コロナで拡大「インスタ経済圏」 グルメサイト揺るがす

日経ビジネス
2020/6/29 2:00
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老舗会席料理「本家たん熊」もインスタグラムでテークアウトの注文受け付けを始めた。写真は「すっぽんの吸い物(5人前)」1万800円(税込み)

老舗会席料理「本家たん熊」もインスタグラムでテークアウトの注文受け付けを始めた。写真は「すっぽんの吸い物(5人前)」1万800円(税込み)

日経ビジネス電子版

インスタグラムがグルメサイトのポジションを脅かしている。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、インスタグラムがテークアウトの注文受け付けなど飲食店向け機能を充実させ、使い勝手が高まった。コロナ後の外食店経営は、コスト削減と来店頻度の高い常連客づくりが鍵になる。有料広告型のグルメサイトは、交流機能とネット通販機能を備えたインスタグラムに対し、有効な対抗軸を見いだせずにいる。

1928年創業の会席料理「本家たん熊 本店」(京都市下京区)は5月中旬、京都市内を対象にインスタグラムでテークアウトとデリバリーの受け付けを始めた。「料理を注文」ボタンを押せば、外部の予約システム「テーブルチェック」に遷移して注文できる。新型コロナウイルスで苦しむ外食店を支援しようと、インスタグラムが4月下旬に設けた新たな機能だ。

世間のインスタグラムのイメージは「若い層の利用が多い」。客単価が2万円程度で、客層の年齢が高めな本家たん熊の場合、どこまで効果があるか懸念はあった。いざ始めると杞憂(きゆう)に終わった。「50~60歳代の常連客が『インスタ見たよ』と買いに来てくれた」と若主人の栗栖純一さんは話す。実は、デリバリーは京都・祇園の花街に料理を届けるなどコロナ前から取り組んでいたが、インスタグラムで初めて知った常連客が少なからずいた。インスタ効果で、デリバリーとテークアウトの売上高は30%程度伸びているという。

■「#テイクアウト」投稿が25倍に

インスタグラムのデータを分析するテテマーチ(東京・品川)が顧客のアカウント約2万件を分析したところ、5月末時点の業種別件数は、アパレルが2108件とトップで、雑貨・小売りが911件、飲食は696件だった。

インスタグラム活用のアパレル先行は、ほかの数字を見ても明らかだ。アパレル業界による最初のインスタグラム投稿は2010年10月頃だった。これに対し、飲食は12年1月と遅れた。5月末の平均フォロワー数もアパレルが1万4583に対し、飲食は4234と大きく見劣りする。

インスタグラムには、投稿した衣料品や雑貨の写真をタップすると注文画面に遷移するなどアパレル通販向きの機能が備わっている。このほか、業界でおなじみの影響力があるインフルエンサーによる販促もあって、インスタとの相性が良かった。

これに対し、飲食業界は、グルメサイトがインターネット予約の受け皿になってきた。これも、アパレルに差をつけられた理由になっているようだ。

しかし、新型コロナはこうした景色を一変させた。テテマーチによると、「#テイクアウト」のフィード投稿数は、2月に比べて、3月が2倍超、4月は約20倍、5月が約25倍と急速に伸びた。テークアウト注文機能の新設はもちろん、ビジネス用アカウント開設が無料という点が大きい。

グルメサイトも「テークアウトが可能なお店の特集」を始めたり、利用料を一時的に減免したりした。しかし、平常時の利用料は1店舗につき毎月数万円から数十万円に上る場合がある。中長期的なコスト削減を見据えてインスタ活用を模索する飲食店が増えているようだ。テテマーチは「アパレルに遅れたが、飲食店のインスタ活用は今年秋頃まで拡大が続く」とみる。

■日本人は世界の3倍、「#検索」

日本でのインスタグラムの利用は、「#(ハッシュタグ)検索」が多いという特徴がある。「#検索」数はグローバル平均の3倍に上り、日本の利用者の4人に1人が利用している。「#渋谷ランチ」など実用的な口コミ検索のほか、「#グルメ好きな人とつながりたい」、「#グルメスタグラム」など趣味や好みが近い人を探す用途で使われている。

