日産・内田社長の覚悟「革命なくして信頼戻らず」
内田誠日産自動車社長兼最高経営責任者(CEO)

日経ビジネス
2020/6/26 2:00
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1966年生まれ。91年に同志社大学神学部を卒業、日商岩井(現双日)に入社。2003年に日産に中途入社し、アライアンス共同購買部門に配属。新興国向けブランド「ダットサン」の収益管理責任者などを経て16年常務執行役員。18年専務執行役員。東風汽車有限公司総裁として中国事業を率い、19年12月から現職。

1966年生まれ。91年に同志社大学神学部を卒業、日商岩井(現双日)に入社。2003年に日産に中途入社し、アライアンス共同購買部門に配属。新興国向けブランド「ダットサン」の収益管理責任者などを経て16年常務執行役員。18年専務執行役員。東風汽車有限公司総裁として中国事業を率い、19年12月から現職。

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――日産自動車のかじ取り役を任されて半年がたちました。2020年3月期決算では営業損益も赤字でした。このような状況に陥ったのはなぜでしょうか。

「1999年に仏ルノーの出資を受けて以降、拡大路線を大きく進めました。台数を追う視点は間違っていなかったのですが、結果として日本などでの新車投入が後手に回ってしまいました。これはまずい、と気付く人はいても、社内でものを言える雰囲気がなかったことも問題でした。19年12月に社長に就任し、何に『選択と集中』すべきかを考えてきました。それを形にしたのが20年5月に発表した事業構造改革です」

「失敗はきちんと認めなくてはなりません。トランスフォーメーションや構造改革では足りません。言葉は少し乱暴ですが、日産に革命を起こしたいのです。革命というのは壊してゼロからつくるということ。社員がそういった感覚を持って一丸となり、まず社内が変わらなければ信頼は取り戻せません」

――具体的には、どのように革命を起こそうとしているのでしょうか。

「社長就任以来、(計画や予算策定の)プロセスを改善してきました。チャレンジャブルな目標を共有し着実に積み上げていくスタイルに転換しています。従来はトップダウンがほとんどでしたが、今はボトムアップもある。常にリファレンス(参考にしたもの)に戻れる形にしておくことが重要です。20年3月期に資産の減損を計上し、販売目標を挑戦できるレベルにしました。21年に営業利益率2%以上という設定も、本当にこれでいいのかという議論を重ねました。過度なストレッチを入れず、対外的に言ったことを確実に実行する。(無理しがちだった文化を)根本から見直していきます」

■日産の力はこんなものではない

――大会社の社員はどこかで「うちは大丈夫だ」と思いがちです。本社の社員が危機感を持てるかがカギとなりそうです。

「社員には危機感が相当ありますよ。我々経営層に『事業構造改革を断行する覚悟はあるのか』と言ってくる人もいます。事業所に行くと『私には何ができますか』と声がかかります。これらは日産を再生させるための強い力です。もちろん、決算の数字の意味、これから何をしなければならないのかを理解してもらわなければなりません。一人ひとりが(革命を)進めるという気持ちになってもらうため、コミュニケーションは意識して深めていきます。日産の力はこんなものではありませんよ」

――日産の販売不振の原因として指摘されるのが新車の経過年数を指す「車齢」の古さです。拡大路線の中で開発が遅れてしまったということでしょうか。

「そういった側面もありますが、カバーする範囲が広がったことで、強い車ではなく、売りやすい車に走ってしまった傾向があります。広げることは悪くないのですが、広げた上できちんと売っていく体制を築けなかった。北米市場では数を稼ぐため古いモデルに販売支援金を出し、それが日産のバリューを毀損していました。今後18カ月で12車種を出しますが、販売の質を向上させています」

「短期的な台数を追うのではなく、持続的な販売につなげていく取り組みは前任(の西川広人社長時代)から始めましたが、販売店などに理解してもらうのには時間がかかります。これからはパートナーと連携を深めていくことがカギになります。我々の技術面などの強さを明確にし、その良さを体感、共有してもらい、バリューを売る方向にシフトする。その中で適正な車齢にしていくことが重要です」

――北米の19年度の新車販売は前年度比で15%減少しました。インセンティブ(奨励金)を抑えるなどした結果でしょうか。

「販売の質の向上に踏み切ったことで、昨夏ごろ大きな影響が出ました。販売支援金と法人向け(フリート)を減らして一般消費者向けに注力した反動で、販売台数は大きく減りました。ただ成果は出てきたと思っています。例えば今年2月に発売した小型セダン『セントラ(日本名シルフィ)』は、価格も含め販売店にもお客様にも理解をいただいています。近く発売するSUV(多目的スポーツ車)『ローグ(日本名エクストレイル)』も同じスタンスです。じっくり時間をかけてリカバーしていくことが重要です」

■V字回復は狙わない

――次の成長への準備が整うまでにどれくらいの時間がかかりそうですか。必ずしも「V字回復」がいいとは思いませんが。

「20年の世界需要は前年比15~20%下がるとされています。各地域の動向や車種の投入時期も考慮した上で、我々は23年度に営業利益率5%、21年度下期のフリーキャッシュフロー(純現金収支)黒字化を目標に掲げています」

「V字回復を狙うのではなく固定費をしっかり抑え、販売の質を確実に高めていきます。まだ時期は言えませんが、新たな中期経営計画では日産がどこでバリューを伸ばすかというメッセージを示します。7月の新型SUV『アリア』のお披露目でもブランドをどう展開していくかを伝えられると思います」

