野球部にできることは 実業団選手、コロナ下の決意

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コラム(社会・くらし)
2020/6/27 2:00
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練習する西部ガス硬式野球部の井手隼斗主将(左)(福岡市)

練習する西部ガス硬式野球部の井手隼斗主将(左)(福岡市)

「連盟から連絡があった。大会は中止だ」。4月2日の練習終わり、グラウンドに出てきた監督が告げると、ユニホーム姿の部員たちは黙って下を向くしかなかった。

実業団の西部ガス硬式野球部。「覚悟はしていました」。主将の井手隼斗さん(25)は語る。新型コロナウイルスの影響で五輪までも延期になる中、社会人野球が例外でいられるわけがない。頭では分かっていた。だが目の前の目標を奪われて感じた焦燥感は、想像を超えるものだった。

創部9年目で部員は25人。比較的後発組だが、2018年の都市対抗、19年の日本選手権など全国大会の出場経験もある。春先の練習試合では強豪にも勝利し、調子は良かった。

19年暮れに主将に就いて臨む初シーズンでもあった。参加予定だった4、5月の大会だけでなく、夏の日本選手権の取りやめまであっという間に決まった。会社の在宅勤務方針に合わせ、全体練習も自粛となった。

自宅でできるのはランニングやストレッチ程度。通っていたスポーツジムは休業になり、仕上げてきた体も目算が狂った。「野球をする環境は大きく変わってしまった」

毎年の新人加入で、ベテランの一部は「戦力外」となる。多くは一社員として通常業務に専念する第二の会社人生を選ぶ。総務広報部の総務担当をしながらサードのレギュラーの座を守る井手さんも例外ではない。

練習前のミーティングで話す西部ガス硬式野球部の井手隼斗主将(右から2人目)=福岡市

練習前のミーティングで話す西部ガス硬式野球部の井手隼斗主将(右から2人目)=福岡市

大学時代、プロも輩出する関西のリーグで首位打者に輝いた。西部ガス野球部に入部したのは「地元の福岡に戻っても野球を続けられる」と思ったから。大人なのに泥臭いプレースタイルにも魅力を感じた。

会社では午前中に総務広報部で勤務し、午後はユニホームに着替えてグラウンドに出るのが日課だった。遠征に出れば、1週間ほど仕事を空けることもあった。入社当初は「自分が抜けた穴を他の誰かが埋めている」という負い目を感じたこともあったが、「野球で活躍することが会社への貢献になる」と割り切って練習に打ち込んだ。

だがコロナ禍で会社も営業活動を自粛し、飲食店の休業でガス需要も減少。職場での貢献も難しくなった。「試合で勝つだけが野球部の存在価値なら、いつかは不要になるのでは」。井手さんに焦りが募った。

社会人野球はここ数年参入チームが増えるなど、一時期の低迷から脱却する兆しも見え始めていた。そんな中で襲ったコロナ禍は、井手さんの目を野球とは無関係のニュースに向けさせる契機になった。企業スポーツのあり方に思いを巡らせる機会も増えた。

「野球部としての新たな価値を生み出せないだろうか」。5月14日に福岡県の緊急事態宣言が解除され、野球部の活動も本格的に再開されるのを前に、井手さんはチームメートに呼びかけてみた。野球部を前面に出した営業や、地域に寄り添う野球教室――。部員からはアイデアが次々と湧き出した。

練習でチームメートと話す西部ガス硬式野球部の井手隼斗主将(左端)=福岡市

練習でチームメートと話す西部ガス硬式野球部の井手隼斗主将(左端)=福岡市

活動自粛中、上司は「野球部も大変だな」と気にかけてくれた。「最近どうしてる」と声をかけてくる同僚もいた。「会社があっての野球部だ」。井手さんはそんな思いを強くしている。

新型コロナがもたらした「新常態」のもとで、どんな役割を見いだせるのか。仲間と一緒に答えを探すつもりだ。

文  北本匠

写真 沢井慎也

■社会人野球、人気回復傾向も


 企業スポーツは正社員の福利厚生や教育訓練の一環として戦前に始まった。バブル期に増えた宣伝目的のチームは、バブル崩壊とともに撤退が相次いだが、北海学園大の沢野雅彦元教授(経営学)によると、近年は人材確保や地域貢献の一環として改めて新規参入の動きが出ているという。
 社会人野球もバブル後の低迷を経て、最近は人気に復調の兆しが見えている。統括する日本野球連盟(JABA)によると、都市対抗野球は2019年に29年ぶりに有料入場者数が60万人を上回った。企業チーム数も1990年代の140超から2010年にいったん72まで減ったが、今年4月末時点では86に戻した。
JABA担当者は「硬式野球を続けたい学生は多く、若手人材を確保したい企業が参入している」とみている。
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