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競馬場・ウインズ発 啄木の足跡と歌碑を巡る旅

2020/6/20 3:00
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中央競馬の夏の北海道シリーズが始まった。北海道への移動は函館、札幌とも航空機が基本。夕方の便に乗れば、進行方向左側の窓から美しい夕陽を見ながらの飛行になる。函館につく頃には、市内の街並み、五稜郭、そして函館競馬場のコースやスタンド、パドックを眼下に見ながら空港へと降下することが多い。今年もこの景色を楽しみにしていた。

五稜郭近くにある熊のアート。タイトルは「ぢっと手を見る」

五稜郭近くにある熊のアート。タイトルは「ぢっと手を見る」

ところが、忙しさにかまけて航空便の予約が済んでいなかった5月初旬、新型コロナウイルスの影響で函館行き減便の噂が聞こえてきた。急いで調べてみると、夕方の便は2社のうち1社が早々と欠航。もう1社は既に満席の表示だった。残る方法は4年前に開業した北海道新幹線しかない。

早速、計画を立ててみると、函館までの所要時間は4時間40分。一昨年、小倉出張に新幹線を利用したときとほぼ同じだ。金曜日に移動する場合、翌日の実況の準備など仕事は山ほどあるので、あっという間に時間は過ぎる。鉄路の旅も意外に快適かもしれない。

学生時代、夜行列車に乗り、津軽海峡を連絡船で渡って何度か北海道へ長旅をした。歌人石川啄木の生涯に現代の純愛を重ね合わせた小説「北帰行」(外岡秀俊著)に感化され、啄木ゆかりの地を訪ね歩く旅。啄木の生まれ育った盛岡市周辺から彼の移り住んだ北海道函館、小樽、札幌、釧路と記念館や歌碑を列車に乗って訪ね歩いたものだった。

盛岡で途中下車、歌碑と競馬場へ

競馬中継の仕事をするようになってからも、啄木が足跡を残した場所に何度か立ち寄った。偶然にもこれらの土地の多くには、競馬場や場外発売所(ウインズ)がある。

1992年9月14日。函館競馬の帰りに盛岡で途中下車した。4年前に開業した津軽海峡線を使って鉄道で移動。盛岡から東京までは新幹線がつながっていた。

盛岡下車の目的は啄木の足跡を改めてたどるだけでなく、市の中心部から3キロほど離れた場所にあった地方競馬(岩手県競馬組合)の盛岡競馬場(現在は郊外に移設)を初めて訪ねることだった。盛岡城跡公園(岩手公園)の歌碑「不来方のお城の草に寝ころびて 空に吸はれし 十五の心」から、旧制中学時代の啄木の散策ルートだったという天満宮近くに立つ「病のごと 思郷のこころ湧く日なり 目にあをぞらの煙かなしも」の碑を確認。そこから街の外周道路を40分ほど歩いた高松公園の北側に盛岡競馬場はあった。

向正面の高低差が9メートル近いアップダウンの激しい細長い周回コース。カーブは急だがその分最後の直線は比較的長い。見るからに興味をかき立てられる形状だった。

後に桜花賞、オークスで2着となったユキノビジンの岩手時代

後に桜花賞、オークスで2着となったユキノビジンの岩手時代

この日のメインレースは3歳(現在の表記で2歳)馬による1100メートル戦「ビギナーズカップ」。持ち前のスピードで2着に3馬身の差をつけて圧勝したのは、父サクラユタカオー譲りの栗毛が輝くように美しかった牝馬ユキノビジン。この馬が翌93年、中央に移籍して桜花賞、優駿牝馬(オークス)で2冠馬ベガと接戦を繰り広げるとは、この時は想像もできなかった。後に思い起こすと、とても印象深い盛岡途中下車となった。

札幌・函館・釧路で新たな出合い

その後、啄木の旅からは少し遠ざかってしまった。しかし、時に新たな出合いがある。札幌で宿泊したホテルに隣接したビルには、啄木の下宿跡を示す案内板と半身像ができていた。函館五稜郭近くの道に15年ほど前に置かれた熊のアートのタイトルは「ぢっと手を見る」(はたらけど はたらけど猶わが生活楽にならざり ぢっと手を見る)だった。

啄木がわずか76日間滞在しただけの釧路は、もう40年以上訪れていないが、市の名所・幣舞橋を渡り、「しらしらと氷かがやき 千鳥なく 釧路の海の冬の月かな」の碑を見に行くためにテクテク歩いた南大通りは啄木通りと名前を変え、現在は周辺に25もの歌碑があるという。

啄木は北海道から東京に移り、銀座の新聞社に勤務したのち、1912年4月、結核のため文京区小石川で亡くなった。26年の短い生涯だった。

東京都文京区小石川の石川啄木が最期を迎えた地

東京都文京区小石川の石川啄木が最期を迎えた地

ウインズ銀座から500メートルほどの啄木が最後に勤務した新聞社跡には著名なブランドショップが並ぶ。ビルの前の並木通りには没後60年を記念して建てられたという歌碑「京橋の瀧山町の 新聞社 灯ともる頃のいそがしさかな」がひっそりたたずんでいる。

ウインズ後楽園から春日通りに出て北西へ進み、桜並木で有名な播磨坂を下った先の奥まった場所に、石川啄木顕彰室(高齢者施設内)と啄木終焉(しゅうえん)の地歌碑「呼吸すれば 胸の中にて鳴る音あり 凩(こがらし)よりもさびしきその音!」(他1首)が設置されたのは今から5年前のことだ。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 佐藤泉)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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