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相乗りから医療輸送へ ウーバーとリフト回生の一手

CBINSIGHTS
新型コロナウイルス感染対策による外出自粛などで相乗りサービスの需要が急減している。そこで、ライドシェア大手の米ウーバーテクノロジーズや米リフトが商機を見いだそうとしているのが、医療分野での物資輸送や患者送迎サービスだ。人手不足に加え、新型コロナの影響によるネット取引の増加で、既存の物流網は逼迫している。両社がこうした需要を取り込み、新しい事業の柱に育てることができるのか。CBインサイツが分析した。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)により、ライドシェアは大打撃を受けている。ロックダウン(都市封鎖)や感染の懸念から相乗りサービスの需要が減っているからだ。2020年1~3月期の米ウーバーのライドシェア部門の需要は80%、米リフトは75%それぞれ減少した。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ライドシェアへの懸念はいずれ解消するだろうが、両社はもっと確実な需要が見込める別の分野に商機を見いだしつつある。病院への送迎や物資配送など医療関連サービスの提供がこれに含まれる。

(米国では)医療機関へのアクセスが容易ではない人が依然として多い。診療を予約しても移動手段がないために受診できなかったケースは予約全体の3割を占め、未受診による米医療業界の損失は年約1500億ドルに上る。

こうした状況を受け、ウーバーとリフトは自分で車を運転できない人を診療予約に合わせて送迎する「非救急の病院送迎(NEMT)」サービスに特に力を入れている。ウーバーの試算によると、非救急の病院送迎サービスだけで年間150億ドルのビジネスチャンスが広がる。

ウーバーとリフトのサービスの使い道は非救急の病院送迎にとどまらない。新型コロナのパンデミックを受け、特に料理宅配と医療物資の輸送への需要が急増している。

今回のリポートでは、ウーバーとリフトの医療分野でのこれまでの取り組みと今後について掘り下げる。

ウーバーとリフトはいま医療分野で何をしているのか

▽非救急の病院送迎サービス(NEMT)

ウーバーとリフトは18年、医療関連の送迎サービスにそれぞれ乗り出した。ウーバーは「ウーバーヘルス(Uber Health)」、リフトは「リフト・コンシェルジュ(Lyft Concierge)」という名称で、診療予約に合わせた送迎サービスを提供している。

非救急の病院送迎サービスは以前からあったが、両社のモデルはより柔軟に予約できて便利な上に、供給台数も多いことが特徴だ。

両社は医療分野の様々な事業者と提携している。提携パートナーには、非救急の病院送迎サービスのバリューチェーン(サービスを形作る企業活動のつながり)全体のあらゆる企業やスタートアップなどが含まれる。以下はその主な例だ。

・非救急病院送迎サービス仲介業者:医療保険と契約し、指定エリアで患者の送迎サービスを運営する企業。仲介業者が送迎サービスを拡充できるよう、ウーバーとリフトは車両の供給を増やしている。

・医療システム・医療従事者:ウーバーとリフトのサービスを使って患者に送迎を提供できる病院や診療所など。

・電子医療記録(EHR):医療関連のIT(情報技術)製品やサービスを使って臨床や財務、運営面の改善を手がける企業。ウーバーとリフトはこうした企業と提携し、非救急の病院送迎サービスを医師のワークフローに直接組み入れようとしている。

今のところ、両社の医療分野での取り組みは成果を上げている。

リフトは高齢者向け民間医療保険「メディケア・アドバンテージ」と低所得者向け公的医療保険「メディケイド」層を対象にした医療機関、米ケアモア・ヘルスシステムと提携している。ケアモアはこの提携により送迎サービスを従来のタクシーなどからリフトに切り替え、年間100万ドル以上のコスト削減を果たした。

ウーバーは米ボストンメディカルセンターと提携し、敷地内のシャトルバスに代わる送迎サービスを提供している。これにより50万ドルの節約効果があった。

▽連携ケアマネジメント

リフトは今年3月、米ユナイトアス(Unite Us)との提携を発表した。ユナイトアスは、医療機関が個人の身体的、精神的、社会的な状態を向上させるために、患者とソーシャルワーカーをつなぐのを手助けするプラットフォームを手掛けている。

