VW、またもお家騒動 ディース社長の権限縮小

2020/6/10 16:35
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VWのディース社長は18年に就任して以来業績を伸ばしてきたが…=ロイター

VWのディース社長は18年に就任して以来業績を伸ばしてきたが…=ロイター

【フランクフルト=深尾幸生】独フォルクスワーゲン(VW)にまたもお家騒動が勃発した。ヘルベルト・ディース社長の発言が取締役の人事権を握る監査役会の不興を買い、ディース氏は兼務していたVW乗用車ブランドの最高経営責任者(CEO)を退き、グループCEOに専念する。新型コロナウイルス禍でリーダーシップが求められる状況にもかかわらず、求心力の低下は避けられない。

「監査役会はディース氏の謝罪を受け入れる」。VWが9日に出したプレスリリースは異例だった。前日にVWはVWブランドのCEOに同ブランドの最高執行責任者(COO)のラルフ・ブランドシュテッター氏が7月1日付で昇格する人事を発表。ディース氏の退任は「グループ全体の経営に注力するため」と説明していた。

だが、実態はディース氏が社内のイベントで監査役会を非難したことに怒った監査役会が、VW乗用車ブランドのトップの座をディース氏から剥奪したのだった。「ゴルフ」や「ポロ」などで知られるVW乗用車ブランドは600万台以上の販売台数を持つグループの中核だ。そのトップとグループCEOを兼ねることがアウディやポルシェなど12のブランドを束ねる権力の源泉となってきた。

これまでの経緯を説明してこなかったなかでの謝罪受け入れのリリースは、かえってディース氏の敗北を強調する結果となった。背景には労働組合に相当する従業員代表とディース氏の対立があった。

取締役会と、その人事権を持ち重要案件を承認する監査役会の2ボード制をとるドイツ企業は監査役会の半分の議席を従業員代表が握る。VWはさらに雇用を重視する地元の州政府が2割の議決権を持ち監査役会にも座るため、伝統的に従業員代表が強い発言力を持っている。

従業員代表を味方につけられず去ることになったVWトップは少なくない。最近では故フェルディナント・ピエヒ監査役会会長(当時)がマルティン・ヴィンターコーン社長(同)を追放しようとして逆に退任することになった権力争いでも、従業員代表がピエヒ氏を見放した。

従業員代表は、19年に発表した新型「ゴルフ」や今夏に発売する電気自動車(EV)の戦略車「ID.3」がソフトウエアの不具合で生産に遅れが出ていることなどの責任がディース氏にあると不満を持っていた。ディース氏はこうした情報がマスコミに漏れていることにいらだち「(機密情報の漏洩は)刑事犯罪だ。そしてそれは監査役会のメンバーによるものだ」と社内に発信した。

社内ではまっとうな発言だという見方もあるが、独紙によると非難された監査役会の一部は激怒し、グループCEOのポストから外すことも検討したという。筆頭株主であるポルシェ家がディース氏を支持し、グループCEOにはとどまるが「発言は不適切で間違っていた」と全面的に謝罪に追い込まれた。

独センターオートモーティブリサーチ(CAR)のフェルディナント・デューデンヘッファー教授は「コロナ危機への対応やEVシフトに強い力が必要なときに、VWは再び内部発の危機に突入する。強すぎる従業員代表と州が拒否権を持つ奇妙な統治構造が原因だ」と指摘する。

ディース氏のグループCEOとしての任期は23年まで残る。だが従業員代表を抑え込めなくなったいま、これまでのようなリストラをともなうコスト削減や大胆なEV分野への投資ができるかは微妙だ。独経済紙ハンデルスブラットは「グループのトップ交代も近いと考えるVWの従業員も少なくない」と報じている。

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