一瞬の夏に思いぶつける コロナ禍の高校生(IN FOCUS)

IN FOCUS
2020/6/27 2:00
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「なぜ今年なのか」。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、甲子園で開催される春夏の高校野球大会や全国高校総合体育大会(インターハイ)などの中止を受け、高校3年生の言葉が重く残る。大きな目標を失った彼らが、「一瞬の夏」に最後の思いをぶつける。

■限られた時間 無駄にしたくない

「ぼうぜんとして何も手につかなかった」。夏大会の中止が決まった5月20日、都立小山台高校(東京・品川)野球部の上江洲礼記主将は天を仰いだ。心の整理が付かない日々。限られた時間の中で何ができるか、書き続けた野球日誌で自問自答した。

6月15日、都教育委員会のガイドラインに基づき、約3カ月半ぶりに部活動が再開した。授業終了のチャイムが鳴ると、駆け足でグラウンドへ向かう。練習時間は約30分。班に分かれて送球、素振り、ノックなど5分5セットのメニューを全力でこなした。

「俺たちはもうすぐ引退だ」「キャッチボールをしている1球 ノックをしている1球が最後に向かっていく」。最近、日誌につづった。30分という時間でも、仲間と顔を合わせて野球ができる。昨年まで2年連続で東東京大会準優勝。代替大会では優勝旗を持ち帰り、完全燃焼の場にする。

グラウンドを整備する茨城県立石岡第一高校野球部員ら(16日、茨城県石岡市)

グラウンドを整備する茨城県立石岡第一高校野球部員ら(16日、茨城県石岡市)

神奈川県の黒岩祐治知事に送られた、県内の野球部員たちの約300通の手紙。神奈川県での代替大会開催を求めて直筆で思いが書かれていた。各高校の手紙のとりまとめ役を担った慶応義塾高校野球部の森林貴彦監督は「何もしないで待っているより、主体的に何かできないかと他チームの監督や選手たちと議論した。少しでも代替大会の開催にプラスに働いたのならうれしい」(15日、横浜市中区)

神奈川県の黒岩祐治知事に送られた、県内の野球部員たちの約300通の手紙。神奈川県での代替大会開催を求めて直筆で思いが書かれていた。各高校の手紙のとりまとめ役を担った慶応義塾高校野球部の森林貴彦監督は「何もしないで待っているより、主体的に何かできないかと他チームの監督や選手たちと議論した。少しでも代替大会の開催にプラスに働いたのならうれしい」(15日、横浜市中区)

一足早く再始動した茨城県立石岡第一高校の野球部員たちは6月中旬、約3カ月ぶりの練習試合に臨んでいた。時折小雨が降る中、主将の古屋健太郎さんはグラウンドを踏みしめる。前半は快調に打球音が響いたが、その後相手の打撃に崩され、この日は2試合とも敗戦した。

「得点できるところで、うまくいかない」。古屋さんは久々の試合を終え、自分を含めたメンバーの動きに違和感を覚えていた。「時間がない。相当な練習が必要だ」。ベンチ前で同級生を鼓舞する。7月11日には県独自の大会が始まる。

本気で甲子園を目指してきた。「今までやってきたことは絶対無駄になっていない」。古屋さんはマウンドを見つめた。

■人生が変わってしまった

競泳でインターハイ男子総合3連覇中の日大豊山高校(東京・文京)では、3月以降、校内のプールの水は抜かれたままだ。昨年、200メートル平泳ぎで入賞を逃した藤田大翔さんは、「(大会中止で)人生が変わってしまった。進路にも影響が及びそうだ」と話す。

今年は表彰台を目指してきただけに悔しさがにじむ。学校で再び泳げるのは7月以降になる見込みだが、今夏の開催に向けて調整中の記録会が、いちるの望みだ。部活動の休止期間中はオンラインで監督やコーチが指導する筋力トレーニングなどに励んできた。それでも筋力は落ち体重も減った。

部活が休止となった3月以降、水が張られていない屋内プール(10日、東京都文京区の日大豊山高校)

部活が休止となった3月以降、水が張られていない屋内プール(10日、東京都文京区の日大豊山高校)

6月初旬からは休業要請が緩和され、再開した古巣のスイミングスクールで週3回泳ぎ込む。ほっとできる場所だ。泳ぎの形や「水の感覚」を戻すのは簡単ではないが、幼稚園の頃からずっと泳いできた。「最後は成長した姿を見せられるかな」

自宅で個人練習をする八王子学園八王子高校吹奏楽部の生徒。防音のため楽器に布をかぶせ、じゅうたんの上で演奏する(17日、東京都小平市)

自宅で個人練習をする八王子学園八王子高校吹奏楽部の生徒。防音のため楽器に布をかぶせ、じゅうたんの上で演奏する(17日、東京都小平市)

■このまま終わりたくない

全日本吹奏楽コンクールも5月、中止が発表された。例年金賞を目指す八王子学園八王子高校(東京都八王子市)。2年前は全国で銅賞、昨年はあと一歩のところで全国への切符を逃した。「次こそと思っていたし、全力で青春をささげて吹けるのは今だけ」と、吹奏楽部の森照覚さんは目を潤ませる。

残念な思い出だけで終えたくないという気持ちで始めたのが「おうちで部活プロジェクト」。オンラインで合奏した映像を、4月から動画投稿サイト「ユーチューブ」に27回投稿した。部の紹介や曲のテーマを決めて取り組み、自宅で仲間とつながる場にもなった。

6月24日には2、3年生約100人が集まり、昼下がりの校舎に明るい音色が響き渡った。待ちに待った部活再開だが、7月上旬に控える定期演奏会までに合奏できる回数は少ない。それでも森さんは「皆で音を合わせるのは幸せ。一瞬の時間を大切に練習していきたい」とほほ笑む。

(文・写真 三村幸作、野岡香里那、映像 小倉広志、小口隼)

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