日本株、純資産が下値切り上げ(阿部健児)
大和証券チーフストラテジスト

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2020/6/19 2:00
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IMFは、2020年の世界の実質GDP成長率をマイナス3.0%と、リーマン・ショック後の09年のマイナス0.1%を下回ると予想しています。コロナ禍による景気悪化は、リーマン・ショック時と同等以上となる公算が高まっています。

しかし、日経平均株価はリーマン・ショック時に比べ大幅に高い水準で推移しています。コロナ禍への懸念から20年3月19日に1万6552円まで下落しましたが、それを下値に反転上昇し、6月には一時2万3000円台を回復しました。コロナ禍後の下値は、リーマン・ショック後の下値、09年3月10日の7054円の倍以上です。

景気悪化が同等以上でもコロナ禍の下での日経平均株価の下値がリーマン・ショック後の下値を大きく上回った理由の1つには、日本企業のBPS(1株当たり純資産)の増加があるとみています。より幅広く上場企業の状況を把握するためにTOPIXのBPSをみると、08年度末から19年度末にかけて、約780ポイントから約1360ポイントへと約74%増加しました。

BPSは、企業が資産を売却し債務を返済した後に得られる1株当たりの解散価値と解釈されます。そのため、業績が大きく悪化しても、株価はBPSを下回りにくい傾向があります。TOPIXの株価をBPSで除して計算されるPBRの2000年以降の最低値は0.82倍と、株価はBPSを20%以上下回ることはありませんでした。

BPSは、利益から配当、自社株買いといった株主還元を除いた内部留保と、株価上昇や円安等による保有株式及び海外資産の評価益によって増加します。08年度末から19年度末までの約580ポイントのTOPIX BPS増加の内訳は、利益、配当、自社株買い、評価損益の増減寄与はそれぞれプラス850ポイント程度、マイナス300ポイント程度、マイナス100ポイント程度、プラス130ポイント程度と試算しています。

BPSはコロナ禍の下でも伸び続けるでしょうか。21年度末までのBPSの変化を予想すると、20年度は業績の悪化と配当の下方硬直性から総還元性向が上昇し例年よりも内部留保(利益-配当-自社株買い)が相当減少する一方、21年度には業績回復に伴い内部留保が増加し、2年間の内部留保による増加寄与は約50ポイントと予想しています。そこに株価上昇や円安による評価益も加わるため21年度末のBPSは約1410ポイントを超えるとみています。

その後については、ポストコロナの企業業績とともに企業の内部留保の姿勢が影響します。これまで企業の内部留保は、企業が資金を使わないため経済の好循環を止めるリスクがある等の議論から批判されてきました。そうした批判もあり、アベノミクスでのコーポレート・ガバナンス改革の下で、日本企業は株主還元を強化してきました。

しかしコロナ禍により一部の大企業までもが資金繰り対策を迫られました。コロナ禍をきっかけに日本企業が内部留保を増やす方向に動く可能性が指摘されています。私自身は、コーポレート・ガバナンス改革により日本企業の株主還元姿勢は構造的に積極化しており、コロナ禍後も極端に内部留保を増やすことはしないと予想していますが、日本企業の内部留保に対する姿勢の変化はBPSの先行きを占う上でも注目されます。

仮に、日本企業の22年度以降の当期利益率が年率5%で成長し、コロナ前の2018年度の総還元性向約50%を維持した場合、内部留保だけで30年度末のTOPIX BPSは約2000ポイント、日経平均株価換算で約2万8000円に到達と計算されます。実際には株価上昇等による評価益も加わるため、それを上回る可能性が高いと考えられます。2030年頃に再び何らかの危機に見舞われても、日経平均株価の下値はコロナ禍後の下値約1万6500円を大きく上回ると予想されます。

日経平均株価はバブル崩壊前の1989年12月末の3万8915円を約30年たった今も更新できておらず、日本株はボラティリティーが高い割に長期的な成長をもたらさないという評価が一部にあります。

しかし今回のコロナ禍により日本株の下値が10年タームで切り上がり、中長期的な上昇トレンドにあることが明確となりました。これは感染拡大第2波などの不確実性が残る中でも、1つの安心材料と考えています。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。
阿部健児(あべ・けんじ)


1998年東京大学経済学部卒、同年に財務省に入省し国際局等で勤務。07年に米ジョンズ・ホプキンス大学にてPh.D.(博士号)取得後、10年以上、日本株投資戦略の立案に従事。

[日経ヴェリタス2020年6月21日付]

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