――スペインの工場閉鎖などで生産設備を2割減らす方針を出しました。新型コロナの影響も踏まえ、さらなる能力削減に踏み込む可能性はありますか。

「将来の販売台数を想定すれば、2割減の計画で齟齬(そご)はありません。工場の閉鎖は苦渋の選択で経営の責任として重く受け止めています。ただ、欧州で日産ブランドを継続し、向上させていくために必要な判断でした」

――アライアンスの新たな枠組みでルノーの重点地域となった欧州でもこれまで通り売り続けていくのですか。

「もちろんです。さらにブランド力を高めたいと思っています。ただ従来のやり方では利益水準が低く事業として継続することは難しかった。英国で生産するSUV『キャシュカイ(日本名デュアリス)』など商品力を持つ車はありますが、パートナーの力を借りた方がいいモデルは借りればいい」

「その先に、どこで造れば競争力を発揮できるかという議論があります。環境規制が厳しい欧州では『e-POWER』などの電動化技術を生かした商品を伸ばせると自負しています」

――採算性の悪い地域からは撤退するという選択肢もあるのではありませんか。

「欧州は大きなマーケットで、日産車の販売には長い歴史があります。今では主流となったSUVセグメントを創出したのは日産です。既存のアセットで利益が見込めないなら、事業を縮小し、借りられるところは借り、買えるところは買えばいい。(ルノーの重点地域となる)ロシアやブラジルにもポテンシャルはあります。カントリーリスクもあるので各地域の状況に応じて何ができるかを見ていきます」

■ルノーと資本の議論はしていない

――そうなるとルノーとの関係はさらに深まりますね。もうアライアンスを解消する可能性はないと理解すればいいですか。

「ルノーとの間で別れることを前提とした議論は全くありません。私の就任前に(資本関係を巡る)話があったことは理解していますが、今論議しているのは、アライアンスが各社の売り上げや利益にどう貢献するかです。購買や物流では機能していましたが、うまくいっていなかった部分もあった。リーダー、フォロワーと役割を明確にしてさらに活用していくというのが今回の枠組みに込めた思いです」

――資本の論理では日産の株式の43%を持つルノーの意向が強く働くのが普通でしょう。ルノーの筆頭株主のフランス政府の考え方が日産の利益と合致しなくなる可能性もあるのではないでしょうか。

「過去を見てください。アライアンスが始まってから21年間、全くそういう動きはないですよね。各社の独自性を尊重しアライアンスからメリットを得られるような方法を取り入れてきた歴史は非常に強いものです」

――技術面での協力も深まる中、日産、ルノー、三菱自動車の3社が分かれている必要はどこにあるのでしょうか。

「もしそれ(統合)が望まれる結論であれば、21年の歴史の中でそうなっているでしょう。『ウィンウィンでお互いを尊重する』という精神を信じてやってきたことが、我々の(結束の)強さです。

――これまではゴーン氏が日仏間のバランスを取っていたと見る向きもありますね。

「それは見当外れではないでしょうか。アライアンスの精神はゴーンさんがいなくなった現在も、全くぶれることなく引き継がれています」

――ルノーとは資本でも対等な関係が望ましいと考える人もいます。株式持ち合いの構図を対等に近付ける選択肢はありませんか。

「そういった論議はしていません。ルノーからは(意思決定や経営判断に関して)尊重してもらっています。過去もそうでしたし、現在もそうです」

――未来も大丈夫でしょうか。

「そういうことだと思っています」

■結果が出ないと経営陣がいる意味はない

――就任会見では「異論や反論が認められる会社風土をつくっていきたい」との発言がありました。日産はゴーン氏以前も強いリーダーの言うことに周りが黙って従う傾向が強かったように思います。

「日産の強みはダイバーシティーです。多様な文化を受け入れる土壌があり、状況に対する順応性が高い。そして、個の力が強く、ポテンシャルがあります。ベクトルが合えば、日産は必ず成長軌道に戻ると思っています」

――日産が立て直しに注力している間も自動車産業は大きく変化しています。どのような市場が形成されると考えていますか。

「これまでの事業形態を継続できないのは確かでしょう。我々が(商品や技術を)提供する領域は同じでしょうが、ビジネススキームは広がります。モビリティーサービスの変化に順応し、提供できる強みをより早く見極めることが重要です。新型コロナの影響で変化は想定以上に加速するでしょう」

――これからも生かしていける「日産らしさ」とはどういったものでしょうか。

「人々の生活を豊かにしたいというのが我々のビジョンです。それを実現するための技術や情熱、創造性、ブレークスルーが日産の持つDNAです」

「世の中に新たな価値を提供してきた日産がこのレベルであってはならない。個の能力はあるのです。提供するバリューを高め、認めてもらえるようにする。結果を出さないと、経営陣がいる意味はないと考えています」

聞き手から
 業績が低迷した時、経営者はインタビューに応じたがらないものです。今回は就任から日が浅く、巨額赤字の全責任を負う立場になかったから登場したと思われるかもしれませんが、それよりも、社内外に「日産は変わる」というメッセージを届けなければいけないとの思いが強かったのでしょう。力のこもった語りで熱意が伝わってきました。

 問題は社内に「変わる」ための危機感が共有されているのか、という点。前回の経営危機の際は、座間や村山工場を閉め、人も切りました。今回のリストラ対象は主に海外で、なぜかボーナスは満額回答です。痛みがなければ危機は感じにくいものですが、何度も赤字を経験しそのたびに復活してきた日産。再び現場の奮起が必要な時です。

(日経ビジネス編集長 東昌樹)

[日経ビジネス電子版 2020年6月24日の記事を再構成]

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