インドのスタートアップ、資金調達に中印紛争の余波

スタートアップGlobe
小柳 建彦
アジアBiz
コラム(テクノロジー)
編集委員
2020/6/24 2:00
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インド国民の間で反中感情が高まっている(6月18日、習近平氏のわら人形を燃やすコルカタ市民=ロイター)

インド国民の間で反中感情が高まっている(6月18日、習近平氏のわら人形を燃やすコルカタ市民=ロイター)

中国との対立がインドのスタートアップの経営環境を大きく変える可能性が出てきた。これまで中国は米国、日本と並んでインドのスタートアップにとって大きな資金源だったが、今後はその構図が崩れるかもしれない。

5月上旬に始まったインド北部国境地帯での中印軍の小競り合いはその後戦線を増やしながら緊張の度を増し、とうとう6月15日、インド兵20人が死亡した。中国側にも1人、あるいは複数の死者が出たと報じられているが詳細は不明だ。

両国の国境紛争で45年ぶりの犠牲者が出て、インド国内で反中ムードが一気に高まった。モディ首相は強硬姿勢を鮮明にし、同国内メディアやソーシャルメディア上では反中的な報道や、中国を敵視する書き込み、中国製品ボイコットの呼びかけが広まった。街頭では習近平(シー・ジンピン)国家主席のポスターや中国製品を燃やすなどの抗議運動が起こっている。今後は中国製品や中国企業だけでなく、中国資本をバックとしている企業に対する風当たりが強まる恐れがある。

インド政府は国境危機が勃発する直前の4月、新型コロナウイルス危機に乗じた企業乗っ取りを防ぐためとして、中国の企業や個人などによるインド企業株式の取得を事前許可制に突然切り替えたばかりだった。そこに国境紛争が勃発。中国マネーによるインド企業株への投資は、実務面でも従来に比べて難しくなったとみる向きが多い。

インドのスタートアップ投資を専門とする国外ベンチャーキャピタル(VC)の幹部は「すでに提出されている中国投資家によるインド・スタートアップ投資の許可申請の取り扱いに注目している。国境紛争後のインド政府の姿勢が見えてくるはず」と身構える。許可が出なければ、それらのスタートアップは資金計画の組み直しを迫られる。

「巨額投資の担い手だった中国の巨大ネット・プラットフォーマーと日本のソフトバンクグループ(SBG)が両方あてにできなくなった感がある。今後はレイトステージ(すでに何回かVCから資金調達実績のある)企業のメガディール(巨額案件)が難しくなりそう」とみる。

実際、モバイル決済のペイティーエム、配車のオラといったインドのユニコーン(企業価値評価が10億ドル=約1千億円以上のスタートアップ)の多くはアリババ集団、騰訊控股(テンセント)という中国の2大プラットフォーマーや、中国本拠のVCファンドを大株主とする。SBGと名を連ねることも多い。

中国マネーとSBGの巨額投資は、インドのスタートアップのバリュエーション(企業価値評価)を全般的につり上げていた側面もある。ところが昨年の「ウィーワーク・ショック」後にSBGによる巨額投資は減速。今回の中印対立激化を経て中国マネーが遠い存在になるとますますバリュエーションの「正常化」が進むとの期待もある。

「中国マネーのインド投資が難しくなると、(中国系でない)我々にとってはむしろ従来より納得の行く株価で投資できるチャンスが広がるのではないか」と、インド本拠のVCの運用者は話す。

セコイア・キャピタルなどの有力米VCがアーリーステージの有望スタートアップを発掘し、大きくなると中国巨大企業とSBGが大型投資で一段の成長を支える――。そんなインド・スタートアップの「必勝パターン」は、中印関係の急変でシナリオの書き換えを迫られるのかもしれない。

(編集委員 小柳建彦)

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