ワクチン囲い込み、米国と欧州が攻防

BP速報
2020/6/17 18:05
保存
共有
印刷
その他

新型コロナウイルスのワクチン開発が急ピッチで進められている=ロイター

新型コロナウイルスのワクチン開発が急ピッチで進められている=ロイター

日経バイオテク

欧州では最近、新型コロナウイルス感染症対策としてのロックダウン(都市封鎖)を順次、緩和し始めている。それと並行して、「第2波」への備えや終息への切り札としてワクチンの開発が進められているが、米国のワクチン囲い込みに対して欧州が反発するといった対立の構図が、ここへ来て浮かび上がってきた。

欧州はワクチン開発に多額の資金を投入している。欧州連合(EU)の欧州委員会は4月上旬、研究に関する全体方針を発表し、研究開発向けの投資を各国が協調して進める、研究データを共有するプラットフォームを整備する――ことなどを表明した。5月上旬には、「コロナウイルス・グローバル・レスポンス」を主催し、ワクチンや治療法の開発促進のため、40カ国の政府などから合計80億ドル(約8600億円)を確保した。これには欧州諸国の他に日本などが参加した一方、米国は参加しなかった。5月中旬には欧州諸国全体の研究開発支援の枠組みである「ホライズン2020」の予算から、1億2000万ユーロ(約150億円)をコロナウイルスの研究に拠出することを発表した。

英国は独自にワクチン開発への投資を進めている。大量製造に対応できるよう、製造施設の建設に1億3000万ポンド(約180億円)を拠出することを5月中旬に発表した。もともと設立が予定されていた製造設備の完成を前倒しするために9300万ポンド(約130億円)を拠出し、2021年夏の開設を目指す。さらに、この設備が開設する前にワクチンの有用性が確認された場合に備え、英国内の需要をカバーできる生産能力を持つ製造施設を6カ月以内に設立すべく、3800万ポンド(約51億円)を拠出した。同じく5月中旬、英オックスフォード大学と英インペリアル・カレッジ・ロンドンのワクチン開発プロジェクトに8400万ポンド(約110億円)を拠出すると発表した。

■米国が資金供与、見返りに優先供給求める

このように欧州各国がワクチン開発への投資を急ぐ背景には、米国との攻防に端を発する焦燥感がありそうだ。米国は欧州の有望なワクチン開発プロジェクトに対し多額の投資をすることで、米国民にいち早くワクチンを供給できる体制を整えつつある。その動きに欧州各国が抵抗をみせているわけだ。

3月、米国政府がワクチン開発企業の独キュアバックに対して多額の投資と引き換えに米国への誘致を試み、ドイツ政府が阻止すべく対策を講じたとされている。

5月中旬には、米生物医学先端研究開発局(BARDA)より3000万ドル(約32億円)の投資を受けた仏サノフィが、米国に優先的にワクチンを供給する方針を発表してフランス国内で批判が広がった。フィリップ仏首相はサノフィに対し、ワクチンは世界の公衆衛生のために使われるべきであり市場原理によって特定の国が優先されるべきではない、と警告した。これを受けてサノフィは前言を撤回し、全世界に公平に供給する方針を発表した。

さらに5月下旬には、英アストラゼネカとオックスフォード大の開発プロジェクトに対して米国側が、米国内での第3相臨床試験の実施費用として最大12億ドル(約1300億円)を投資する代わりに、初回生産分から少なくとも3億回分のワクチンを米国に供給することを確約させた。ワクチンの確保をめぐる米国と欧州の攻防は続いている。

欧州でのワクチンの主要なパイプライン(開発候補)は以下の通りだ。オックスフォード大がアストラゼネカに導出し開発を進めているワクチンは、アデノウイルスをベクター(遺伝子の運び手)とし、新型コロナウイルスが人に感染する際に足がかりとするウイルス表面のスパイクたんぱく質を体内で発現するようにしたものだ。第1相臨床試験を4月末に開始し、5月末には第2相・第3相臨床試験の開始を発表した。今年9月の承認を目指して急ピッチで開発を進めている。

サノフィと英グラクソ・スミスクラインは4月に共同開発を行うことを発表し、たんぱく質抗原とアジュバント(免疫反応を増強させる物質)を組み合わせたワクチンの臨床試験の準備を進めている。

インペリアル・カレッジ・ロンドン、独ビオンテック、キュアバックは、それぞれメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの開発を進めている。インペリアル・カレッジ・ロンドンは英国政府から2250万ポンド(約30億円)の投資を受けて臨床試験の準備を進めている。ビオンテックは米ファイザーと共同で臨床試験を4月にドイツで開始した。キュアバックはビル&メリンダ・ゲイツ財団と米国防総省より投資を得ており、6月に臨床試験を開始する予定だ。

ワクチン確保に向けた各国の攻防が例を見ないスピードで進んでおり、開発状況を含めて今後も目が離せない。

(アーサー・ディ・リトル・ジャパン アドバイザー 塩原梓)

[日経バイオテクオンライン 2020年6月15日掲載]

保存
共有
印刷
その他

日経BPの関連記事

電子版トップ



[PR]