「触る」意味、アートで問う コロナ下、指で確かめる作品
文化の風

関西タイムライン
2020/6/12 2:01
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新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため「密」を避けて人と距離をあけ、物に触れないようにする生活が求められている。この事態を機に「触る」ことの意味を見つめ直そう、と訴えるアーティストたちの「触」を表現する動きを追った。

言葉の枠超える

6個の黒い箱の中に人の手をかたどった焼き物が1つずつ据えてある。ある文字が指文字(五十音を表現するハンドサイン)で表され、点字も付く。鑑賞者は箱に手を入れ、読み取るべく指先に意識を集中する。滋賀県立陶芸の森(同県甲賀市)で行う教育プログラム「世界にひとつの宝物づくり」の実行委員も務める陶芸作家、宮本ルリ子さんの新作「思考する手から感じる手へ、そして…」だ。

実は、何の文字も表していない手の像も混じっている。言葉の枠を超える造形を表現したという。「人と人との関わりによって完成する」作品制作に取り組んできた宮本さんは、今回の作品について「触覚を使う文字は視覚で捉える文字と異なり、読み取る際に直接的で原初的な一瞬がある」と語る。「今は様々なところに点字が付けられているが、視覚障害者以外は意識することがない。注意を向けるきっかけになれば」

宮本さんと「思考する手から感じる手へ、そして…」

宮本さんと「思考する手から感じる手へ、そして…」

宮本さんはユニバーサル・ミュージアム研究会にも参加している。博物館関係者やアーティスト、障害者らが参加し、障害や年齢、性別などの垣根を越えて誰もが楽しめる博物館づくりを目指す取り組みだ。全盲の文化人類学者、広瀬浩二郎・国立民族学博物館准教授が代表を務める。

2019年7月には「射真ワークショップ」と銘打ち、異色の町歩きツアーを同市信楽で実施した。「射真」は広瀬さんの造語で、風景をカメラではなく粘土で切り取ること。商店街や窯場を巡った視覚障害者ら47人の参加者は視覚に頼らず、五感を総動員して町の匂いを嗅ぎ、音に耳を澄ませ、触感を確かめた。印象的な事物に出会うと粘土を押し当てて写し取り、街角の断片を作品に仕上げた。

宮本さんの新作や「射真」作品群は、「触」をテーマに国立民族学博物館が催す特別展「ユニバーサル・ミュージアム~さわる!"触"の大博覧会~」に出展される。東京パラリンピックに合わせ20年9月に開幕する予定だったが、コロナ禍で1年延期が決まった。

亀井さんと大阪北視覚支援学校の生徒らが制作した「笛吹きボトル」

亀井さんと大阪北視覚支援学校の生徒らが制作した「笛吹きボトル」

この特別展に参加する大阪市の映像作家、亀井岳さんは、音が鳴る古代アンデスの土器「笛吹きボトル」をテーマに大阪府立大阪北視覚支援学校中学部(大阪市)で授業をし、生徒の表情を映像に記録している。

モンゴルやマダガスカルを舞台に音楽と暮らしを描く映画などを制作してきた亀井さんは19年、ペルーやエクアドルを中心に出土する古代土器を描いた映像作品を制作した。動物や骸骨、人物といった像で装飾された瓶で、水を入れて傾けると内部の空気の移動で仕込んである笛が鳴る。逆に傾けると空気を吸い込む音がし、呼吸しているように聞こえる。

古代にはせる思い

19年秋から行っている授業では1~3年生13人がボトルの音色に耳を傾け、博物館から借りた遺物や復元品を指でなぞり形を確かめて、古代に思いをはせつつ自分たちもボトル制作に挑んだ。「音と触覚から想像を膨らませ、点から面へ、全体へとイメージを広げた。視覚依存の価値観を超えた自由で力強い造形に彼らの可能性を感じ取った」と亀井さんは語る。特別展では生徒らの作品と亀井さんの映像を並べる考えだ。

様々な文化活動がコロナ禍で凍結を強いられ「触れることで生まれる交流をこれほど意識したことはなかった」と宮本さんは話す。広瀬さんは「情報通信技術の進展が距離を実感する身体感覚を奪った。人と人、人と物との間隔が離れ、『触るマナー』も見失われた」と指摘。仕切り直しの特別展に向け「『濃厚接触』の意義を再確認できる展示にしたい」と意気込む。

(編集委員 竹内義治)

動画は亀井岳さん制作「笛吹きボトルの音色~大阪北視覚支援学校の生徒たち~」

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