金融市場、コロナ後も変わらず(重見吉徳)
JPモルガン・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト

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2020/6/12 2:00
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写真はイメージ=PIXTA

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突然ですが、新型コロナウイルスのワクチンが開発され、全世界の人々に行き渡るほどの供給量が確保され、なおかつ、皆さんが抗体を持っていないとすれば、皆さんはワクチンを接種するでしょうか、しないでしょうか。それは、なぜでしょうか。

このところ、新聞や雑誌、テレビ、インターネット・メディアなどでは、識者が『アフター・コロナ(コロナ後)』や『ニューノーマル(新常態)』なる言葉を発するのを見聞きします。「世の中は今までとさして変わらない」と言うよりも、「世界は激変する」と言うほうが、新鮮味があって啓蒙的にも見えるため、メディアに取り上げられる機会も多いのでしょう。

一方の投資家のリスクテイクはどうかと言えば、以下に述べるとおり、『コロナ前』とさして変わっていないように思えます。少なくとも巨視的には、「行動変容」も「新しい生活様式」も「発想の転換」も見つかりません。金融市場を見る限り、「人間は変わらない」と思えます。

今後、個人投資家の皆さんが、個別銘柄やセクター、投資信託を選択する際には、メディアをにぎわす識者に揺さぶられ、極端な思考に陥っていないか、投資先が偏っていないかどうかを見直すことが重要でしょう。少し、金融市場を眺めてみましょう。

金融市場の参加者は、今までと同様、「いざとなれば、中央銀行が助けてくれる」というモラルハザードに乗じて、リスクテイクを継続しています。投資家を特に勇気づけているのは、米連邦準備理事会(FRB)による社債や社債ETF、シンジケートローン・協調融資の買い入れと、中小企業向けの与信です。これらは、財務省の出資によって裏付けられており、投資家に対して「政府や中央銀行も、同じ船に乗っている」という安心感をもたらしている可能性があります。しかし、政府出資の原資は、FRBによる国債の買い入れでマネタイズされており、結局は中央銀行や貨幣への強い信仰に依拠しているように見えます。

他方、大企業の多くはそうした政府やFRBが用意した支援策に直接頼らず、民間市場での資金調達を進めており社債発行は足元で急増しています。債券市場の投資家は今まで同様、「利回り追求」にとらわれていますし、企業も引き続き、彼らの足元を見ているようです。また公的支援の申請は、政府出資の受け入れや、自社株買い・配当の停止が条件です。これは債務の拡大によって株主還元を行い、自己資本利益率(ROE)や株価を押し上げ、株主や経営陣に利益をもたらしてきた金融危機以降の潮流に反します。

企業は「これからは株主だけでなくすべてのステークホルダー(利害関係者)に配慮する」と言いながら、引き続き、株主の方を向いています。株主も「社債でなく、新株発行によって従業員の給料を補てんしてくれ」とは言いません。両者が変わるならば、今頃は社債ではなく、エクイティの発行がブームになっているでしょう。

これからも金融市場の参加者は、今までと同様「水準を無視して、伸び率で買いを入れる」でしょう。経済活動や業績はいったん大きく下がった分、今後は「大きな伸び率」が期待できます。経済活動や業績が、元の水準を回復していなくとも、あるいは第2波のリスクを十分に認識していても買わざるを得ません。なぜなら「他の人が買うために、自分も買わないと負ける」というチキンレースが続いているためです。業績と株価、信用力と社債価格がアンバランスとなるため、株式や債券は「じりじりと上がって割高になり、ある日突然ドーンと急落をして、また、じりじりと上がる」今までと同様のサイクルが繰り返されるでしょう。

金融市場を見る限り、人間は変わらないように思えます。変わらないために知恵を絞るように思えます。

ワクチンはやがて開発されると考える方が自然でしょうし、ワクチンが開発されれば接種すると考える方が自然でしょうし、ワクチンを接種すればソーシャルディスタンスは解消されていくと考えるほうが自然です。人間は社会的な動物であり、忘れる動物です。

人間は自然に、元の社会的な生活に戻ろうとするのではないでしょうか。だとすれば、『アフター・コロナ』で消滅する、需要が激減すると言われる業種も元に戻るかもしれません。実体経済の見通しも人間の欲求も科学も識者によって過小評価されていると言えるかもしれません。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。
重見吉徳(しげみ・よしのり)


大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。農林中央金庫で外国債券やデリバティブの投資業務に従事。野村アセットマネジメントで債券の運用を経て、13年より現職。

[日経ヴェリタス2020年6月14日付]

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