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つながる虎ノ門 新駅で見えた森ビルの都市戦略

2020/6/22 5:30
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都市再開発が続く東京・虎ノ門は東京五輪・パラリンピックで大改造が進む東京の象徴的な場所だ。コロナ禍のなかでも地下鉄の新駅開業、臨海部へのアクセス改善を担うバスターミナルを備えた超高層オフィスビルの完成など話題には事欠かない。来夏の東京大会開催とその後を見据え、東京の価値を一段と高めようとしている。

6月6日、虎ノ門ヒルズ駅が開業した。虎ノ門周辺の住民やオフィスワーカーが待ち望んだ新駅だが、それ以上に期待を寄せる企業がある。「虎ノ門の大家」森ビルだ。森ビルにとって、虎ノ門ヒルズは失敗が許されない巨大プロジェクト。そのままの名前がついた新駅という援軍を得て、新しいビジネス街をつくる事業を加速させたい考えだ。

■森泰吉郎が残した教え

「虎ノ門の土地もビルも売ってはならない」――。

森トラストの会長を務める森章は父親の森泰吉郎から聞いた言葉を今でも鮮明に覚えている。森家は虎ノ門界隈(かいわい)にビルや土地をいくつか持っていたが、高度成長に乗って不動産価格が上がったからと言って、簡単に処分してお金に換えてはならないと諭したのだった。森章はこの言葉を後に森ビルの中興の祖となる森稔とともに聞いた。

泰吉郎は横浜市立経済専門学校(現・横浜市立大学)の教授で1954年に商学部長に就任、57年には学長選挙に駆り出されるほど実績のある研究者だった。その泰吉郎が、なぜ虎ノ門の不動産を売ってはならないと子供たちに言って聞かせたのか――。

理由はこうだ。「1960年代、高度成長に入った日本は大蔵省(現・財務省)や通産省(現・経済産業省)など霞が関の官庁主導で成長を遂げていく。その霞が関に隣接する虎ノ門の価値は必ず上がる」

この泰吉郎の言葉は的確だった。業界団体や政府の外郭団体が虎ノ門に次々と拠点を置き始めたのだ。官庁の政策一つで経営環境が大きく変わる可能性のある業界団体にとっても、官僚との調整が不可欠な外郭団体にとっても、必要があれば、わずか5分で霞が関に飛んでいける虎ノ門は格好の場所だ。学者だった泰吉郎はそれを見抜いていた。

しかし現在、ビジネス街としての存在感は三菱地所の営業地盤である丸の内、住友不動産の新宿などに比べるとまだまだ。オフィス賃料にしても虎ノ門が持つポテンシャル(潜在力)に見合った水準とはいえない。例えば、立地や設備に優位性がある「Aクラスビル」で見れば虎ノ門の賃料水準は丸の内の7~8割といったところだ。

背景には交通アクセスの不便さがある。森ビルは総額4000億円を投じて虎ノ門ヒルズプロジェクトを展開中だ。2014年に完成した中核ビル「虎ノ門ヒルズ森タワー」(地上52階)は最寄りの虎ノ門駅(銀座線)まで徒歩で5~6分。丸の内に勤めるビジネスマンが大手町駅や東京駅から地下通路で自分のオフィスまで直行できるのと比べると決して利便性が高いとはいえない。

再開発プロジェクトの建設工事が続く虎ノ門(真ん中がビジネスタワー、右が森タワー)

再開発プロジェクトの建設工事が続く虎ノ門(真ん中がビジネスタワー、右が森タワー)

■「グローバルビジネスセンター」へ

ただ、それも新駅ができるまでのこと。プロジェクトでは森タワーに加え、2棟のオフィスビル「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」(同36階)と「虎ノ門ヒルズステーションタワー」(同49階)、さらに住居中心の「虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー」(同54階)を立ち上げ、その全てを歩行デッキで結び、虎ノ門ヒルズ駅につなげる。東京都が工事を進める環状2号線の全線開通が実現すれば、羽田空港へのアクセスも大きく改善し、虎ノ門の利便性は一気に向上する。森ビル社長の辻慎吾は虎ノ門エリアを「グローバルビジネスセンター」と位置づけており、今後は虎ノ門エリアが世界とどうつながっていくのかが試される。

