FRB、6千億ドルの企業融資始動 未経験の損失リスク

2020/6/16 2:59 (2020/6/16 7:08更新)
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緊急支援策はすべて始動した(FRBのパウエル議長)=ロイター

緊急支援策はすべて始動した(FRBのパウエル議長)=ロイター


【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は15日、中小・中堅企業向けの「メインストリート融資制度(MSLP)」を開始した。新型コロナウイルス対策としての緊急資金支援はこれですべて始動。総額4兆ドル(約430兆円)超と、中央銀行として経験のない損失リスクも抱えることになる。

MSLPの実務を担うボストン連銀が15日、融資の受け付けを始めたと発表した。対象は従業員1万5000人以下の中堅・中小企業で、資本市場で資金を直接調達できない多くの米企業が、FRBの支援を受けられるようになる。資金枠は最大6000億ドルで、4兆ドル弱ある米企業(非金融)のローン残高の15%近くに相当する規模だ。

直接的な融資は民間銀行が担うが、その95%はFRBが設立するSPV(特別目的事業体)が買い取る。形式的には間接融資だが、損失リスクの大部分はFRBが抱えることになる。融資期間は5年間で、当初の2年間は元金の返済すら不要だ。新型コロナで売り上げが減少した企業は当面の運転資金を確保できる。

FRBは通常、融資などの取引を民間銀行に限っている。ただ、根拠法である連邦準備法では「異常かつ緊急時」に限って、FRBが企業や個人にも資金を出すことが認められている。今回の事業会社への融資は、2008年の金融危機時にも踏み込まなかった極めて異例の措置となる。

前例のない施策のため、3月に構想を発表してから始動するまで3カ月かかった。その間、対象企業は従業員1万人以下から1万5000人以下へと拡大。百貨店など規模が比較的大きい企業が相次いで経営破綻し、水面下でFRBへの支援要請が相次いだためだ。

3月以降に公表した緊急資金支援は、これでほぼすべてが始動した。大企業向けには社債やコマーシャルペーパー(CP)の購入を開始。FRBの支援で社債利回りが低下し、米企業の3月の社債発行額は2370億ドルと過去最高になった。

連邦政府が中小企業(従業員500人以下)の給与支払いを肩代わりする「給与保護プログラム(PPP)」も、FRBが側面支援している。地方債を購入する支援策も発動した。失業給付などで州・地方政府の財政が悪化しているためだ。

FRBの緊急支援の総額は4.2兆ドルとなる。量的緩和で米国債なども月1200億ドル買い入れており、FRBのバランスシート(6月10日時点で7.2兆ドル)は20年末には10兆ドルを超えそうだ。コロナ危機前の資産規模は4.5兆ドルが最大で、その2倍を超す「極めて巨大な中央銀行」となる。

懸念は損失リスクだ。FRBの緊急支援策には、米財務省も損失バッファとして一定の額を拠出する。例えば6000億ドルのMSLPには、米財務省が750億ドルを出資。同額まで損失が出てもFRBのバランスシートは傷まない仕組みだ。4.2兆ドルある緊急支援全体でみても、米財務省が計2000億ドル強を拠出し、中銀と通貨の信認を守る一定の工夫がある。

もっとも、その損失リスクは今後の経済動向で大きく変わる。新型コロナの感染第2波などで景気がさらに悪化すれば、企業融資の焦げ付きは米財務省の損失負担を超えかねない。パウエル議長は一連の緊急支援を、危機回避へ必要な措置としつつも「レッドラインを超えた」とも認める。

「小さな政府」を志向する米国は、日本のような政策金融機関を持たない。FRBの企業支援はその空白を埋める措置だ。ただ、事業会社への資金支援は商業銀行が担う「産業金融」そのもので、世界の中銀のモデルケースとはなりにくい。

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