この提携により、健康を社会的に決定づけている2つの要素――医療と社会福祉サービスを円滑に利用できるようにする。

▽食品・必需品の配達

新型コロナの影響で必需品や医療物資の配達への需要も高まっている。外出制限令に伴い、全米各地で移動や食料品店への買い物が制限されていることが背景にある。

ウーバーとリフトはこうした新たな収益機会に対応し、プラットフォームの拡充を急いでいる。ライドシェアの需要が低迷しているため、両社の契約運転手はこうした新たな役割を引き受けることができる。

ウーバーは最近、パンデミックによる需要急増に対応した2つのサービスを開始した。「ウーバーダイレクト(Uber Direct)」は料理配達サービス「ウーバーイーツ」から派生したサービスで、配達の対象を小売り全体に広げている。「ウーバーコネクト(Uber Connect)」では家族や友人がウーバーの運転手を通じて互いに物資を送り合うことができる。

一方、リフトはプラットフォームサービスを拡充し、医療機関と配送提携などに乗り出している。3月には米アマゾン・ドット・コムとの提携も発表した。両社はリフトの運転手に医療物資や食事を配達させる実証実験を始めている。

これから有望な分野

ウーバーとリフトは処方薬やワクチン、医療機器の配送など医療の他の分野のサービスに参入する方針も示唆している。

▽医療機器の輸送

ウーバーとリフトは新型コロナの感染拡大を受け、医療物資の輸送に参入している。

ウーバーは今後を見据え、既に全米で荷物を輸送している「ウーバーフレイト(Uber Freight)」事業のインフラを活用する可能性がある。その場合には、全米の医療従事者に耐久財の医療機器も輸送できるようになる。

▽処方薬・ワクチンの宅配

ウーバーは新型コロナの感染拡大前に、処方薬を患者の家に届ける事業への関心を示していた。

米カプセル(Capsule)、米アルトファーマシー(Alto Pharmacy)、米ジップドラッグ(Zipdrug)などは同様のサービスを手掛けており、3社合計で6億3500万ドルを調達している。

ウーバーが処方薬の宅配を始めれば、いずれアマゾンと競合することになるかもしれない。両社が将来提供しそうなサービスといえる。

ウーバーとリフトにとって近い将来商機になる可能性があるもう一つの分野は、ワクチンを患者の家に配達し、投与するサービスだ。

米物流大手UPSは最近発表した実証実験プログラムで、ワクチンを宅配している。傘下の医療物流会社、米マーケンを通じ、市場規模1050億ドルの医療物流アウトソーシング市場への投資を増やす構えだ。

UPSは有資格の訪問看護師を雇い、配達したワクチンを患者に投与するサービスも提供している。ウーバーとリフトもこのモデルを採用する可能性がある。このサービスによりワクチン接種率が向上したことが明らかになれば、高齢者向け民間医療保険「メディケア・アドバンテージ」の保険会社はこのサービスを保険で負担できるようにするかもしれない。

▽空飛ぶ救急車

さらに、ウーバーとリフトは現在の研究開発をテコに、航空医療輸送に参入して医療分野での存在感を高める可能性がある。CBインサイツの業界アナリスト予想によると、世界のこの市場の規模は25年には82億ドルに達する。

航空事業「ウーバーエレベート(Uber Elevate)」は現在、空のライドシェアサービスの開発に取り組んでいる。事業が軌道に乗れば、ウーバーはこの技術を医療輸送に転用できるようになるだろう。

▽臓器の搬送

移植用の臓器の搬送は空飛ぶ救急車よりも近いうちに実現可能だろう。このサービスは到着時に臓器を完全な状態に保っておくため、リアルタイムでの機内の監視など多くの追加安全機能が必要になる。

臓器はドローン(小型無人機)や車、垂直離着陸機(VTOL)を使って搬送する。米メリーランド州では既にドローンによる移植用の腎臓の搬送に成功している。

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