かつて森ビルの森稔は同社の複合施設であるアークヒルズ(東京・港)から成田空港までヘリコプターの直行便を就航させたことがある。09年のことだ。「お金より時間という世界のVIPを招き入れるため」。森稔はそう説明した。

この取り組みは一見、荒唐無稽ではある。しかし実は森ビルが置かれた立場を如実に物語っている。交通の利便性を確保し、グローバルな規模でビジネスを展開する企業とつながっていくことこそが森ビルにとって重要な問題なのだ。

戦後、財閥系でも銀行系でもない森ビルは独力で成長してきた。その成長の原動力は「外」の力を取り込むことだった。虎ノ門の巨大プロジェクトでは全部で3棟のオフィスビルが立ち上がる予定だ。このうち2棟はすでに完成しており満室稼働している。フロア面積は合わせて20万平方メートルで、このテナントも半分近くが外資系企業だ。「地の利、メンテナンスの良さ、ネットワークで森ビルに決めた」と言う。

新型コロナウイルスの感染拡大はビジネスパーソンの働き方と同時にオフィスのあり方を大きく変える。オフィスは単なる労働の場ではなく、「新しい付加価値をいかに生み出す場となるかが問われる」(不動産コンサルタントの岡本郁雄)。とりわけグローバル企業は「これまで以上にハイスペックな要求を不動産会社に突きつけてくる」(同)可能性が高く、そのニーズに森ビルが応えられるのかが課題となる。(敬称略)

■コロナ禍の逆風、ビジネスタワーが試金石に


 虎ノ門ヒルズビジネスタワーの商業施設が6月11日にオープンした。オフィス部分(総貸し付け面積は9万6千平方メートル)は1月から満室稼働しており、全面開業したことになる。
 入居する企業には外資系も多い。海外からビジネスワーカーを招き入れるため、隣接する森タワーにハイクラスのホテルを整備したほか、来年に完成する予定のレジデンシャルタワーにはインターナショナルスクールも用意する。子供の教育に関心が高いビジネスワーカーが安心して働ける環境も整える。
森ビルの虎ノ門ヒルズビジネスタワーはエリア全体を「グローバルビジネスセンター」にする要となる

森ビルの虎ノ門ヒルズビジネスタワーはエリア全体を「グローバルビジネスセンター」にする要となる

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってテレワークが普及し、国内企業は都心の一等地にオフィスを構える発想が薄れてきているとの指摘がある。一方、森ビルは東京の国際都市としての価値を高め、海外から有力企業を引き寄せることで街そのものの魅力を向上させる戦略。いくらテレワークが進んでも、オフィスの吸引力は弱まらないとしている。
 ただ、東京の注目度が高まる五輪開催というタイミングで世界の経営者に都市の魅力を伝えるという当初のシナリオは、五輪延期で微調整が余儀なくされる。東京に拠点を設け、ビジネス展開する利点を改めてアピールしなければならないだろう。
 ビジネスタワーは空港リムジンバスや、環状2号線で臨海部にアクセスするバス高速輸送システム「東京BRT」の発着拠点も設けた。霞が関に近いという理由でテナントを引き寄せていた過去の姿から脱し、虎ノ門が海外から「グローバルビジネスセンター」と認められるビジネス街に生まれ変わるためには、交通の結節点としての機能や外国人の子どもが安心して学べる教育環境など、都市のクオリティーをこれからも磨き続ける必要がある。
 ビジネスタワーの成否はコロナ禍の逆風にも動じない力を森ビルが備えているのかどうかを見せる試金石になる。

(文 前野雅弥 映像 近藤康介)

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