アマゾンはどこまで強いのか(The Economist)

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2020/6/23 0:00
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1995年夏、やせてこだわりの強いジェフ・ベゾス氏は、地下の一室で妻とペーパーバックの本を箱詰めしていた。その彼は25年後の今、21世紀で最も重要な大物実業家かもしれない。

アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏は新型コロナウイルス危機を受けて本業強化に力をいれるが、解決すべき難題に直面している=AP

アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏は新型コロナウイルス危機を受けて本業強化に力をいれるが、解決すべき難題に直面している=AP

離婚して今は筋肉隆々の同氏は、宇宙ビジネスや新聞に遊び心で出資し、著名投資家ウォーレン・バフェット氏からは絶賛され、トランプ米大統領からは酷評される。ベゾス氏が最高経営責任者(CEO)である米アマゾン・ドット・コムは、書籍販売にとどまらず、時価総額1兆3000億ドル(約139兆円)のデジタル複合企業に成長し、消費者からは愛され、政治家からは好んで非難の的にされ、投資家やライバル企業からは決して敵に回さない方がよいと思われている。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)でデジタル需要が急拡大した今、電子商取引(EC)や物流、クラウドコンピューティングで非常に重要な役割を担うアマゾンは、欧米での日常生活に不可欠だということが示された。ベゾス氏は新型コロナ危機を受けてサイドビジネスを横へ置き、再び本業に集中している。表面的にはこれ以上順調な時はないように映るが、時価総額世界4位のアマゾンは、3つの問題に直面する。社会的責任の綻び、資産膨張、競争の再激化だ。

コロナ禍で進んだ急速なデジタル化

急速なデジタル化は、消費者によるトイレットペーパーやパスタなどの買いだめで始まった。同社の今年第1四半期の売上高は前年同期比26%増加した。米国家庭に景気対策の小切手が届いた4月中旬には、より幅広い種類の商品に注文が殺到した。ライバル企業の米イーベイとコストコは、5月にオンライン注文が加速した。アマゾンでは需要の急拡大に応じた緊急体制が取られ、ベゾス氏が再び毎日の在庫チェックをするようになった。同社は17万5000人を雇用し、スタッフに3400万組の手袋を配り、新たに12機の貨物航空機をリースして計82機体制にした。ECの急拡大を支えたのは、クラウドコンピューティングや決済システムだ。アマゾンはクラウド部門のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を通じこうした分野でも高いシェアを握り、AWSの第1四半期の売り上げは33%増えた。

問題は、デジタル化の波が今後も続くかだ。実店舗は、レジにアクリル板を設置して営業再開している。それでも一部のデジタルブームは続く兆候がある。同じ人が同じ商品をより多く購入するだけではない。これまでとは異なる層がオンラインショッピングに目覚めた。米国では60代の「シルバー」世代がデジタル決済アカウントを開設している。実店舗中心の小売業の多くは致命的な打撃を受けている。米衣料品チェーンのJクルーや高級百貨店ニーマン・マーカスなど経営破綻したか、または破綻寸前の状態にある企業は数十社にのぼる。ECで潤う倉庫会社はショッピングモール運営会社に比べ、過去1年間の株価上昇率が48%高かった。

この展開は、ベゾス氏が何年にもわたって株主向け年次書簡に書いてきた通りに見えるかもしれない。同氏の年次書簡は今やバフェット氏のそれと同じぐらい投資家による綿密な分析の対象だ。それによると、アマゾンは資金を投じて市場シェアを拡大し、隣接する業種へ進出するという永続的な好循環にあるという。書籍販売からECへ進出し、クラウドと物流部門を第三者の事業者に開放してそれ自体を巨大な新規事業として成功させた。顧客は、有料会員向けサービス「プライム」や音声アシスタント「アレクサ」といった追加商品で囲い込む。この点では、今回の新たなデジタル化の波を背景にアマゾンの隆盛はとどまるところを知らない。ウォール街でもこのような見方をしており、アマゾン株は過去最高値を更新し続ける。

