北京に新型コロナ第2波襲来、食卓から消えるサーモン

日経ビジネス
2020/6/18 2:00
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封鎖された北京市の新発地卸売市場は人民武装警察部隊の監視のもと厳戒態勢に置かれていた(2020年6月15日、北京市)

封鎖された北京市の新発地卸売市場は人民武装警察部隊の監視のもと厳戒態勢に置かれていた(2020年6月15日、北京市)

日経ビジネス電子版

一度は新型コロナウイルスの感染拡大封じ込めに成功したかと思われた北京市で、大規模な集団感染が発生した。中心地となっているのは新発地卸売市場。国内外から食材が集まりレストランやスーパーなどの仕入れ担当者や一般客などでごった返す市内最大の生鮮卸売市場だ。東京で言えばかつての築地市場や、豊洲市場のイメージに近い。

■警戒レベル引き下げの矢先に集団感染

北京市は6月6日、輸入症例を除けば50日間新たな発症者がいなかったとして、感染症の警戒レベルを引き下げたばかりだった。新発地市場で新たに1人の発症者が確認されたのは同11日のこと。翌12日に6人、13日に36人、14日には36人の感染者が確認された。

「北京市は第2の武漢になるのか」。中国のネットではこんな不安が拡散している。生鮮市場からのウイルス感染が広がっていく様は、昨年末から今年1月にかけての湖北省武漢市を想起させる。当時、地方政府が政治の重要日程を最優先して感染情報を適切に示さなかったことが、取り返しのつかない感染拡大につながったとの指摘は多い。

中国衛生当局の高級専門家委員会メンバーである曽光氏は現地メディアに対して「北京が第2の武漢になることはないだろうが、ウイルスが全国に伝播すれば『封城(ロックダウン)』が必要となる」と述べた。同時に「全市民対象のPCR検査は必要ないが、検査範囲をさらに拡大する必要はある。新発地の直営店や関連する小区、レストラン、食堂などの場所はみな人、環境、食品に対する検査を実施しなければならない」と指摘した。

中国政府は6月7日、新型コロナウイルスをめぐる自国の対応についてまとめた初の白書を発表している。曽氏の発言の背景には、医療や検査のリソースが充実していることに加えて、対応策もある程度確立しているという自信がありそうだ。

当時の武漢市に比べ、北京市当局の動きは迅速だったと言える。6月12日に集団感染の疑いが強まったとみるや、翌13日に同市場を含む大規模な食品市場や観光名所を閉鎖し、新発地卸売市場周辺にある11の居住区の出入り口も封鎖した。15日には、5月30日以降に新発地卸売市場を訪れた20万人を対象にPCR検査を進めると発表した。中国国営の新華社通信は北京市が代替の臨時市場を設けるなど、生鮮食品の安定供給に尽力していると伝えている。

新発地市場では、サーモンをさばいたまな板から新型コロナウイルスが検出された。そのウイルスの遺伝子は、中国ではなく欧州で広まっている型であるとされる。輸入サーモンに付着したものが生き残っていたのか、欧州から帰国した人を経由したのか、現時点で経路は不明だ。曽光氏は「当分の間、北京では(感染源の疑いがある)生サーモンを食べないでほしい」と述べている。

■サーモン販売停止の動き広まる

北京での集団感染のニュースによって、全国の多くのスーパーでサーモンの販売を一時停止する動きが広まった。澎湃新聞など中国の複数メディアは、欧州からのサーモンの輸入を停止したと伝えた。飲食店の従業員は「刺し身の提供を控えるよう通知を受けた」と証言する。中国はもともと生魚を食べる文化は少なかったが、サーモンの刺し身は近年、人気料理として食卓に上る機会も増えており、動揺が広がっている。

1月下旬以降の中国の感染拡大防止策の特徴は、リスク範囲を大きめに評価してやや過剰とも思える対策を実施してきたことだ。例えば上海市では2月、空調システムを介してウイルスが拡散しないよう、市当局が工場やオフィスビルに対して全館空調の停止を要求。寒さに震えながら仕事を続ける人も少なくなかった。それが解除されたのは、5月になって全市でほぼ感染が抑え込んだと判断されてからだ。結果的に過剰反応となる可能性はあるが、未知のウイルスに対抗する手段としてやむを得ない判断だっただろう。

中国政府は全国各地でウイルス拡散のスピードを抑えて時間を稼ぐ間に、検査体制を大幅に拡充した。先月、武漢市で約1000万人を検査したのは、こうしたキャパシティがあるからだ。

北京市での感染拡大を受け、同市幹部は「戦時状態に入った」と対策を強化する姿勢を示している。市場のある北京市豊台区の一部幹部は更迭された。首都防衛が成功するかどうかは、新型コロナウイルスを乗り越えてきたと自信を深めてきた中国にとって、想像以上に大きな試練と言える。

(日経BP上海支局長 広岡延隆)

[日経ビジネス電子版 2020年6月16日の記事を再構成]

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