勝利のメンタリティー(山本昌邦)

フォローする

コロナ禍でも止まらない 独リーグで10代選手躍動

2020/6/21 3:00
保存
共有
印刷
その他

ドイツのプロサッカーリーグ、ブンデスリーガ1部でバイエルン・ミュンヘンが6月16日、8連覇の偉業を成し遂げた。5月16日のリーグ再開から7連勝で優勝のテープを切ったバイエルン。新型コロナウイルスの脅威は王者の強さに、いかなる陰りも与えなかったようだ。

リーグ8連覇を決めて喜ぶバイエルンの選手たち=AP

リーグ8連覇を決めて喜ぶバイエルンの選手たち=AP

リーグが再開した当初は、ほとんどのチームに、おっかなびっくりの感じがあった。プレーすることが新型コロナの感染を広げることにつながるのではないか。そんな不安が頭の片隅にあったのだと思う。

しかし、週に2回のPCR検査と日常の行動管理、厳格な試合運営を徹底することで不安は徐々に解消されたのだろう。試合を重ねるごとに本来のブンデスの姿に戻っていったように思う。その様子は「試合に勝るトレーニングはない」ことをあらためて感じさせてくれた。

逆に今はすっかり慣れて、ある種の緩みを感じるほどだ。得点を決めた後に「社会的距離」を取らなかったり、みんなでハグをしたり……。クルマの運転でいうと「若葉マーク」が取れてきたというか。事故はそういうときに起きやすいので本当は気を引き締めてほしいのだが。

再開後からいきなりトップギア

そんな調子のライバルを尻目に再開後から、いきなりトップギアで入ってきたのがバイエルンだった。再開3節目の5月26日にライバル、ドルトムントとの優勝を懸けた大一番があったから(結果は1-0の勝利)、尻上がりに調子を上げていくという発想がそもそもなかったのだろう。再開したら一気にカタをつけるという気構えで来て、他のチームとは迫力が違った。

2節を残して優勝を決めたバイエルンは32試合終了時で得点93、失点31という圧倒的な数字を残している。我々の常識では1試合平均2得点しながら優勝を目指すのが普通。それを毎試合、失点を1以下に抑えながら得点は限りなく3に近づけているのだからすごい。今の破壊力と安定感をもってすれば、8月に再開される予定の欧州チャンピオンズリーグ(CL)との「ダブル」も可能という気がする。

バイエルンのフリック監督はしっかりした理論を持ち、選手の再生術も光る=AP

バイエルンのフリック監督はしっかりした理論を持ち、選手の再生術も光る=AP

今季途中でコバチ前監督から指揮を引き継いだフリック監督の再生術も素晴らしい。長年、ドイツ代表レーウ監督の副官を務めただけあって理論もしっかりしている上に、ミュラー、ノイアーら代表組と気心が知れているのも強みになった。彼らが往時の輝きを取り戻したのはフリック監督の登板と無縁ではないように思う。

特にミュラーの復活は驚きだ。この選手、ワールドカップ(W杯)で通算10得点をマークしているように本来は抜け目のない点取り屋という印象だった。それが今季はアシストのリーグ記録をつくるほど大活躍。ポーランド代表のレバンドフスキという傑出したストライカーがチームメートにいるせいで、出番を減らす中でいろいろと考えるところがあったのだろう。大人の振るまいというか、献身的に攻守にハードワークしながら、軽いタッチのラストパスでゴールをセットアップする能力を全面的に開花させた。

復活したバイエルンのミュラー(右)。コロナ禍という過酷な環境の中ですごみが表に出ている=ロイター

復活したバイエルンのミュラー(右)。コロナ禍という過酷な環境の中ですごみが表に出ている=ロイター

今のバイエルンは4-2-3-1を基本布陣とし、ミュラーはトップ下に入ることが多い。1トップのレバンドフスキが引くと自分は前に出るなど、セントラルMFのキミッヒ、ゴレツカとのコンビネーションもいい。

GKノイアーも一時の不調から脱した。相手がプレッシャーをかけてきた中でバックパスをワンタッチで的確にさばいて攻撃の起点になり、シュートブロックにも鋭さが戻った。

今年9月に31歳になるミュラーの進化を目にすると「自分を磨く」ということに年齢は関係ないとしみじみ感じる。バイエルン一筋に身をささげてきた選手の忠誠心が、コロナ禍という過酷な環境の中で余計にすごみとして表に出ている気もする。