しかしベゾス氏は、自ら所有するテキサス州西部の牧場から、3つの難題に取り組まねばならない。まず社会との関係の綻びだ。アマゾンに対してよくある批判は単なる見当違いのものもある。例えば米グーグルが検索エンジン分野で独占的なのと違い、アマゾンは独占的企業ではない。米EC市場での昨年のシェアは40%、全小売売上高に占める割合は6%だった。雇用を喪失させるという証拠もほとんどない。既存小売店が閉鎖や倒産に追い込まれる「アマゾン・エフェクト」のある研究では、実店舗の雇用喪失を補うだけの新規雇用が倉庫や配送部門で創出されており、同社の1時間当たり最低賃金の15ドルは米小売業界の中央値を上回るという。

雇用市場での大規模な創造的破壊

だが、経済が低迷する中にあってもアマゾンの戦略は雇用市場で大規模な創造的破壊を起こしている。さらに米国の同社倉庫で新型コロナの感染者が見つかったことで、労働条件についての不安が再燃し、13州の司法長官が懸念を表明した。また、デジタルの「何でも屋」という同社の位置づけは利益相反を生む。例えば、同社が運営するプラットフォームで第三者の販売業者の商品と自社の商品を平等に扱えるのか。米議会と欧州連合(EU)は、この問題を調査中だ。あるいは、同社のライバルが自社と競合する巨大複合企業の一部門であるAWSに機密データを預けることに抵抗はないだろうか。

第2の問題は資産膨張だ。ベゾス氏が次々と異業種へ進出したため、同社は保有資産を最小限にするアセットライトの状態からとてつもなく大きなバランスシートを抱えることになった。同社の現在の保有設備はリース資産を含め1040億ドルで、従来型モデルのライバル、米小売り大手ウォルマートの1190億ドルとほぼ変わらない。その結果、AWSを除く利益はわずかでパンデミックによってECの利幅は一段と圧縮された。

ベゾス氏は、データを収集し広告やサブスクリプション(定額課金)サービスを販売することで、同社は各事業部門を単純に合計した以上の価値になると言う。これまで投資家はその言葉を信じてきた。だがECの利益率が低いとAWSをスピンオフ(分離・独立)しにくくなる。分離すれば規制当局からの干渉はなくなり、AWSも経営の自由度が増すだろうが、アマゾンは他の全部門の資金源であるドル箱を失う。

ベゾス氏が抱える最後の問題は競争だ。同氏はかねて顧客だけを注視し、ライバル企業は見ないとしてきたが、パンデミックでライバルが息を吹き返しているのに気づいているはずだ。ウォルマートや米小売り大手ターゲット、コストコの4月のオンライン売上高は前年同期比で2倍以上に達したとみられる。独立系デジタル企業も好調だ。

海外市場では地元勢が支配的

カナダのECプラットフォームのショッピファイや、米動画配信ネットフリックス、物流大手UPSなどアマゾンの同業他社でアマゾンと全く同じ事業を展開する架空の株式市場をつくると、そちらの方がアマゾンより今年に入ってからの株価上昇率は大きい。世界の多くの国では、アマゾンより地元の同業他社が優位だ。中南米ではアルゼンチンのEC大手メルカドリブレ、インドでは通信最大手ジオ、東南アジアではシンガポールのEC大手ショッピーなどだ。中国はアリババ集団やネット通販大手、京東集団(JDドットコム)に●(てへんに併のつくり)多多(ピンドゥオドゥオ)など新興勢力も加わり市場を支配する。

アマゾンは世界で最も称賛される企業とされてなお、いくつもの問題を解決せねばならない。ポピュリズム(大衆迎合主義)の時代に政治家からの批判を鎮めようと賃金を上げれば、低価格の強みを失う。規制当局の歓心を買おうとAWSを分離すれば、残された事業は財務的に脆弱になる。株主を満足させようと値上げすれば、新たなライバル企業に市場シェアを奪われる。あれから25年、買い物や視聴、読書などがすべてオンラインでできる世界というベゾス氏のビジョンは、かつてないスピードで現実となりつつある。だが、アマゾンを経営する仕事は、箱詰めする必要はなくなっても、全く簡単にはならない。

(c)2020 The Economist Newspaper Limited. June 20, 2020 All rights reserved.

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