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巨人・戸郷のテンポにみる投球の原点
編集委員 篠山正幸

2020/6/23 3:00
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チームの大先輩、上原浩治投手の面影がある、といっては本人に余計な重圧がかかるだけかもしれないが、投球テンポの小気味よさに、ついそうした連想を膨らませてしまう。巨人の2年目、戸郷翔征(20)のことだ。投手の一投から始まるという野球の原理原則にのっとって、どんどんストライクを放り、打者を攻めるのが投手の特権だが、それができる人はそれほど多くはない。

巨人・戸郷の投球は球速以上の球威を感じさせるだけでなく、何よりもテンポの小気味よさが際立つ=共同

巨人・戸郷の投球は球速以上の球威を感じさせるだけでなく、何よりもテンポの小気味よさが際立つ=共同

16日のロッテとの練習試合。無観客の東京ドームに捕手、炭谷銀仁朗のミットの音が鳴り響いた。先発した戸郷は5回を投げ、1安打2四球で無失点。宮崎・聖心ウルスラ学園高を出て2年目の右腕は、巨人では桑田真澄以来33年ぶりという高校卒業後2年目での、開幕ローテーション入りを確実にした。

球速表示は140キロ台後半から150キロというところだったが、それ以上の球威を感じさせた。糸を引くような球筋、そして何よりテンポ。ロッテの打者も戸郷の力は承知で、追い込まれる前に打っていく構えだったが、4番のブランドン・レアードが、変化球をバットの先にひっかけて左前に運ぶのがやっとだった。投球数は5回で60。

ロッテの先発・二木康太も5回まで無失点の好投をみせ、両者がマウンドを降りるまでは、9回を2時間ほどで終えた昭和のペースで進んだ。

■テンポとは、投手が培っていく「体内時計」

戸郷のテンポにはどこか懐かしいにおいがした。この心地よさは上原が発していたものと似ていないか――。

打者に息つく間も与えずに投げ込む上原のスタイルは、レッドソックスで抑えを務めたころには至芸に達していた。実際にはそんなことはないのだろうが、いつも3球勝負の連続で、1イニング10球ほどで終えるイメージがあった。

打者に息つく間も与えずに投げ込んだ上原のスタイルは至芸の域で、3球勝負の連続というイメージがあった=共同

打者に息つく間も与えずに投げ込んだ上原のスタイルは至芸の域で、3球勝負の連続というイメージがあった=共同

昨年5月の上原の引退会見の際に、リズムの良さの源を尋ねると、こう話した。

「よく(テンポがいいと)いわれるが、自分のなかではテンポを速くしようとか、一切意識したことがない。もしかしたら、高校時代、大学時代にずっとバッティングピッチャーをやってたので、そのリズムのまま試合でも投げていたんじゃないかと思いますね」

言われてみると、確かにテンポ、リズムは意識してつくるものではないのだろう。ベストの投球を模索するなかで、結果的についてくるもので、それは投手個人が、生まれながらにして備えている体内時計のようなもの、ともいえるかもしれない。

甲子園の高校野球は大体、1試合2時間内外で終わる。投手がどんどん投げ込むからだ。そのテンポで投げていたはずの投手がプロに入るとどんどん、次の球を投げるまでの間合いが長くなってしまう。

打たれることの怖さを知る、といったこともあるのだろうし、プロのマウンドという高校野球に比べれば自分の時間を持ちやすい空間において、投手それぞれが持つ「地」の時間感覚が表面に出てくる、ということも考えられる。

その点、ちょっと気になる時計の持ち主かもしれないと感じさせられたのが日本ハム・吉田輝星だった。

3日、ロッテとの練習試合に登板。1イニングで32球を費やし、2安打2失点。打たれるのは仕方がないとして、後ろで守る選手たちはどうなのだろう、と気にやまれるほど、リズムを欠いていた。

秋田・金足農のエースとして甲子園できらめいたのはわずか2年前というのに、あのキビキビした感じが失われていた。たまたま調子が悪く、慎重になったのだとしても、魅力的な投球とはいえなかった。

こうしてみると、戸郷のテンポはそれだけでも得がたい天分といえるのかもしれない。

■「前の球の感触が指先に残るうちに次の球を投げよ」

投球の要諦はテンポにあり、といった意味の言葉を多くの大投手が残している。

そのなかに、通算276勝で「鉄腕」の異名を取った稲尾和久さん(西鉄=現西武)の「制球は指先の記憶力である」という言葉がある。

稲尾さんはボール、ストライクの判定に不満があると、マウンドを降り、帽子でホームプレートをささっと払って戻ったという。プレートがよく見えなかったから間違えたんじゃないか? という球審への無言の抗議だったらしい。

それだけ制球に自信があったのだ。その秘訣はテンポよく、前の球の感触が指先に残っているうちに次の球を投げ込むことだ、と話していた。テンポの悪い投手を見るたびに、指先の記憶が薄れるからストライクが入らないんだ、と嘆いていたものだ。

いにしえの大投手が刻んでいた軽快なリズム。そのリズムに同調しうるものが、戸郷の体内にも秘められているのかもしれない。

戸郷の出世街道の始まりは2018年8月、U18日本代表の壮行試合に、相手方の宮崎県選抜として投げたことだった。根尾昂(現中日)、藤原恭大(現ロッテ)の大阪桐蔭勢ら、スター軍団を向こうに回し5回3分の1を投げて、9奪三振。その秋のドラフトで6位指名された。入団したときの背番号68から、わずか1年で13に変わった。

原辰徳監督らの期待の大きさはプロ初登板に、特別な舞台を用意したことにみてとれた。

昨年9月21日、5年ぶりの優勝がかかったDeNA戦でプロ初登板初先発。4回3分の2を投げて4安打2失点の結果だった。勝ち負けはつかなかったが、まずは合格点の内容で、チームの勝利、そして優勝決定に貢献した形だった。その後のDeNA戦でロング救援をこなし、1年目で初勝利を挙げた。

シーズン大詰めでの起用は随分大胆、と思われたが、器の大きさを知った今となっては納得できる。おそらくその投げっぷりに、原監督らはただならぬものを見取り、英才教育を施したのだろう。

やっと始まったプロ野球。戸郷もこれからいくつも壁にぶつかるのだろうが、恐れを知らないように投げ込む生きの良さで、コロナにおびえながら暮らしてきた我々の憂さを晴らしてほしい。

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