連覇というハードルを乗り越えるクラブには、若手の手本になる選手が必ずいるものだが、バイエルンにおけるミュラーはそういう存在の一人なのだろう。

交代枠増で未来への投資可能に

再開したドイツ、スペイン、英プレミアリーグは交代枠を5人に増やす特別ルールを採用している(6月27日に再開するJリーグも同様)。過密日程で特定の選手に疲労が蓄積するのを避けるため、どのチームもそれを活用、これまでより多くの選手に出場のチャンスが与えられるようになっている。

結果として、チームマネジメントの中に、若くて優秀な選手を伸ばす、未来への投資がどれくらい含まれているか、クラブの中長期的な視点が透けて見えるようになっている。

6月6日のバイエルン戦に敗れたレバークーゼンがそうだった。CL出場権を争うボルシアMGが前日負けていたこともあり、前半で3失点するとハーフタイムに一挙に選手を3人代える策に出た。

レバークーゼンの監督はかつてJリーグの市原(現千葉)でプレーしたピーター・ボス。代えた3人の中にFWビルツがいて、89分に17歳34日のブンデス最年少ゴールを記録した。U-17(17歳以下)ドイツ代表の若き才能がドイツ代表の正GKノイアーからゴールを奪う。自信にならないわけがない。

リーグ最年少ゴールを記録したバイエルン戦で攻め込むレバークーゼンのビルツ(右)=AP

リーグ最年少ゴールを記録したバイエルン戦で攻め込むレバークーゼンのビルツ(右)=AP

正直なところ、ゴールを決めるまでは、バイエルンのCBダビド・アラバに「蛇ににらまれたカエル」状態だった。それでも徐々に落ち着いて、試合中に「これは伸びたな」と感じさせる場面が出てくるようになった。もしこれが、ビルツに与えられた時間が10分だったら、おそらく何もできずに終わったことだろう。45分もあったから最後の最後で立派な爪痕を残せた。過密日程と交代枠の増員がもたらした運命の風車に、17歳の少年は見事に息を吹き込んだわけである。

そんなビルツと激しく戦ったバイエルンの左SBデービスは19歳のカナダ代表だ。優勝を決めた16日のブレーメン戦のベンチにはオランダU-19代表のズィルクセエや米国U-20代表のリチャーズ、ニュージーランド代表の21歳、シンもいた。そこに座る顔ぶれを見れば、バイエルンが世界中に張り巡らしたアンテナの感度の高さを感じるし、こういう姿勢がないと8連覇などできるわけがないとも痛感する。

新型コロナのせいで世界は動きを止めていると感じていた。しかし、ブンデスでベテランのミュラーの、そして10代の選手の頑張りを見て、認識を新たにした。コロナ禍で悪い方向に人生が変わる人もいれば、ここでチャンスをつかもうとする人もいる。止まっているようで世界は動いている。

日本の選手もぼやぼやしていられない。

(サッカー解説者)

「スポーツ」のツイッターアカウントを開設しました。

勝利のメンタリティー(山本昌邦)をMyニュースでまとめ読み
フォローする

保存
共有
印刷
その他

サッカーのコラム

電子版トップスポーツトップ

勝利のメンタリティー(山本昌邦) 一覧

フォローする
10代は一気に伸びる時期でもある。ここからの1年で久保のような選手が他にも出てくるかもしれない=共同共同

 再開したJリーグは今のところ無事に日程を消化しているが、サッカー日本代表は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の影響をもろに受け、活動休止の状態が続いている。国際的な移動を伴う分だけハード …続き (7/26)

リーグ最年少ゴールを記録したバイエルン戦で攻め込むレバークーゼンのビルツ(右)=APAP

 ドイツのプロサッカーリーグ、ブンデスリーガ1部でバイエルン・ミュンヘンが6月16日、8連覇の偉業を成し遂げた。5月16日のリーグ再開から7連勝で優勝のテープを切ったバイエルン。新型コロナウイルスの脅 …続き (6/21)

J1で最初に全体練習を再開した鳥栖では、金明輝監督がマスク姿で見守った=共同
共同

 世界を疲弊させている新型コロナという未知のウイルスは、1918~20年にかけて猛威をふるったスペイン風邪以来の脅威だとよくいわれる。100年に一度の大きな時代の変わり目に、スポーツ界もやがて来る「ウ …続き (5/24)

ハイライト・スポーツ

[PR]