コロナ抗体、大半保有せず 厚労省8000人調査の見方

厚生労働省は、新型コロナウイルスに対する抗体の保有状況を東京都と大阪府、宮城県で調査した結果、大半の人が抗体を保有していなかったと16日に明らかにした。抗体保有率は順に0.10%(1971人中2人)、0.17%(2970人中5人)、0.03%(3009人中1人)だった。
厚労省が結核予防会に委託し、累積患者数が多い東京都と大阪府、累積患者数が少ない宮城県において実施した。対象は各都府県と同様の性別、年齢構成となるよう無作為に選び出され、同意が得られた計7950人。
結核予防会の関連施設などで採血を行い、血中に新型コロナウイルスに対する抗体があるかどうかを調べた。今回測定に用いられたのは、「米食品医薬品局(FDA)が性能を確認し、緊急使用許可(EUA)を与えた抗体検査のうち、国内で入手できたもの」(厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部の担当者)
米アボットとスイス製薬大手ロシュの検査薬が使われた。いずれも測定には専用装置が必要だ。今回の調査では、双方の測定法で陽性と確認された検体のみを陽性(抗体を保有)と定義した。
参考として、現在EUAを申請中の米モコバイオ・バイオテクノロジーの検査薬も使用した。抗体保有率は東京都が1.07%、大阪府が1.25%、宮城県が1.20%と、アボットやロシュよりも陽性例が多く検出される傾向があった。
対策推進本部の担当者は、「単純比較はできないが、相対的な傾向として、米ニューヨークなどと比べると国内の抗体保有率は低く、過去に感染した人が少ないと推定される」とコメント。ただし、いずれかの測定法で陽性例とされた被験者が、過去に新型コロナウイルス感染症に罹患したことがあるか、濃厚接触者と接触したことがあるか、新型コロナウイルス感染症の症状が出たことがあるかなど、臨床情報などは現時点で収集しきれていないという。
もっとも、今回測定された抗体は、「どの程度持続するのか、再感染予防につながるのかどうかは分かっておらず、今後どのように政策に反映するかはまだ分からない」(対策推進本部の担当者)
自由診療の抗体検査、厚労省が問題視
現在、国内で承認された新型コロナウイルスに対する抗体検査の診断薬は存在せず、アボットやロシュなどを含めていずれも研究用試薬という位置付けだ。ただ国内では、米国でEUAを得るなど一定の評価がなされていない、性能のよく分からない抗体検査が数多く出回っている。
中でも、イムノクロマト法で測定できる(専用装置を必要としない)簡易抗体検査キットについては、医療機関で数多く提供されているのが実態だ。いずれも自由診療の枠組みで提供されているもので、ウェブサイトで「感染の有無を知ることができる」「(一般的には)抗体があることで再感染のリスクがなくなる」などとうたっている医療機関もある。
前出の担当者は、承認された診断薬が無いことや、性能がよく分からないものがあるといったことについて、「一般向けや医療機関向けに、情報を周知している。こうした事態については認識しており、省内で議論している」とコメントし、厚労省として問題意識を持っていることを示唆した。
(日経バイオテク 久保田文)
[日経バイオテクオンライン 2020年6月18日掲載]