キューサイの苦い10年、コカ・コーラがついに売却か

日経ビジネス
2020/6/23 2:00
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日経ビジネス電子版

青汁で知られるキューサイ(福岡市)が、再び岐路に立つかもしれない。全株式を持つコカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスが、キューサイを売却する準備に入ったからだ。買い手は果たして現れるのだろうか。

コカ・コーラはバークレイズ証券を雇い、キューサイ売却に向けたプレマーケティングを始めたようだ。まだ売却すると最終決定したわけではなさそうだが、どのような買い手がいて、どの程度の金額で売れるのか可能性を探るためとみられる。複数の投資ファンドなどが買収の打診を受けている。ファンド関係者や投資銀行関係者の見立てを総合すると、買収金額は300億~400億円あたりになるとの見方が有力だ。

キューサイの2019年度の売上高は約250億円で、事業利益と減価償却費の合計額は40億円台前半。18年度と比べると減収減益になったとみられるが、利益率も悪くない。そんなキューサイをなぜコカ・コーラは手放そうとしているのか。それを理解するには、キューサイがコカ・コーラ傘下に入った10年まで遡らなければいけない。

10年にキューサイを約360億円で買収したのは、同じ九州に地盤を持つコカ・コーラウエスト(17年にコカ・コーラウエストとコカ・コーライーストジャパンが経営統合し、コカ・コーラ ボトラーズジャパンに)だ。キューサイはMBO(経営陣が参加する買収)を実施し07年に上場を廃止していたが、コカ・コーラウエストはMBOの際に株主となった投資ファンドなどから全株を取得した。

■共同開発商品はわずか1つだけ

だが不特定多数を相手に売る清涼飲料メーカーと特定顧客を相手にすることが多い健康食品メーカーとでは開発や販売の手法が全く違う。当時のコカ・コーラウエストの吉松民雄社長は、買収発表の記者会見で「健康飲料の開発などで相乗効果を出したい」とする一方、「飲料と健康食品は全く別の事業」とも語っており、相乗効果が出るのか不安視する向きは多かった。

案の定と言うべきか、その後、今に至る10年間で両社に大きな相乗効果が生まれたとは言い難い。共同開発商品はわずか1つ。「ミニッツメイド おいしいフルーツ青汁」だけだ。

当時の交渉過程を知る関係者は「ウエストは(米コカ・コーラの本社を意味する)アトランタの反対を押し切ってキューサイを買収した」と証言する。当時のコカ・コーラウエストは飲料事業が苦戦し低利益率にあえいでいたため、利益率が相対的に高いキューサイを取り込もうとした。またキューサイ側もMBOの際に組んだファンドのエグジット(出口戦略)時期を迎えており、双方の思惑がかみ合った。

だが買収前も買収してからも「米コカ・コーラはキューサイに否定的な姿勢を変えなかった」(旧コカ・コーラウエスト関係者)。その理由は「青汁は野菜を飲んでいるだけでローテク。(青汁と並ぶ主力事業の)コラーゲン商品も、健康面での効能をうたうものにはリスクがつきもの」(米コカ・コーラ関係者)と見ていたからだ。

実際、17年にはキューサイ子会社の日本サプリメントが、許可条件を満たしていない商品を特定保健用食品(トクホ)として販売したのは景品表示法違反(優良誤認)にあたるとして消費者庁から課徴金納付命令を受けた。米コカ・コーラはこの10年間、「キューサイを売却しろというプレッシャーを日本にかけ続けていた」(銀行関係者)。これでは新商品などの相乗効果を出すどころではなかっただろう。

こうしたことからここ数年、キューサイが売却されるという噂話がM&A(合併・買収)関係者の間で何度も飛び交った。そして今回、その動きがとうとう顕在化してきたというわけだ。

■日本に進出したい中韓勢が手を挙げる可能性も

では買い手はいるのだろうか。キューサイには青汁で築いたブランド力がある。俳優の八名信夫さんが出演した「まずい、もう一杯!」というCMは多くの日本人の耳にこびりついており知名度も抜群だ。さらに健康食品の市場規模は高齢化の進展や健康志向の高まりもあり拡大が続く。加えて言うと今、多くの企業にダメージを与えている新型コロナウイルスに対し、同社のビジネスモデルは抵抗力もある。販売手法が実店舗ではなくテレビ通販や電子商取引(EC)サイト中心だからだ。

買収意欲があるかどうか聞かれたある投資ファンドは「安定した利益が期待でき、失敗しない案件のように見える」(ファンド幹部)と評価する。一方で「ここからさらなる収益向上策をと言われると、ぱっとは思いつかない」(同)とも話す。ファンドは投資先を成長させ買収価格より高値で売却して利益を得るが、その方策には頭を悩ませてしまうようだ。

事業会社はどうだろうか。「悪くはないと思うが、わざわざ数百億円を出して買収するほどではない」(飲料メーカー幹部)、「買収するならバイオなどもっと先端分野を手掛ける企業」(食品大手幹部)といった反応が多い。ある証券会社幹部は「モノづくり力では価値を訴求しにくい。販売網と顧客データを売りにすれば日本に進出したい中韓勢が手を挙げるだろう」と見る。

いずれにしろ「このままコカ・コーラグループ内で『まずい』立ち位置に置かれ続けるより、新たな親会社の下で心機一転した方がいい」という見方はできそうだ。コカ・コーラの決断が注目される。

(日経ビジネス 奥貴史)

[日経ビジネス電子版 2020年6月19日の記事を再構成]

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