/

米軍トップ、辞任よぎった夜 「親トランプ」の苦悩

ワシントン支局 中村亮

「その指示には従えません」――。1日昼、全米に広がった抗議デモ対策を議論するホワイトハウスの大統領執務室に怒号が響いた。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、デモ鎮圧のために米軍動員を求めるトランプ大統領に激しく抵抗していた。合衆国憲法修正第1条は「表現の自由」を認め、平和的なデモはその象徴だ。米軍がデモを制圧すれば国民の権利を剥奪したとみなされる。ミリー氏は怒りに震えながら資料を指さしてトランプ氏の説得にあたった。

米メディアによるとミリー氏はひとまず軍動員の回避に成功したが、惨事はその後に起きた。1日夕、警官隊が催涙ガスなどを使ってホワイトハウス前でのデモを強制排除。教会を訪れるためにそのエリアを歩いて通り抜けたトランプ氏に、戦闘服姿のミリー氏が随行した。期せずしてミリー氏はトランプ氏が11月の大統領選に向けて演出したい「強い指導者」の引き立て役になり、軍がデモ制圧に関与したかのようなイメージをつくりだしていた。

中立的であるべき米軍トップ

米メディアによると、ミリー氏は1日夜に数時間にわたり交流サイトやニュースを読みあさり、自らの行動が「軍による政治介入」などと集中砲火を浴びる事態を目の当たりにしていた。

「中立的であるべき米軍トップが大統領再選を手助けしたように受け止められている」――。ミリー氏は周辺に辞任の是非を相談するようになっていたという。その後には海兵隊大将を務めたマティス前国防長官などの米軍OBもミリー氏を含む政権のデモ対応を強く批判するようになった。

ミリー氏は1980年に陸軍に入り、イラクやアフガニスタン、エジプトなどに派遣された。2015年に陸軍制服組トップの参謀総長、19年に米軍トップの統合参謀本部議長に昇格した。古代ギリシャの歴史本などを短時間で読んでしまう読書家の顔を持つという。

そんなミリー氏に対し、元国防総省高官は米軍OBによる批判が相次いだことに関し「これまでもトランプ氏との蜜月関係に懸念があったことが一因だ」と指摘する。たとえば元軍人で政権初代の大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたマイケル・フリン氏についてトランプ氏は5月に「ミリー氏が彼はすばらしい人だと言っていた」と語った。フリン氏は与野党対立が激しいロシア疑惑の渦中におり、米軍トップが同氏に肩入れするような会話をすべきではないとの批判が一部で出た。

ささやかれる「裏の指揮系統」

同高官によると、トランプ氏とミリー氏は頻繁に電話する仲でもある。ミリー氏がトランプ氏の意向を把握し、エスパー国防長官に伝えて政策に反映させることも少なくないという。ミリー氏の前任であるダンフォード統合参謀本部議長との間では見られなかった「裏の指揮系統」が存在するもようだ。

ミリー米統合参謀本部議長は記者会見でほとんど表情を崩さない(国防総省)

ミリー氏にはトランプ氏に恩もある。マティス氏は国防長官時代に統合参謀本部議長にはゴールドフィン空軍参謀総長を充てる意向だったがトランプ氏は拒否した。ミリー氏はこわもての風貌で記者会見でも鋭い目つきで記者を見てめったに笑わない。だがミリー氏を知る人物によると、軍内部では物腰柔らかく和やかな人物だという。トランプ氏の周辺はこうした性格が同氏と合うという理由もあり、ミリー氏を米軍トップに推したとされる。

軍と政治の垣根が低くなったのは、1988年の大統領選でブッシュ(父)共和党候補を海兵隊元幹部が支持してからだとされる。軍人は超党派の尊敬を集めるケースが多く、政治家はその支持を得れば選挙で有利になるとの算段が働く。安全保障政策での「お墨付き」を得る狙いもある。2016年の大統領選では共和党のトランプ氏と民主党のクリントン元国務長官が退役軍人からの支持数を争う場面もあった。

国防大卒業生への祝辞で謝罪

「私はあの場にいるべきではなかった」。ミリー氏は11日、国防大学の卒業生に向けた祝辞でホワイトハウス前で軍服を着てトランプ氏に随行したことを謝罪した。「みなさんもこの誤りから学んでほしいと私は切に願っている」とも語り、軍は国内政治から距離を置くべきだとの考えを重ねて示した。トランプ氏もミリー氏の謝罪などに関して「(私への)大きな反発ではない」と指摘。関係修復に向けて進み始めているようだ。

だがトランプ氏は米軍に影響力を強めるために腹心をさらに送り込む。国防総省のナンバー3の国防次官(政策担当)には保守系メディアのコメンテーターとして知られる退役軍人のアンソニー・タタ氏が指名されている。オバマ前大統領が過激派組織「イスラム国」(IS)に弱腰だったとの見方を示し、「テロ組織の指導者」と批判。民主党のペロシ下院議長についても「急進左派だ」と断じ、トランプ氏の主張と足並みをそろえる。

政権と米軍も多くの火種を残す。米軍は1861~65年に奴隷制維持を目指した南軍に由来する米軍基地の改名を探っているが、トランプ氏は公然と反対している。米軍内では非白人の割合が4割程度にのぼっており人種差別問題は避けては通れない課題だ。トランプ氏が意欲を示すアフガニスタンからの完全撤収についても米軍は「まだ条件に達していない」(マッケンジー中央軍司令官)との立場で温度差は隠せない。

米大統領選

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン