福島のロボット拠点始動 原発被災地の復興へ一歩
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2020/6/21 2:00
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福島県南相馬市で3月末、ロボットの開発拠点「福島ロボットテストフィールド」が全面開所した。同県の太平洋岸を指す「浜通り地区」は東京電力福島第1原子力発電所事故で多くの人が避難を余儀なくされ、9年以上たった今も人口が落ち込んだままだ。ロボットテストフィールドはドローン、災害救助など最先端のロボット関連企業や研究所の集積を促し、産業を復興させる使命を負う。

研究棟(左)と試験用プラント(福島県南相馬市)

研究棟(左)と試験用プラント(福島県南相馬市)

ロボットテストフィールドには防災ロボットの実験ができる長さ50メートルのトンネル、工場を模した6階建てのプラント、水害の被災地を再現した水没した町並みなど大小20余りの施設が立ち並ぶ。国と福島県が約155億円を投資して整備した「ロボットの実験や研究のための世界でも有数の拠点」(福島県のロボット産業推進室)だ。

あるドローン関連企業は「危険を伴う衝突や落下実験を自由にできるため、研究開発を加速できる」と評価する。2011年の東日本大震災以降の浜通りへのロボット関連の進出企業・団体数は約50社になる。

地元企業にも波及効果が表れ始めた。「渡された図面通りにつくるだけの下請け体質からの脱却を目指し、いずれはロボットを収益の柱にしたい」。ファクトリーオートメーション(FA)設備が主力のタカワ精密(南相馬市)の渡辺光貴取締役は、ロボット分野への参入をテコにした事業多角化への意気込みを語る。同社は現在、小型の水中ロボを開発中で、廃炉作業が続く福島第1原発の内部調査での利用を想定する。

水中ロボット試験用のプールは水深7メートル。水流も起こせる

水中ロボット試験用のプールは水深7メートル。水流も起こせる

南相馬市には日立製作所系の電子部品工場が立地するなど機械工業が盛んで、地元の中小企業が設立した南相馬ロボット産業協議会には約60社が参加している。だが、浜通り地区全体では原発事故後、多くの企業が撤退や廃業に追い込まれ、避難指示が出た地域の住民の帰還率は3割程度にとどまる。

新産業の創出によって浜通りの復興を目指す県の「福島イノベーション・コースト構想」でも、ロボット産業は柱の一つ。ロボットテストフィールドを軸に先端的な企業を集積し、地元企業と相乗効果を生み出す計画だ。

ロボット産業に大きな需要をもたらしそうなのが「県民の苦しみの元となった」(内堀雅雄知事)福島第1原発の事故処理だ。民間シンクタンクの日本経済研究センターの試算では、廃炉など事故処理にかかる費用は40年間で最大80兆円と空前の規模になる。浜通り南部の楢葉町には原子炉を実物大で再現した「モックアップ試験設備」があり、廃炉に向けた研究や実験が今後本格化する。

ドローン試験飛行用の管制塔を備える

ドローン試験飛行用の管制塔を備える

関係者が復興の先例として挙げるのは、原子爆弾の開発拠点で放射性物質による深刻な環境汚染が起きた米ワシントン州のハンフォード地域だ。冷戦終結後、米政府が主導して土壌や河川などの環境改善や産業の育成を強力に進めている。企業、研究機関の集積や都市開発によって人口が増加し、全米有数の経済成長を続ける地域となっている。

一方で、福島第1原発の廃炉は前例のない困難な作業が予想される。ロボットを活用して廃炉作業を進める計画そのものが、この先修正を迫られる事態を懸念する声もある。

福島復興の道のりは長く先行き不透明な部分もあるが、ロボットテストフィールドの開所で浜通りの産業復興は一歩を踏み出す。(郡山支局長 村田和彦、福島支局長 黒瀧啓介)

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