パレスチナ、遠のく2国家共存 イスラエルが一部併合計画
【イスタンブール=木寺もも子】イスラエルはパレスチナ自治区の一部併合に向けた法制化の手続きを7月1日にも始める。既に事実上の支配を確立しているが、将来のパレスチナ国家となるはずだった領域の法的な併合宣言は「2国家共存」による中東問題解決の道を閉ざしかねない。

「併合は国際法違反だ」。22日、パレスチナ自治区エリコで、パレスチナ解放機構(PLO)が主催する抗議集会が開かれた。現地メディアによると参加者は今年最大規模の数千人に上り、国連や欧州連合(EU)の現地代表らの姿もあった。
イスラエルの右派与党リクードを率いるネタニヤフ首相は5月、新政権を発足させた。その際、中道連合「青と白」との連立合意で、パレスチナ自治区の一部に主権を適用する立法手続きを7月1日から始められるとした。同氏は「(イスラエル建国の)1948年以来の歴史的な機会を逃すわけにはいかない」と併合に意欲を示す。
対象は67年の第3次中東戦争で占領したヨルダン川西岸の約3割にあたる地域とみられる。国際社会が違法とみなしてきたユダヤ人入植について、トランプ米政権が2019年に「合法」と方針を転じたのがネタニヤフ氏の後押しになった。
将来のパレスチナ国家の領土と想定される土地を編入すれば、93年のオスロ合意で定めた領土交渉の余地は消え、合意は完全に崩壊しかねない。西岸地区をイスラエル領に囲まれた陸の孤島にすることにもなり、住民の苦境は深まる。
和平プロセスは停滞して久しいが、オスロ合意は長く中東の火種だったパレスチナ問題を「2国家共存」の原則で解決する枠組みだ。パレスチナ自治政府のアッバス議長は5月、併合案に猛反発し合意離脱を宣言した。
国際社会は「現代のアパルトヘイト」とも批判される併合の動きをけん制する。ヨルダンのアブドラ国王は16日、米議員らとのテレビ会議で「併合は地域の安定を危険にさらし、到底受け入れられない」と訴えた。フランス、ドイツもイスラエルに自制を求めている。
トランプ政権はこうした反発を受け、ネタニヤフ氏に併合を急がないよう求めているとされる。11月の米大統領選の結果によっては米国の対イスラエル政策が再転換する可能性もある。イスラエル国家安全保障研究所のコービー・マイケル上級研究員は「当初は小規模な主権拡大から着手するのではないか」とみる。
パレスチナ側には、将来の大規模併合に道を開くとの危機感がある。イスラエルによる入植は、国際的な批判を受けつつ既成事実になった。イスラエルの併合に対しEUやアラブ諸国が自制を求めることはあっても、阻止するために強硬手段に出ることは考えにくい。
自治政府主流派のファタハ幹部、ハゼム・アブシャナブ氏は「あらゆる手段で対抗する。過去のような大規模な反イスラエル闘争(インティファーダ)も当然、選択肢だ」と警告する。過激派が勢いづき、テロや武装蜂起とイスラエルの反撃の応酬に陥る恐れもある。