関電、旧経営陣と対峙 19億円損害賠償求め提訴へ

2020/6/15 20:30
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関西電力の金品受領問題は15日、関電が旧経営陣に約19億3千万円の損害賠償を求める民事訴訟に発展することになった。旧経営陣は取締役としての注意義務違反の有無を争うとみられ、法廷の場で新旧経営陣が対峙する構図となる公算が大きい。過去、会社に損害を与えた取締役らの責任を認めた司法判断は少なくない。不透明な「原発マネー」を巡る責任が法廷で改めて問われる。

「元経営トップを含む旧取締役らに損害賠償請求訴訟を提起する事態に至り、改めて深くおわびする」。15日、関電はコメントを出した。一方、岩根茂樹前社長は15日夜、記者団に「対応できない」と話した。

民法では、取締役は会社に対し「善良な管理者の注意」で職務を遂行する義務(善管注意義務)があるとし、違反した場合は会社に賠償する責任が生じると会社法で規定する。

社外の弁護士からなる取締役責任調査委員会は、岩根前社長ら5人の善管注意義務違反を認定した。最大の争点は、福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(死去)からの金品受領問題にどう対応すべきだったかだ。

調査委が認定したのは、金品受領を取締役会に報告しなかったり、金品の返還や受け取りを拒否しなかったりしたことだ。「問題が発覚すれば、関電の信用が失墜する可能性を認識すべきだった」と批判する。

これに対し、旧経営陣の一部は調査委のヒアリングに「原子力発電所の稼働を妨げる行動に出るリスクにつながり、当時の状況に照らしてやむを得ない判断だった」などと主張した。

企業統治(ガバナンス)に詳しい遠藤元一弁護士は、恐喝事件に絡む蛇の目ミシン工業の賠償請求訴訟で「暴力的脅迫を受け、やむを得ない面がある」と元取締役の責任を否定した一審、二審判決を最高裁が破棄したことを引き合いに出す。「金品受領を拒絶しなかったことについて善管注意義務違反が認められる可能性は高い」とみる。

一方で、関電のケースでは元助役の死去など関係者の証言を得るのが難しい事情もあり、立証のハードルは低くない。

社内調査を非公表とした関電の判断の是非も争われる。調査委は、非公表にした判断が注意義務違反となるかは見解が分かれるため、裁判所の判断を仰ぐべきだとしている。

参考になるのが、2008年に最高裁で確定したダスキンの株主代表訴訟だ。無認可の添加物が混入した肉まんを販売した担当取締役に加え、他の役員の責任も認定。「『積極的に公表しない』という方針は消極的な隠ぺいで、経営判断とは言えない」とし、注意義務違反を認めた。

もっとも「(金品受領は)違法ではなく、関電に損害が発生していない」などと説明する旧経営陣もおり、金品受領の違法性の認識の有無などが焦点となりそうだ。

大阪地裁が指定する第1回口頭弁論の期日までに、旧経営陣は認否を明らかにするとみられる。その後、証人尋問などが繰り広げられる。

今後、想定されるシナリオは2つある。1つは判決に至るケースだ。最高裁によると、証人尋問を行うなどの民事裁判(過払い金訴訟を除く)では第1回口頭弁論から結審まで平均16.4カ月(18年)かかる。会社や旧経営陣が上訴する場合、さらに長期化する可能性がある。一方、和解という選択肢もあるが、株主などからの批判を招くリスクもあり、慎重な対応が迫られる。

取締役の責任を厳しく問う司法判断は少なくない。旧大和銀行ニューヨーク支店の巨額損失を巡る訴訟では7億7500万ドル(当時のレートで約830億円)、オリンパスの粉飾決算事件では594億円など巨額の賠償命令が出ている。コンプライアンス(法令順守)を企業に強く迫る背景には、株主や社会からの企業への視線が厳しくなっていることがある。

一連の金品受領問題は、関電の隠蔽体質や法令順守の欠如を浮き彫りにした。裁判所の判断次第では、日本企業の情報開示姿勢にも警鐘を鳴らしそうだ。

刑事責任追及も焦点

関西電力の金品受領問題を巡っては民事責任に加え、刑事責任を問う動きも活発化している。市民団体が八木誠前会長ら役員ら12人について会社法違反(特別背任、収賄)などの疑いで大阪地検に告発状を提出。役員報酬の補填についても同前会長ら3人を業務上横領容疑などで同地検に告発しており、刑事責任追及の有無を巡る捜査も今後の焦点となる。

会社法は、民間企業の役員が不正な賄賂を受け取る行為を禁じている。職務に反する内容の依頼を受けたとする「不正の請託」が立証できれば、違反行為と認定できるが、過去、問われたケースは限られる。

特別背任罪では役員らが自己や第三者の利益を図ったり、関電に損害を与えたりする目的の有無の立証が焦点となる。

いずれも、金品受領のやりとりの多くで公訴時効が成立しているとみられる上、金品提供側のキーマンである森山氏が死去していることが真相解明の壁となっている。大阪地検特捜部は一連の告発状を受理するかどうかを慎重に検討している。受理すれば、役員らから事情聴取するなど、説明を求めるとみられる。

検察が不起訴にしても、市民らで選ばれた検察審査会に申し立てられる公算が大きい。過去には検察審の2回の議決を経て「強制起訴」されたケースもある。

職務遂行適正か、厳しく見る傾向 久保利英明弁護士 裁判所は近年、経営陣の職務遂行の適正性について厳しく見る傾向がある。関電の旧経営陣が「会社のための判断だった」と主張しても、公益性の高い企業の取締役として適切な判断だったと裁判所が認めることは考えがたい。
 金品受領や役員報酬の補填など、取締役責任調査委員会が認定した責任は何らかの形で認められるだろう。会社に与えた損害額や5人のうち誰の責任なのかという点は争点になりうるが、いずれにしても旧経営陣にとって難しい裁判になるだろう。
いびつな関係、裁判で究明を 出見世信之・明治大教授 第三者委員会から内向きな企業文化だと批判された関西電力が、丁寧な調査で旧経営陣の責任を認定して提訴に踏み切ったことは、企業統治の前進という意味で一定程度評価できる。訴えなければ株主から現経営陣が訴えられる可能性もあり、株主によるチェック機能が働いたようにも見える。
 金品提供側の重要人物が死去していて法廷で証言できないなど真相究明のハードルは高いが、裁判で原子力発電所を巡るいびつな関係の一端が明らかになることを期待する。
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