米国、もろ刃のビザ発給停止 高度人材獲得に副作用も

2020/6/23 16:40
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米国の就労ビザ規制の強化はリスクも伴う=ロイター

米国の就労ビザ規制の強化はリスクも伴う=ロイター

【ワシントン=鳳山太成】トランプ米大統領が新型コロナウイルスによる失業増を理由に就労ビザの規制強化に乗り出した。支持層に米国人の雇用確保を訴える狙いだが、米企業がIT(情報技術)技術者を獲得できなくなる副作用を伴う。「移民大国」米国の競争力が揺らぎかねない。

IT技術者が多く使う「H1Bビザ」などの新規発給を年末まで停止する大統領令に署名した。さらにH1Bビザの年間発給上限(現在は8万5千件)に達した場合に現在実施している抽選制度を廃止するなど恒久的な規制強化も検討する。

トランプ氏は大統領令で、5月の失業率が13.3%と新型コロナで2月の約4倍に膨らんだことを挙げ「非移民ビザによる外国人就労が米国人労働者に取って代わるリスクがある」と規制の正当性を訴えた。政府高官は「米国第一の経済回復」につながると主張した。

主な標的としたH1Bは「ハイテクビザ」とも呼ばれ、優秀な外国人技術者の確保に使われてきた。米移民局によると、2019会計年度(18年10月~19年9月)の雇用主別の承認件数上位10社のうちアマゾン・ドット・コムやグーグルなど米系が6社を占める。アマゾンはビザの更新を含めて7212件の承認を受けた。

トランプ政権発足前の16年度は上位10社のうち6社をインド系企業が占めていた。17年にH1Bビザの審査を厳しくして、比較的低賃金で大量に雇うインド系企業の承認件数が18年度に半減した。高給を提示する米国系が獲得を増やしていたところだった。19年度の承認件数全体は39万件。国内から代わりに優秀な技術者を採用するのは簡単ではない。

米産業界の危機感は強い。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)らが名を連ねる経営者団体は22日「世界中から才能ある人材を引きつけることで恩恵を受けてきた米国の力とイノベーション(革新)への攻撃だ」と大統領令を厳しく批判する声明を出した。

賛否両論ある中でトランプ氏が規制に乗り出した背景には、11月の大統領選に向けて支持基盤にアピールする狙いがある。4月に合法移民の規制に動いた際にH1Bビザを対象にしなかったため、与党・共和党の保守強硬派の議員から突き上げを食らっていた。

トランプ氏が主張する米国人の雇用確保につながるかは不透明だ。米政府高官は52万5千人の雇用を生むと主張したが、今回の規制で入国できなくなる外国人労働者は32万5千人にとどまるとの試算がある。トランプ氏に近いグラム上院議員でさえも「米経済回復の妨げになると恐れている」とツイッターで否定的な見方を示した。

日本企業にも影響が及びそうだ。大統領令の規制対象は企業内転勤に使う「Lビザ」を含む。米国務省によると、19年度にLビザが発給された日本人は9864人。新型コロナの影響で新規ビザの発給は事実上止まっているものの、これからビザを取得して米国に転勤するのは当面難しくなる。

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