表する企業だけでなく、中小企業や海外の企業の動向なども検証し、その方策を探っていく。

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