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「六甲おろし」歌えない コロナと共生する野球観戦

2020/6/26 3:00
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プロ野球が7月10日から観客を動員するのを前に、阪神が6月23日に甲子園球場でのオリックスとの2軍戦で、ファンクラブ会員228人を試験的に入れた。ジェット風船を飛ばすことも、六甲おろしを口ずさむことも、鳴り物主導で大観衆が一体となって応援することもできない一方、静寂の甲子園に響く球音に耳を傾ける新たな楽しみ方を発見したファンも多かったよう。新型コロナウイルスと共生可能な観戦スタイルはどんな形になるのか。

ジェット風船の使用禁止を伝える電光掲示板(23日、兵庫県西宮市の甲子園球場)

ジェット風船の使用禁止を伝える電光掲示板(23日、兵庫県西宮市の甲子園球場)

23日の甲子園は快晴で、観戦日和となった。あらかじめ阪神球団が兵庫県西宮市在住の子供を含むファンクラブ会員から募集し、約500人の応募から抽選で300人を招待。このうち、228人が実際に球場に足を運んだ。

検温はスムーズ、カメラの前を通るだけ

228人はバックネット裏の中段に隣の人と一定の間隔を空けて着席。球団によると、甲子園に5千人を入れた場合を想定した座席配置だそうで、隣席と3~5席程度を空けていた。来場者からは「だいぶ閑散とした印象だった」「連れ(夫)と5席も離れて座り、大声で話しかけるわけにもいかないので、一緒に観戦した感じがしなかった」「子供と一緒に来たときも離れて座ることになるのかが心配」といった感想が聞かれた。

来場者への検温はトラブルなく、スムーズに進んだ。入場口の天井に2台のカメラを設置し、1台で体温を測定し、もう1台で写真を撮影する。来場者は帽子を脱ぐ必要があるものの、立ち止まったり、マスクを外したりせず、普通に歩くだけでいい。カメラを通過すると係員のパソコンに来場者の写真と体温がセットで表示され、37.5度以上だとアラームが鳴る。来場者の中には「いつ検温されたのか気がつかなかった」という人もいたほどで、これなら検温でファンにストレスを感じさせることはないだろう。

来場者はチケットの半券を14日間保管するよう求められた。仮に観客から新型コロナの感染者が出た場合、近くの座席にいた人を素早く把握できるようにするためだ。実際、有観客になった際も、同じような対応が求められるかもしれない。

阪神ーオリックスの2軍の試合で、間隔を空けて試合を観戦する人たち(23日、兵庫県西宮市の甲子園球場)

阪神ーオリックスの2軍の試合で、間隔を空けて試合を観戦する人たち(23日、兵庫県西宮市の甲子園球場)

開門後は新たな観戦ルールやマナーについて場内アナウンスが繰り返し流れた。(1)ジェット風船やフラッグを使用しての応援(2)タオルを振り回す行為(3)声を張り上げての応援(4)観客同士のハイタッチ(5)鳴り物での応援――の5点が禁止行為としてオーロラビジョンに表示された。従来型の応援様式はほぼ禁止となった印象だ。

来場者は阪神のスタメン発表から試合終了まで主に拍手での応援に徹した。七回裏の阪神の攻撃前には普段通り六甲おろしが場内に流れたが、一部のファンが掲げたタオルを音楽に合わせて遠慮がちに上下するだけで、大半の人が座ったままメロディーに耳を傾けていた。

来場した男性会社員(36)は「七回のジェット風船の時にタオルでやってみたけど、盛り上がりに欠けた。むなしさがありました。見る側も楽しみ方を変えないといけないかもしれない」と漏らした。

甲子園名物、厳しいヤジもなし

この日は阪神打線が沈黙し5安打無得点。ただ、甲子園の手厳しいヤジが球場内に響くこともなかった。甲子園特有の応援文化が良くも悪くも一変し、「打っても拍手しかないし、正直さみしい」「鳴り物の応援も好きなので、やっぱりそういう応援もしたいと思った」との本音が聞こえた。

観客が音を出せないので、球音や選手の声はよく響く

観客が音を出せないので、球音や選手の声はよく響く

アルコールを含む飲食物はコンコース内の売店で販売され、ビールやチューハイの売り子もスタンドを巡った。ここは「コロナ前」と同じようだが、「素早く飲み食いして、すぐにマスクをした。周りで飲食している人がいると正直、気になった」と打ち明けた来場者も。場内アナウンスで「アルコールの過剰摂取はお控えください」との注意喚起もあり、ビールもどこか満喫できない雰囲気があるのは否めなかった。

従来型の野球観戦ができなくなった代わりに、静寂の球場内でこれまで耳にすることができなかった球音に新鮮さを感じたというファンも多かった。打球音や投球がキャッチャーミットに収まる時の音、選手たちの掛け声のほか、「斎藤君(斎藤友貴哉投手)が投げるときのうなり声も聞こえてきて迫力があった」(夫とともに観戦に来た47歳女性)。新たな観戦スタイルのキーワードは、プレーの「音」になりそうだ。

チケットの値上げはしない

東大卒の元プロ野球選手として知られ、ソフトバンク球団の取締役を務めた経験もある桜美林大の小林至教授(スポーツ経営学)も「すごい音がするので、最初は新鮮な驚きがあると思う」としたうえで「お客さんが音に慣れてくれば新鮮味がなくなる。やはり楽しいのはお祭り騒ぎ。みんなと一緒に楽しむ応援スタイルがファンの本来のニーズだと思う」と指摘。「今は将来に備えて色々なことにチャレンジするべきとき」と、客単価をもっと引き上げる方策を練るべきだと提言する。

隣と3~5席空けて座る観客。雑談もなかなかしにくい

隣と3~5席空けて座る観客。雑談もなかなかしにくい

観客を動員する当初は入場者を最大5千人程度に制限することが見込まれる。4万7千人程度を収容できる甲子園なら1人が9席分を使う計算で、23日の試合でも1席の価値が従来よりも格段に高くなったようにも映った。ただ、阪神球団の清水奨常務はチケットの値上げはしない方針を明言し、「1人あたりの購入枚数を制限することで、より多くの方々が購入できるように考えている」と話した。

「年間席の割合を多くすると、一般販売分がさらに少なくなってしまう。年間席の扱いをどうするかが最大の課題になると思う」と小林教授は指摘する。チケット販売で公平性をどう保つのか、各球団も悩ましいだろう。球団もファンも考え抜いた末に、観戦スタイルやチケット販売のあり方が大きく変わっていくかもしれない。

(田村城)

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