アマゾンに抗議し辞めた元幹部「怒りはテック大手にも」

日経ビジネス
2020/6/24 2:00
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Zoom会議システムでカナダ・バンクーバーの自宅からインタビューに答えるブレイ氏

Zoom会議システムでカナダ・バンクーバーの自宅からインタビューに答えるブレイ氏

日経ビジネス電子版

全米で黒人差別や警察による暴力への抗議デモが長期にわたって繰り広げられる中、企業内の活動として今、最も注目を集めているのが米アマゾン・ドット・コムの従業員が組織するアクティビスト(物言う株主)団体「アマゾン・エンプロイーズ・フォー・クライメット・ジャスティス(AECJ)」だ。

アマゾンが環境保護において企業責任を果たしているかを問う団体だが、ここ数カ月はもっと幅広い分野の抗議活動を展開している。倉庫で新型コロナウイルス対策が不十分であったことや、これに抗議した従業員が解雇されたこと、アマゾンの倉庫や運送システムが大気汚染の原因となっているとされる地域が有色人種の居住区であること、なども改善が必要だと訴えている。

特に新型コロナの感染拡大が深刻化した2020年3~5月は、声を上げたAECJのリーダーや倉庫スタッフが次々と解雇され、地元メディアでも大きく取り上げられた。

渦中の5月1日、アマゾンのクラウド部門、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)でバイスプレジデント(VP)を務めていたティム・ブレイ氏が、アマゾンのこうした一方的な解雇に抗議して会社を辞めた。

「パチン! その瞬間、頭の中で何かがはじけた」

ブレイ氏は退社を決めた瞬間をこう表現する。そのとき、社内で何があったのか。アマゾンという巨大テック企業が抱える問題の本質は何か。また全米で「怒れる民衆」が大挙して声を上げる背景には、米社会のどんな構造が隠れているのか。ブレイ氏に聞いた。

――退社を決めた理由を教えてください。

「細かな経緯については私のブログにつづっていますが、直接的な理由は、AECJで倉庫の環境改善を訴えたエミリー・カニンガムさんとマレン・コスタさんという2人のテック系従業員をアマゾンが解雇したことです。倉庫スタッフも、スモールズさんなど声を上げた複数の人が解雇されました」

(編集注:カニンガムさんは3月27日、「安全でなく、清潔な環境にもないアマゾンの倉庫で働く同僚のために最大500ドルを寄付する」とツイッターに掲示。コスタさんがその掲示をリツイートした。2人は抗議のためのオンライン会議の案内を社内メーリングリストを用いて送信した4月10日、解雇された)

「私も環境問題で活動してきたアクティビストの一人ですが、こうして声を上げるアクティビストを解雇するのは企業として非論理的です。アクティビストは、企業がしかるべき責任を果たしていないときにそれを指摘し、改善してより良い企業にするために活動しています。彼らの声を聞くのではなく口を塞ぐというのは納得できません」

――退社前には経営層にどんな話をしたのですか。

「詳しくは秘密保持契約があるので話せませんが、考え得る適切な人物に会いに行き、言うべきことは言いました」

「本来ならアマゾンは、アクティビストたちの話を聞き、彼らを中心にタスクフォースを立ち上げ、倉庫の現状改善に着手すべきでした。単に解雇で封じ込めるのは、非論理的、かつ愚か。アマゾンは非常に賢い会社ですが、この点ではとても愚かだと思います」

■「怒れる民衆」がテック企業を責めるワケ

――AECJの一連の案件は、現在、全米で展開されている人種差別や警察による暴力に対する抗議デモに通じる話だと思いますが、こちらのデモはどうご覧になっていますか。

「英語の表現で『オーバートン・ウインドー(Overton Window)』というのをご存じですか。(政界や経済界で)それについて話しても『頭がおかしい』と思われずに済む範囲の話題のことです。このオーバートン・ウインドーが今回の抗議デモによって変化したと思います。数週間前までは、『警察のデファンド(予算削減)』なんて話を一般の人がすることはありませんでした。それが今はできる。オーバートン・ウインドーの範囲が変わったのです」

「人々の物の考え方を変え、社会にインパクトを与えられるのが抗議活動です」

――人々が政府だけでなくテック企業に対しても抗議をするのはなぜなのでしょうか。

「米国では10年前、大手テック企業はまるで社会の英雄かのように尊敬されていました。スティーブ・ジョブズ氏やラリー・ペイジ氏、もう少しさかのぼるとビル・ゲイツ氏など、テック企業を育てた経営者は英雄だったのです。モバイルパソコンやインターネット、無料の情報コンテンツまで、社会にさまざまな利益をもたらしてくれました」

「でもこの10年間で社会の見方はだいぶ変わりました。多くの人々が、彼らを疑念の目で見つめるようになったのです。フェイスブックやグーグルが、本当に人々のプライバシーを道義的に扱っているだろうか? 手にした大きな権力を乱用しているのでは?と疑い始めました」

