民泊窮地「お客戻るのか…」 コロナで訪日客消滅

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ドキュメント日本
2020/6/28 2:00 (2020/6/28 15:36更新)
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観光立国の担い手として期待された「民泊」の物件数が初めて減少に転じた。厳しい規制に応え訪日外国人を受け入れてきたオーナーたちを新型コロナウイルスが直撃し、廃業が相次ぐ。民泊を解禁する新法施行から2年が過ぎた。東京五輪の活況を当て込んだ物件は今、静まり返っている。(植田寛之)

名古屋駅から地下鉄と徒歩でおよそ30分。名古屋市名東区の小高い丘にあるマンションで、民泊オーナーの小川茂徳さん(58)が感染予防を求める紙を壁に貼った。「今後、この紙を見るお客さんが現れるのか……」

2019年11月に3室を民泊としてオープンしたが、新型コロナの感染が拡大した3月以降の利用客はゼロのままだ。問い合わせの電話すらない状況が続く。小川さんは「民泊を通じ多くの人とふれ合いたかった。さまざまな基準をクリアして、ようやく営業を始めたのに」と嘆く。

戸建てやマンションなどの住宅に有料で客を泊める民泊は18年6月施行の住宅宿泊事業法(民泊新法)で解禁された。宿泊客のマナーやトラブルに対する近隣住民らの懸念は根強く、新法の規制は厳しい。小川さんはそれに対応し、もともと所有していたマンションに自動火災報知機や避難用のスロープを設けた。老朽化した壁紙や床を張り替え、初期費用は総額で200万円かかった。

滑り出しは好調だった。京都や飛騨高山へ観光に向かう拠点として多くの中国人が利用し、予約は5月まで埋まっていた。だが新型コロナの感染拡大で全てキャンセルに。19年12月に月50万円あった売り上げが消え、清掃・管理関連で月20万円の出費は続く。光熱水道費の基本料もかかる。

観光庁によると、民泊は解禁から1年で1万6000件を超え、今年4月には2万1385件に増えた。しかし新型コロナによる訪日客の急減を受け、5月は約200件減と新法施行後、初めてマイナスとなった。6月もさらに減り、11日時点で2万766件に。1~5月には1912件が廃業している。

民泊事業者などでつくる一般社団法人「日本民泊協会」(大阪市)の大植敏生代表理事は「公的な給付金が行き渡らず、個人オーナーの休業や廃業が相次いでいる」と指摘する。

会員登録をしている民泊のうち、もともと所有する物件を活用した個人が3~4割を占める。個人オーナーの多くは民泊で得た利益を自身の雑所得として申告しており、事業収入が急減した中小企業の支援を目的とする「持続化給付金」の対象に含まれない。

五輪・パラリンピックの延期もあり、観光客の呼び込みを諦め、格安の月決めマンションに業態を変えるケースも出ているという。東京都の民泊運営代行業者は「五輪特需を見込んで参入した事業者が、借金返済のために採算度外視で貸し出している」と明かす。

5月上旬、小川さんの自宅を活用した愛知県春日井市の民泊に意外な客が訪れた。付近の住民たちだ。庭でバーベキューや花火をしながら、思い思いに過ごした。小川さんは「近所から歓迎されていない民泊もあるなかで驚いた」と振り返る。

期待と懸念が交錯するなか、鳴り物入りで解禁された民泊。コロナ禍で前提が狂い、早くも危機を迎えた。このまま先細るのか、新たな形が見いだされるのか。3年目の民泊は霧の中にある。

▼トラブル懸念、規制厳しく
 住宅宿泊事業法(民泊新法)を制定した背景には、旅館業法の許可を受けず営業する「ヤミ民泊」が広がっていたことがある。施行以前は騒音やゴミ出しなどで近隣住民とのトラブルが相次いだ。不特定多数の人が出入りし、犯罪の温床になりかねないとの懸念もあった。
 このため新法は規制を厳しく設定した。届け出に10種類以上の書類をそろえ、消防法に適合しているかどうか検査を受ける必要もある。これらハードルの高さが民泊の伸び悩みを招いているとの指摘もある。
 採算が取りにくいとの声も上がる。全国8自治体の特区民泊を除き、民泊新法は営業日数の上限を年間180日と定めている。条例で設置エリアや営業日を制限している地域もある。
 地方での広がりが乏しいのも課題だ。所在地別では東京と大阪が民泊全体のおよそ半数を占め、福井や鳥取などは20件を下回る。農業体験といったイベントと宿泊を組み合わせた地方の民泊などは集客が期待されていたが、普及は道半ばだ。
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