今日も走ろう(鏑木毅)

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夢舞台の中止と喪失感
今日も走ろう 鏑木毅

2020/6/25 3:00
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夏の甲子園大会は中止に(中止の連絡を受けた日の練習後、グラウンドを整備する野球部員)

夏の甲子園大会は中止に(中止の連絡を受けた日の練習後、グラウンドを整備する野球部員)

夏のインターハイ、そして甲子園が中止となった。この舞台を目指し努力を続けてきた高校3年生の悔しさを思うとやるせない。

学生スポーツは教育の一環なのだから、大会がなくても早く切り替えて人生の次のステップにつなげるべきだとの意見をよく耳にする。だがスポーツ選手の根源には、人に勝ちたい、注目され輝きたいという野心があり、夢の舞台があるからこそ日々のつらいトレーニングに耐えられるのだ。悔しい思いを次の人生の糧にといわれたところで、その舞台さえ得られない彼らはそう簡単に割りきれるだろうか。

私も中学から大学まで長距離走に打ち込んだ。中学での実績から期待されて高校に入ったものの、1年の秋に腰を痛め、回復と故障を何度も繰り返し、結局高校では何の成果も得られなかった。大学でこの悔しい思いを晴らそうと目指した箱根駅伝でも、けがで夢破れ、学生の間は最後まで情熱が実を結ぶことはなかった。

長年、長距離走に夢中になり、いったい何を得たのだろうと思うと無性に悲しくなった。走らずに大学受験に専念していれば2浪もしなかったかもしれない。資格試験に専心していれば就職で悩むこともなかったかもしれない。若い頃でしか謳歌できないと信じ、いろんな犠牲を払ってでも走り続けたエネルギーとそのために費やした膨大な時間は本当に何だったのか。

周囲の期待と裏腹に腰の故障で結果を残せなかった(高校2年時の10キロロードレースで)

周囲の期待と裏腹に腰の故障で結果を残せなかった(高校2年時の10キロロードレースで)

新型コロナウイルスの問題で、晴れの大舞台そのものを奪われた高校生と比較するのは適当でないかもしれないけれど、学生時代を挫折したまま終えた当時の私はとてつもない虚無感を引きずり、社会人となったその後の人生の進む方向性を模索することになった。

最終的に箱根の夢がついえ、恩師からは「この悔しい経験はきっとあとで生きるよ」と言われた。「私の思いを正確に理解していないでそんな奇麗事を言うのですか、あなたは」と内心憤慨した。何でも言われる通り指示に従ったのに結局けがを治してくれなかった医師。故障で走れない私を罵倒した先輩、同僚。大した能力もない自分に才能があるとその気にさせた指導者――。もう全ての人を許せなくなった。大学を出て、就職してもしばらくはそんな思いを抱いていた。だが数年が経過し彼らに再会すると、一様に何事もなかったように親しく接してくれる。そこに至って初めて、私の鬱屈した思いとは無関係に時間は流れていたのだと知り、ずっと引きずっていた自分がばからしくなった。

悔しさをそのもととなった事象や人に対してぶつけるのではなく、悔しいという気持ちだけを忘れずに持ち続けようと心に決めた。自分を支えてくれたのはまさしくこの「負のエネルギー」だった。青春の失敗で培ったマイナスのエネルギーが時を経てばねとなり、私を輝かせてくれたのだ。人生が思うようにいかない、そんな経験に費やした時間、注ぎ込んだ情熱が多ければ多いほど推進力も大きくなるような気がする。今は思う存分泣き、いつまでも悔しいというその思いだけを決して忘れずに持ち続けてほしい。この思いは必ず次のどこかのステップで間違いなくあなたのプラスの力になる。結果として、恩師の言葉は正しい。

(プロトレイルランナー)

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