五輪に影響必至? コロナ「第2波」米国で高まる懸念

日経ビジネス
2020/6/17 2:00
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6月12日、米ボストンのレストランでは屋外で食事を楽しむ人たちの姿が見られた。テーブルの間にはシールドが設置されている=AP

6月12日、米ボストンのレストランでは屋外で食事を楽しむ人たちの姿が見られた。テーブルの間にはシールドが設置されている=AP

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新型コロナウイルスの感染爆発が起きた米国で今、秋口の感染「第2波」への懸念が急速に高まっている。

米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)は6月10日と11日、更新した予測モデルに基づく米国の感染拡大予想を発表した。8月までは感染拡大の威力は弱まるものの、9月15日ごろから再び増加傾向に転じ、8~10月には米国で新たに3万610人の死者が出ると予測している。10月1日までの死者の合計は16万9890人(予想範囲は13万3201~29万222人)に達するとみる。

米国における1日当たりの新型コロナ感染症による死者数の推移(出所:IHME)

米国における1日当たりの新型コロナ感染症による死者数の推移(出所:IHME)

事実、米東部時間の6月14日時点でも第2波の予兆はある。同日付ニューヨーク・タイムズの記事によると、米国全体の1日当たりの新規感染者数の推移は横ばいであるものの、西部や南部を中心とする22州とプエルトリコで直近の14日間、増加傾向にある。

特に急な伸びを示しているのが、フロリダ州、アーカンソー州、オレゴン州、サウスカロライナ州、アリゾナ州などだ。米国全体で見てもいまだに1日2万5335人(6月13日)の新規感染者が発見されている。

第2波が予想通りの規模で現実のものとなれば、2021年に日本で予定されている東京五輪への影響は必至だ。その現実味はいかほどか。五輪を開催するなら、どんな条件を満たす必要があるのか。IHMEの研究チーム主要メンバーのテオ・ヴォス教授に聞いた。

――新型コロナウイルスの感染拡大当初から、多くの専門家が第2波を予想していました。具体的に第2波とはどのような現象を指すのでしょうか。

米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)のテオ・ヴォス教授。新型コロナ関連の未来予測チームの主要メンバーだ

米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)のテオ・ヴォス教授。新型コロナ関連の未来予測チームの主要メンバーだ

「第2波が第1波とは別物なのか、あるいは第1波が再び上昇することを指すのかは議論が分かれるところです。ただ一般には、最初の感染拡大が収まった後に再び感染拡大が起きることを言います。この2度目の盛り上がりを起こす要素は、いくつかあると考えられています」

「1つが、こうした感染ウイルスの持つ『季節性』です。例えば、インフルエンザ。北半球にある米国では毎年1~2月に感染のピークが来て、7月には収まり、また8~9月に感染が徐々に拡大する。北半球ではこのサイクルですが、南半球では季節が逆転するのでサイクルも逆になります」

「では新型コロナウイルス感染症はどうか。新型コロナは新しいウイルスなので、まだまだデータが十分とは言えない状況ですが、現時点での動きを見る限り、季節性を持つと考えられます。実際、ブラジルや南アジア、アフリカなどで感染拡大が深刻化しています。こうした事実からも季節性はあると言えるでしょう」

「つまり、秋口に北半球で再び感染拡大が起こると考えるのが妥当です」

■ニューヨークも安心できない

「もう1つは、検査が全米に普及したことで見えてきた『地域性』です」

「第1波で感染拡大が深刻だったニューヨーク州やニュージャージー州などの地域では今、感染者数が減少しています。こうした地域では、少なくとも今後の数カ月間は小康状態を保つでしょう」

「一方、テキサス州やアラバマ州、カリフォルニア州などの地域では、感染による死者数の推移曲線が思ったほど下がらず横ばいで、そのうちのいくつかの地域では入院患者数がむしろ増えています。カリフォルニア州のある地域では、新型コロナウイルス感染症の新規入院患者数が40%増えているところもあるほどです」

「この事実が示すのは、米国で第1波がまだ終わっていない可能性です」

「感染のホットスポット(中心地)が人口の多い都市から地方へ移行したり、少し離れた地域に飛び火したりすることはよくあります。例えば、何かのイベントに『スーパースプレッダー』と呼ばれる強力な感染能力を持つ感染者が参加し、たくさんの人を感染させたとしましょう。その地域はたちまちホットスポットになります」

「それがイベントではなく、病院や介護施設、工場で起こる可能性もあるでしょう」

「こうした意味では、ニューヨークも決して安心できません。そもそも感染の爆発が起きたのも、ニューヨークという土地が磁石のように人をひきつけ、たくさんの訪問客が流入していたからでした。経済を再開させた後、また磁石のように人をひきつけるでしょうから、第2波の危険性はあると言えます」

■2度目の都市閉鎖は1度目より難しい

――米国では各州で経済再開に向けた動きが進んでいます。第2波に備えてもっと慎重になるべきでしょうか。

「私が懸念しているのは、今、人々の興味があまりに『再開』の方ばかりに向いている点です。『再開を安全に進めるために何をすべきか』には、十分な注意が払われていないように感じています」