今まで食べログなどグルメサイトが担ってきた口コミ機能をカバーしているほか、お店とお客が直接つながって常連客づくりがスムーズになる効果も期待できる。本家たん熊の栗栖さんは、「いろんな立場からの口コミが氾濫するグルメサイトより、オフィシャルな正しい情報をインスタグラムで発信した方が、正しい店のブランドイメージをお客様に持ってもらえる」と話す。

インスタグラムを活用して、店舗と来店客のつながりを深めようとしているのが東京・渋谷のイタリアンバル「ura庭8528(ウラハコ)」だ。コロナ禍で来店しづらい常連客らを集めて「オンラインコミュニティー」を立ち上げた。

■「劇場型」の演出で親近感や一体感を高める

顧客がインスタグラムの「ギフトカード機能」で3000円程度の生パスタ(5食分)を注文して、コミュニティーの会員になる。会員はビデオ会議サービス「Zoom(ズーム)」や動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」などリモートツールでお店とつながることができ、おいしい調理法の解説を聞きながら、自宅に届いたパスタで料理を楽しむという流れだ。

ギフトカード機能を使うと、コロナで経営難に陥った外食店を応援する趣旨でクーポン券や優待券を来店前に購入できる。日本では5月12日に導入された。ウラハコは単に応援してもらうだけでは常連客との関係が長続きしないと考え、なんらかの楽しみを提供したいとコミュニティーの開設に思い至った。

コミュニティーの会員は200人超に上る。今後はフードトラック(移動型店舗)事業への進出に向けて試行錯誤する様子を動画で配信したり、いかにフードトラックを成功させるかについて会員に意見を募ったりするなど「劇場型」の演出も加えて親近感や一体感を高める戦略だという。

運営会社代表の羽田善行さんは、「新型コロナ後の飲食店は、多店舗展開がタブーになる。店舗数が少なくても客層に広がりを持たせるには、オンラインコミュニティーや実店舗、フードトラックの連携が有効になるはずだ」と、将来を見据える。

■「お店選び」への貢献では足りない

飲食業界が苦境に陥れば、グルメサイトも苦しくなる。業界トップの食べログの月間利用者数は3月末で1億647万人と12月に比べて約1200万人も減った。有料プランの契約店舗数も「営業活動が非常に行いづらく、閉店した飲食店もあり、増やしづらい状況」(運営会社のカカクコム)なため、伸び悩んでいる。

そんな中、独自の動きを見せてきたのがぐるなびだ。インスタグラムが18年に日本で導入した来店予約機能「席を予約する」と唯一連携しているほか、16年にトリップアドバイザー、18年にグーグルマップの店舗予約機能ともつながった。

グルメサイトの収入源は、店舗から得る掲載手数料と、インターネット予約の1件あたりにかかる手数料だ。存在感を高める海外のITプラットフォーマーと日本の外食店を仲介すれば、ネット予約手数料がぐるなびに入る。集客のための広告媒体というより、ネット予約システムを提供するIT会社としての役割を広げている。ただ、ネット予約システムは、冒頭のテーブルチェック(東京・中央)や、トレタ(東京・品川)、エビソル(東京・渋谷)など専業企業が少なくなく、インスタグラムもテークアウト機能の提携先を増やしている。米イエクスト(Yext)などプラットフォーマーとの連携を得意とする企業も出てきており、競争は激しい。

トレタによると、緊急事態宣言が全面的に解除された6月以降の全国外食店の来店人数は、第1週(1~7日)が前年同月比35.43%、第2週(8~14日)は39.63%、第3週(15~21日)は48.04%だった。5月最終週(25~31日)の25.3%より上向いたが、回復ペースは鈍い。

あえて行きたくなる店づくりや、来店しなくとも常連とつながれる仕組みづくりなど、「お店選び」を超えた付加価値を外食店に提供しなければ、グルメサイトの先細りは避けられない。

(日経ビジネス 鷲尾龍一)

[日経ビジネス電子版2020年6月25日の記事を再構成]

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