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鳴くまで待とう新助っ人 見切るのはまだ早い
野球データアナリスト 岡田友輔

2020/6/29 3:00
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待ちに待ったプロ野球が開幕した。試合日程が過密になる今季は外国人選手の1軍登録枠が4人から5人に増え(ベンチ入り枠は4人)、いつにも増して助っ人の出来がペナントレースを左右しそうだ。

開幕前には「バースの再来」と持ち上げられ、開幕後は「崖っぷち」と酷評される阪神・ボーアだが…=共同

開幕前には「バースの再来」と持ち上げられ、開幕後は「崖っぷち」と酷評される阪神・ボーアだが…=共同

ファンやマスコミは新外国人の当たり外れを巡り、早くも一喜一憂している。中でも目まぐるしいのは阪神のジャスティン・ボーアだろう。米大リーグ通算92本塁打の看板を引っ提げて来日した4番候補は春先の実戦では振るわなかったが、6月の練習試合で3試合連続本塁打を放ち「バースの再来」と持ち上げられた。しかし開幕3連戦で無安打に終わると「崖っぷち」に評価は一変。しかしその後、2試合連続安打という「復調の気配」を見せたため、低調な打線に「希望の光をもたらす」との見方も出始めている。

今年の助っ人は当たりか外れか。こんな質問を受けることがあるが、データ分析の立場からすると、現段階では評価のしようがないというのが正直なところだ。開幕10試合程度ではデータが少なすぎて、どんな数字も信頼できないのである。

サンプル増加で「実力」がみえてくる

分析対象となるデータ量を「サンプルサイズ」と呼ぶ。サンプルが少なければ偶然の要素が大きく、数字が選手の実力を示しているとはいえない。開幕戦で4打数3安打だったからといって、その選手を「7割打者」と考える人はいない。たまにショートリリーフでめった打ちにされ、草野球でもあり得ない防御率になる投手がいるが、登板が増えれば常識的な水準に落ち着いていく。

ではどの程度のデータが蓄積されれば、その数字は信頼に値するといえるのだろうか。これはアンケート調査などの信頼性を測るのに使う「クロンバックのα係数」という統計学の考え方を使って算出できる。統計に基づくセイバーメトリクスでは様々な成績について、半分以上が選手の実力によって説明できると見なせるサンプルサイズをはじき出している。サンプル数がそれ以上であれば、ツキや巡り合わせなどの"ノイズ"よりも実力の比率が大きくなるため、数字はそれなりの信ぴょう性を持つと考えられる。

必要なサンプルサイズはどれだけの要因が絡むかによって変わる(表を参照)。例えば三振率はバッテリーと打者だけで完結するため、少ないサンプル数でも傾向をつかめる。打者なら60打席、投手なら打者70人との対戦があれば、半分以上は実力による結果と考えていい。ゴロと飛球、どちらが多いタイプの打者(または投手)かについても、三振や四死球を除くインプレーの打球が70~80あれば判断できる。

対照的に、簡単に結論が出ないのは打球の結果に関するデータだ。例えば左中間へのライナーが凡打、単打、長打のいずれになるかは、打者の脚力や打球スピード、外野手の守備力、球場の広さや気象条件など多くの要素の影響を受ける。会心の当たりが美技に阻まれることもあれば、打ち損ないがポテンヒットになることもある。長打率なら320打数、出塁率なら460打席で初めて実力の要素が半分以上になる。

打率は偶然性に左右されやすく

実力との乖離(かいり)が最も生じるのは打率だ。ノイズを半分以下に減らすには910打数も要する。1シーズンを戦い終えてもなおノイズの比率が実力を上回るということだ。候補者が絞られる本塁打王や打点王に比べ、首位打者が最も予想しにくい理由もここにある。生涯打率2割7分9厘の嶋重宣西武2軍打撃コーチは広島時代の2004年に3割3分7厘でタイトルを獲得する"番狂わせ"を演じた。首位打者争いではこれに似たことが時々起きる。オリックス時代のイチローは7年連続と不動の首位打者だったが、彼はむしろ例外で、不確定要素にも揺るがない別次元の安打製造機だった。

偶然の要素が大きいのは打率に限ったことではない。巡り合わせがものをいう投手の勝ち負けはその典型だし、防御率にしても相手打者や味方守備のレベルによって大きく変動する。首位打者同様、最多勝や勝率、防御率のタイトル争いも偶然の影響を大きく受ける。

強調したいのは、そんな不確実性が見るスポーツとしての野球の魅力を損なうよりも高めているということだ。毎年、最も実力のある選手がタイトルを独占し、本命のチームが優勝し続けるペナントレースなど大して魅力がないだろう。実力を前提としながらも、それだけでは決まらない。必然と偶然のバランスが絶妙だからプロ野球は面白いのだ。

外国人に話を戻せば、彼らは言葉も習慣も違う異国の地で、初対戦の相手たちと戦っている。海外赴任したビジネスマンでも、日本と同じパフォーマンスを発揮できるようになるには相応の時間がかかるだろう。持ち上げるにしろダメ出しするにしろ、開幕10試合ではサンプルサイズが小さすぎる。ここまでの結果が全く無意味とはいわないが、活躍できると見込んで大枚をはたいた助っ人の真価が分かる前に見切りをつけてしまうのは早計にすぎるというものだ。

ゲートが開いて100メートルも行かないうちに馬券を破り捨てる競馬ファンはいない。宝くじの上1桁が1等の番号と違っても、外れと決まったわけではない。一喜一憂するファン心理は理解できるが、長い目で見守る意識も頭の片隅においておいてほしい。

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