「店舗や工場、職場などでどれだけ感染拡大を抑制する対策が取られ、実際に運用されているでしょうか。従業員を守る手段は徹底されていますか? 顧客を守る手段は? これらにもっともっと時間と労力をかけるべきでしょう」

「第2波がどのくらいの規模になるかは、対策に向けた人々の『ムード(やる気)』がこれからどう変化するかにもよります。死者数が再び増えれば人々のムードも変わるでしょう。対策がなされていない場所に仕事に行きたくないと考える人が増えるかもしれません。そうなれば、今度は貧困と闘わねばならなくなりますが……」

――再開のやり方を間違えた場合、再び都市封鎖をしなければならないのでしょうか。

「実際に州政府がやると判断するかは分かりませんが、やるとしたら、2度目は1度目よりもさらに難しくなるでしょう。1度目は3月中にほとんどの州や地域が経済を停止する行動に出ましたが、2度目に果たしてどれだけの州政府が従うか。住民は都市封鎖をすでに経験していますから、1度目ほど簡単に受け入れない可能性があります」

「その一方で、2度目は州政府がよりスマートに実施できる可能性もあります。陽性者を保健当局が把握して、接触者のトラッキングができるようになれば、広い地域の経済を停止させずとも感染拡大を抑制できるかもしれません」

「我々が感染状況を把握し、未来を予測できる地域をより『細かく』しようとしているのは、こうしたトラッキングを実現しやすくするためでもあります」

「予測モデルの精度と細かさを向上させるには、とても複雑で入手するのも困難な大量のデータが必要になります。人々はマスクをきちんと着けるのか。検査はどれだけの人が受けるのか。その数は保健当局が接触者を追跡するのに十分か。どのくらいの割合の人が抗体を持っているのか。人々が1日にどのくらい移動して、どのくらいの人と接触するのか。現在はスマートフォンで人々の移動を観測できるので、こうした指標も予測モデルに取り入れています」

「予測モデルは日々、新しい要素を組み込むことで進化しています。ただ残念ながら現時点のモデルでは、第2波が来る可能性は極めて高いと言えるでしょう」

■五輪開催の必要条件とは?

――現在、全米各地で人種差別問題などの抗議デモが活発化しています。人々が集まると感染拡大の原因になるといわれています。この点はどう見ていますか。

「私も数千人規模のデモの1つに参加しましたが、私の観測では参加者でマスクをしていない人は2人しかいませんでした。1人は幼い子ども、もう1人は赤ちゃんでした。保健関係者が実施していたデモだったからかもしれませんが、デモも(マスクをしたり互いの距離を取ったりするなど)やり方次第だと思います」

「とはいえ、時間がたつにつれて集会の規模が大きくなり、人々の距離が取れなくなっている現実もあります。私も65歳なので、今はデモに参加するのは控えています。ですので、抗議デモも感染拡大の要因になり得る、とは言えると思います」

――21年にはご存じの通り東京で五輪・パラリンピックが開催される予定です。

「その頃までにワクチンが普及していることを祈ります」

――ワクチンは絶対条件ですか。

「はい。私はそう思います。(開催が可能かどうかは)ワクチンがあるかどうかによるでしょう」

――いつまでにあればいいですか。

「21年の3月くらいまででしょうか。もしそれくらいまでになければ……五輪の開催可能性は残念ながら低くなると言わざるを得ません」

――キャンセルでなければいいのですが……。

「私もスポーツが大好きなので、キャンセルはされないでほしい。ただワクチンがあるかどうかは、開催の可否を決める条件にはなるでしょう」

「現在、開発が進んでいるワクチンがいくつかありますし、良い結果が出ているというニュースも耳にしています。開発さえされれば、量産はそれほど難しくないと思います。資金力のある国が量を確保し、貧困層の多い国に分け与えることも十分に考えられます。いずれにしても、ワクチンの状況によるのではないでしょうか」

――私たちは、いつになったら普段の生活に戻れるのでしょうか。

「もし究極の楽観主義者なら、『来年の初めごろ』と答えるかもしれません」

「私はいつもは楽観主義者として知られているのですが、今回ばかりは楽観していません。もう少しかかると思っています。具体的にいつか。それは正直、分かりません」

「感染を予防するという意味では、永遠に続くと思いますし、終わりのない闘いになるでしょう。ウイルスが突然変異するかもしれないし、人々が抗体を形成できたとしても、その効力がどのくらい続くかも現時点では分かりません」

「でも永遠に闘い続けることは、必ずしも悪いことではありません。新型コロナはインフルエンザほど突然変異しないといわれてはいますが、我々が今、分かっていることは極めて限られています。より効果が高く、副作用のないワクチンの開発にも終わりがありません。私たちはこれからもずっと、何らかの対策を取り続けていく必要があるでしょう」

(日経BPニューヨーク支局長 池松由香)

[日経ビジネス電子版 2020年6月15日の記事を再構成]

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