M&A「やっぱりやめた」 コロナ禍の欧米で横行

日経ビジネス
2020/6/16 2:00
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コロナの影響を受けたティファニー=ロイター

コロナの影響を受けたティファニー=ロイター

日経ビジネス電子版

欧米で合意済みのM&A(合併・買収)案件の破談が相次いでいる。

高級ブランド世界最大手の仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)が米ティファニーの買収見直しを示唆、米ボーイングもブラジルのエンブラエルとの事業統合を撤回した。新型コロナウイルスの影響で、コロナ前に見込んでいた買収効果が得られるか不透明になったというのが理由だ。

コロナ禍の今、欧米ではM&A案件は「撤回するのが当たり前」(外資系投資銀行)のようだ。そして日本で強行された1兆円ディールには驚きの声が集まっているという。

■撤回すれば違約金は発生する

LVMHは2019年11月、ティファニーを総額162億ドルで買収することで合意した。だが新型コロナの影響を鑑み6月2日の取締役会でティファニー買収の妥当性を再協議、同4日に「現時点でティファニー株の購入を予定していない」という声明を出した。水面下でLVMHが買収価格引き下げを打診したが、ティファニーが拒否したという情報もある。

ブラジル旅客機大手のエンブラエルは、事業統合を撤回したボーイングを相手取り「契約不履行とキャンセルにより被害を受けた」とする仲裁手続き入りを表明した。直近では6月10日、米ショッピングモールを運営するサイモン・プロパティ・グループが、同業タウブマン・センターズを36億ドルで買収するという合意の撤回を求める訴えを起こしている。

いずれの場合も買収撤回の理由は新型コロナウイルスとされる。ティファニーなどの売り上げは新型コロナで急減しており、LVMHの翻意はわからなくもない。もちろん合意済みの買収を撤回すれば違約金は発生する。だが「違約金を払ってでも買収をやめた方が、強行するよりリスクが小さいと考える経営者が急増している」(米系投資銀行幹部)。もちろん合意を一方的に破棄するのだから、裁判沙汰になるのは覚悟のうえだという。

「クロ―バック条項」を導入している企業が欧米には多いことも、買収撤回の判断に影響している可能性がある。クロ―バック条項とは、投資に伴う巨額損失や不祥事などが後々発生した場合、支給済みの役員報酬を会社に強制返還させる仕組みだ。米では17年時点で製造業の9割超が導入済みとされる。新型コロナ前に決めた価格で買収を強行して後に巨額損失が発生した場合、役員としては自分の懐が痛みかねない。

■「てっきりやめたと思っていた」

こうして合意済みのM&A案件の撤回が欧米で相次ぐ中、逆に注目を集めてしまったのが昭和電工による日立化成買収だ。

「えっ、あのディールは実行されたのか」。6月5日、東京証券取引所は日立化成株を6月19日付で上場廃止にすると発表した。昭和電工による買収成立を受けた措置だ。それを伝え聞いた米国の大手証券会社幹部は「てっきりやめたと思っていた」と絶句したという。

昭和電工は1兆円弱を投じて日立化成を買収したが、そもそも買収で合意したと発表したのは昨年12月。つまり新型コロナ前だ。当時でさえ高値づかみのリスクがささやかれていたが、その後のコロナ危機で日立化成の業績は悪化している。

買収発表時点の日立化成の2020年3月期の純利益見通しは前の期比23%減の220億円だったが、新型コロナの影響などで最終的に同利益は43%減の164億円になった。自動車向け顧客が新型コロナの影響を受けていることが響いた。

そして昭和電工による日立化成買収のためのTOB(株式公開買い付け)は、買い付け価格を変えることなく3月24日に始まった。コロナの影響で世界経済が大きく傷むことが既に十分わかっていた時期だ。日立化成買収に同じく手をあげていた外資系ファンド幹部は「この状況では数百億円の違約金を払ってでもTOBを始めないのが普通。昭和電工の決断は全く理解できなかった」と振り返る。

■サラリーマン人生をかけた高揚感

欧米と日本の経営者。考え方の違いはなんだろうか。思い出されるのは2~3年前、数千億円の買収案件を巡り、日本のある上場企業のアドバイザーについた投資銀行幹部の言葉だ。

その企業は買収を巡り最後まで他社と競り合い、買収価格を何度も引き上げ最終的に競り勝った。アドバイザーは「確かにその会社に必要な買収だった。だが事前に取締役会で決めた上限価格を超えても、社長は退かなかった。もうペイしない、撤退も考えるべきだと進言したが、社長はサラリーマン人生をかけた高揚感に包まれ耳を貸さなかった」と振り返る。

幸い、その買収案件ではその後に大きな減損損失を出したとは聞かない。だが、交渉の過程で、買収することが目的化していた面は否めないだろう。まして、昭和電工の場合は買収で合意と発表済みだ。新型コロナのせいとはいえ、その後に買収を撤回すればレピュテーションリスク(悪評による業績リスク)にさらされると危惧するのも理解できる。

日本電産富士フイルムホールディングスのように買収慣れしている企業ならともかく、多くのトップにとってM&Aはサラリーマン人生最大の決断。一度腹をくくったそれを、数百億円の違約金を払ってでも撤回しろというのは確かに酷な話かもしれない。

一方、裁判沙汰になってでも撤回した方がいいとドライに経済合理性で判断する欧米企業。日本企業と比較すると、あくまでも「理」で決める欧米に対し、「情」が強い日本企業とでも言えるかもしれない。ここでその優劣を論じるつもりはないが、結果で評価されるのもまたトップの宿命。どちらであっても、結果を出せば勝ち、結果が出なければ負けなのだ。

(日経ビジネス 奥貴史)

[日経ビジネス電子版2020年6月12日の記事を再構成]

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