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極薄スライス 肌と調和 山本化学工業のマスクカバー

匠と巧

水着などに使う伸縮性のある生地で顔に密着するマスクカバー=大岡敦撮影

新型コロナウイルスの感染拡大でマスクの着用が日常となった昨今、顔とマスクの間にできるわずかな隙間が気になる人も多いのではないか。そんな不安を解消しようと、水着メーカーの山本化学工業(大阪市)が顔とマスクの密着性を高めるマスクカバーを開発し、4月に発売した。

厚さ0.5ミリと極薄のゴム生地の表と裏に繊維(ポリエステル)を配した素材を使った。「繊維は縦と横の方向にしか伸び縮みしないのに対し、ゴム生地はマルチ方向に伸び縮みする」と山本富造社長。ゴム生地と繊維を組み合わせた素材の方が繊維単独より伸縮性が高く、顔にぴったりと張りつくように密着する。

カバーはマスクの上にかぶせて着用する。ゴム生地は空気を通さないため、鼻から口にかけて10カ所開けた、直径7ミリの空気孔を通して呼吸する。

このカバーと不織布マスクをそれぞれマネキンに着け、口元にドライアイスを入れると空気の通り道の違いが分かる。不織布マスクは鼻など凹凸がある部分にできる隙間から冷気が漏れ出るのに対し、カバーの方は空気孔からしか冷気が噴き出てこない。

山本社長は「マスクの上から重ねて着用することでマスクのフィルターを通った空気だけを吸うことができる」と説明する。最新版の価格は1枚3300円。5月末までに約25万枚を販売した。

マスクカバーの商品化を可能にしたのは、厚さ1ミリのゴム生地に刃を入れ、真っ二つ(厚さ0.5ミリずつ)にスライスする技術だ。ゴム生地は、厚みがあっても軟らかいがゆえに切断しにくく、1ミリの生地をスライスするのは至難の業。山本社長は「ケーキを薄く切るのが難しいのと同じ」と例えた上で、「ウチにしかできない技術だと思う」と胸を張る。

使用する刃の種類や刃を入れる角度、ゴム生地を1回スライスするたびに刃を研ぐ工程などに独自のノウハウがある。ゴム生地が分厚いとマスクカバーが重くなり、着用時の不快感につながる。0.5ミリの薄さを実現することで、カバーの重さを5~6グラムに抑えることに成功。ゴムは水を吸収しないため、水洗いしてもすぐに乾く。150回の洗濯にも耐えられるという。

山本化学工業の名が広く知られたのは「たこ焼きラバー」の愛称で呼ばれ、記録向上につながる「高速水着」を開発した2008年の北京五輪だった。今回のマスクカバー製造の根幹となるゴム生地を極薄にスライスする技術は、もともと高速水着を製造するために確立したものだった。

10年に国際水泳連盟がラバー素材などを使った高速水着の使用を禁止。以降は宝の持ち腐れになっていた技術だが、新型コロナの感染拡大で再び活用の機会が巡ってきた。「高速水着の製造技術がこんな形で役に立つとは、当時は想像もできなかった」と山本社長。コンマ1秒を競うスポーツ用品のために生み出された技術が、コロナ対策の一助になっている。

(田村城)

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