「この変化を大きな枠組みで見ると、社会が抱える問題の本質が見えてきます。時間がたてばたつほど開いていく富や人権の『格差』です」

「金持ちはどんどん金持ちになり、貧困層はますます貧困になる。格差は広がるばかり。気づいたら、金持ちは自分の1000倍も金持ちだった──。この大きな要因の1つをつくったのが、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトといった大手テック企業です」

■悪いのはテック企業ではなく「ルール」

「テック企業は貧富の差を生んだ要因の1つではありますが、問題そのものではありません。問題を生み出しているのは、政治です」

「テック企業は政府が作ったルールの中でビジネスをしています。もしその結果が気に入らないのだったら、ルールを変えるしかありません。アマゾンの倉庫の作業環境も同じ。それが気に入らないのだったら、もっと従業員の安全を守れるようなルールに変えればいい。もしテック大手の経営者が金持ちすぎるというのであれば、税金のルールを変えればいい」

「だから私はこれは政治の問題だと思っています。政治が『病気』で、テック企業の問題は『症状』にすぎない。そして今、経済面で深刻な問題となっているのがテック企業の『独占』です」

「先ほどのグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトはいずれも、数十社が扱っていてもおかしくない事業を1社で手掛けています。検索エンジンとメールサービス、地図サービス、ユーチューブを本当に1社でやる必要がありますか?」

「1つの事業でもうけた利益を別の事業に投入して競合と戦ったら、競合は立ちいかなくなります。アマゾンが良い例です。オンライン小売りとクラウドサービスが本当に同じ企業である必要があるでしょうか」

――つまり政治家がもっと仕事をしなければならないと。ただ、企業が政治家に資金を提供しているという現実もあります。

「それが問題なのです。現在は企業の資金が大量に政界に流れています。でも、政治家が企業からカネを受け取らなくてもいいようにすることはできます。小さな寄付を集めて、それを資金にする政治家も中にはいます。こうした活動を通じて企業の政界への影響を減らす努力を社会全体でしなくてはいけません」

「まさに今、民衆が怒っている理由がここにあります。政治と企業の癒着をなくし、社会の格差を減らすべきだと」

■新型コロナが浮き彫りにしたテックの権力

――新型コロナウイルスの感染拡大もこの格差の拡大に影響しているでしょうか。

「もちろんです。COVID-19(新型コロナ感染症)は、もともと社会が抱えていた格差問題にスポットライトを当てました。社会は今、テックとそうでない業種との間に大きな権力の格差を生んでいます」

「私が勤めていたAWSの従業員たちは、パンデミックの間、とても優遇されていました。在宅勤務になっても給料はいいしボーナスも出る。会社が在宅の従業員に連絡しては『もっと大きなモニターは必要ない?』『何か不都合はない?』とお伺いを立てる」

「一方でアマゾンの倉庫で働く従業員は、全く優遇されていません。賃金も安いし、出社するのも命がけです。格差がここまで顕著に表れたのはCOVID-19があったからこそです」

――米国の社会が面白いのは、自ら権力を持つテック系の従業員も格差問題の改善に取り組んでいて、会社に物を言うところですね。権力がすでにあるのだから言う必要がない気もしますが……。

「確かにそこは面白いですよね。ソフトウエアエンジニアやデザイナー、電気系のエンジニアまで、テック系の人たちは民主党の支持者が多く、左派が多い。自らの持つ権力に気づいていないこともあるかもしれませんが、物を言って辞めさせられても次の仕事があるという余裕も影響しているでしょう」

■都市からオフィスビルが消える?

――ほかに新型コロナは社会のどんなところを変えたのでしょうか。

「都市の姿です。今、都市の中心部に行くとどこの大型オフィスビルも空っぽになっています。私がいるバンクーバーもそうだし、アマゾンの本社があるシアトルもそうです。アマゾンは同市のとても高価な場所に複数の大きなビルを持っていますが、空っぽです」

「でも仕事は変わらずに続いています。マネジャーが部下の声を聞きづらくなり、理解しにくくなるのがネックなくらいで、ほぼ支障は出ていません」

「ここで疑問が湧きます。本当にオフィスなんて必要なのか?と。これからの都市の姿は変わるように感じます」

――テック大手は社会にとって、善なのでしょうか、悪なのでしょうか。

「『大きすぎる』企業は社会の悪になり得ます。理由は4つあります」

「1つ目が、前に触れた独占の問題。大きすぎると保有する権力も大きくなりすぎて競争を阻害するなど社会にダメージを与えます。でもこれはテック企業だけの問題ではなく全ての企業に言えることです」

「2つ目が、企業と従業員の関係です。大きくなりすぎると、従業員を人道的に扱うのが難しくなります」

「3つ目が、企業と顧客の関係です。同様に一人ひとりの顧客を人道的に扱うのが難しくなります」

「最後が先ほども話に出た、政治との癒着です」

「従業員による企業への抗議デモは、企業だけでなく社会をより良くするために必要不可欠なものです。私はこれからも企業に対して声を上げるアクティビストたちを応援していきます」

(日経ビジネスニューヨーク支局長 池松由香)

[日経ビジネス電子版2020年6月22日の記事を再構成]

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