香港国家安全法が施行 何が狙い、なぜ問題?

香港デモ
中国・台湾
2020/6/30 5:46 (2020/7/1 8:53更新)
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中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は30日、香港での反体制活動を禁じる「香港国家安全維持法」に署名し公布した。香港政府は同日夜施行した。中国による統制強化は、香港の発展を支えてきた高度な自治権と法の支配を揺るがし、拠点を置く日本企業にも影響しそうだ。香港の歴史を振り返りつつ、法案の狙いと問題点を解説する。

■中国政府の狙いは?

行政・立法・司法それぞれで香港への影響力を強めることだ。中国政府は過激な抗議運動を直接取り締まることも視野に入れる。民主派の立法会(議会)選挙への立候補を一段と制限し、政治的な締め付けを強める狙いもある。香港は外国籍の裁判官が多く「司法の独立」が担保されてきたが、国家安全法案に絡む事件を審理する裁判官は、香港政府トップの行政長官が指名する。外国籍の裁判官が排除され、判決が常に中国寄りになる懸念がある。

■国家安全法の内容は?

中国政府は治安維持機関として香港に「国家安全維持公署」を設置する。香港政府が行政長官をトップとして設立する「国家安全維持委員会」の監督・指導にあたる。中国政府はさらに同委に顧問を派遣する。新法には「香港の他の法律と矛盾する場合、国家安全法が優先される」との規定も盛り込まれている。

■民主派からみた問題点は?

国家分裂など4つの処罰対象の定義が曖昧な点だ。若者たちがデモで訴える「香港独立」の主張や中国共産党への批判、欧米に中国への制裁を求めるといった活動が違法とみなされる恐れがある。言論の自由や人権が軽視され、一国二制度の根幹が揺らぐ。

■そもそも香港の「高度な自治」とは?

1997年に香港が英国から中国に返還された際、高度な自治を保障する「一国二制度」が導入された。憲法にあたる香港基本法は、香港政府に行政管轄権や立法権、独立した司法権を与えている。言論や報道の自由も認められ、市民は基本法が約束した自由や権利を訴え続けてきた。

2003年には「国家安全条例」、19年には刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡せるようにする「逃亡犯条例」改正案をめぐって、大規模なデモが起きた。香港政府はいずれの条例も撤回に追い込まれた。

■海外の関心はなぜ高いのか?

香港は中国と世界を結ぶアジアの金融・ビジネスセンターとしての役割を果たしてきたからだ。中国への直接投資の7割は香港を経由し、香港には多くの外資系企業が進出している。

国家安全法案は、国籍や人種を問わず、外国人も処罰対象となりうるとの指摘がある。このため、香港でのビジネスやそこに住む外国人への影響を懸念する声が海外で広がっている。結果的に、香港も一国二制度のもとで享受していたメリットを失い、外資マネーを引き付けられなくなるリスクが高まりかねない。

■日本と香港の関わりは?

経済活動や人的交流で深い結びつきがある。19年6月時点で香港に拠点を置く日本企業数は1413社と中国企業に次ぐ多さで、香港の在留邦人は2万5千人超に上る。日本産農林水産物の輸出額は国・地域別でトップだ。香港からの訪日客は229万人に上り、約3人に1人が訪日している計算になる。

■日米欧は対中批判の姿勢を強めている

日米欧の主要7カ国(G7)の外相は17日の共同声明で、国家安全法の制定を急ぐ中国に「重大な懸念」を示した。ただ中国への反発の度合いはそれぞれ異なる。トランプ米政権は26日に香港問題に関わる一部の中国共産党員へのビザ発給の規制を発動すると発表したのに続き、29日には香港に認めてきた軍民両用技術を輸出する際の優遇措置を取りやめるとした。日本や欧州連合(EU)は対中制裁に距離を置く。世界貿易における中国の存在感の大きさなどが背景にある。民主化を求める学生を中国当局が武力で鎮圧した天安門事件を機に、海外が一斉に制裁に踏み切った1989年とは、状況は異なっている。

(白岩ひおな)

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