米、過熱なき最長景気に幕 デジタル化・金融緩和が延命

2020/6/10 14:34 (2020/6/11 1:10更新)
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全米経済研究所は景気拡大が2月で終了し、景気後退に陥ったと認定した(5月、ニューヨーク)=ロイター

全米経済研究所は景気拡大が2月で終了し、景気後退に陥ったと認定した(5月、ニューヨーク)=ロイター

【ワシントン=河浪武史】2009年6月に始まった米景気拡大は、新型コロナウイルスによって20年2月に終了した。拡大期間は10年8カ月と過去最長を更新したが、平均成長率は過去70年で最低だ。低成長のなかで物価は過熱せず、金融緩和が景気を延命した。経済のデジタル化とサービス化による構造変化も大きな要因だ。ただコロナ危機の傷痕は深く、景気回復後も深刻な「低温経済」が続きそうだ。

米国の景気循環は有力学者で構成する全米経済研究所(NBER)が判断する。09年以降の景気拡大が終了し、新型コロナで景気後退に陥ったと8日認定した。景気拡大期は前回の1991年~2001年を抜き、記録がある1854年以降で最長だった。

拡大が続いたのは成長率が低かったからだ。2009年以降の平均成長率は年2%強と、1950年以降の11回の拡大局面で最も低い。91~2001年の成長率は年平均3.6%もあった。今回は物価上昇率も2%を超えず、米連邦準備理事会(FRB)は08年末から15年末までゼロ金利を維持し続けた。

トランプ米大統領は「経済成長率を3%、4%台に引き上げる」と公約して2016年の選挙を勝ち抜いた。ただ、潜在成長率は2%程度と上向かなかった。最長景気とはいえ、実質GDPは10年8カ月で1.27倍に拡大した程度だ。1991年から2001年の拡大期には、米経済は1.43倍も大きくなっていた。

過去の景気拡大期は経済と物価がともに過熱し、FRBが利上げに踏み切って景気後退に陥るケースが大半だ。前回の01~07年の拡大期には、インフレ率が4%近くまで一時上昇。FRBは04~06年の2年間で17回利上げし、政策金利を1%から5.25%まで4ポイント強も引き上げている。物価の過熱を冷やすには、景気後退を覚悟で金融を引き締める必要がある。

もう一つの理由は経済のデジタル化とサービス化だ。これまでの景気循環を大きく揺さぶったのは、モノの在庫や設備投資だ。製造業はサプライチェーンが長く過大在庫を抱えやすいが、2000年以降のデジタル化が需要予測や在庫管理を大幅に効率化した。

また、サービス主体の経済は、製造業に比べて在庫や投資が過大になりにくい。米国内総生産(GDP)に占めるサービス消費の割合は、1960年代の28%から足元で47%まで増えた。逆にモノの消費は32%から21%まで低下。経済は過熱もしにくいが、急落もしにくい構造に変化してきた。

新型コロナによる経済活動の制限で、4~6月期の実質成長率は前期比12%程度のマイナス、年率に換算すれば40%程度の大幅な落ち込みが予想される。ただ、経済再開で5月の失業率は低下に転じ、景気には底入れの兆しもある。感染第2波などが起きなければ景気悪化が数カ月で終わり、1854年以降で最も深いものの、最も短い後退期となる可能性もある。

とはいえ、潜在成長率もインフレ率も上がらない「低温経済」が変わるわけではない。

成長率を左右する労働参加率は60%まで落ち込み、2000年のピークから7ポイントも低下した。労働力人口の伸びも08年以降、年0.6%にとどまり、1950年以降の平均1.4%に遠く及ばない。潜在成長率を引き上げるには生産性も高める必要があるが、米議会予算局(CBO)の予測では、20年の設備投資は15.8%減と成長率(5.6%減)より大幅に落ち込む。

通常は景気悪化時に解消する過大債務も、今回の危機下では積み残したままだ。米企業の債務残高は19年時点で15兆ドル超と過去最大だった。健全で頑強な金融システムは危機を脱する原動力になるが、金利低下で企業はさらに借り入れを増やしている。

トランプ大統領は失業率改善で「米経済は世界のどこよりも素晴らしい状態へと復元する」と冗舌だ。ただ、米経済は感染第2波のリスクを抱え、企業活動は徐々にしか再開しない。人の行動も変わらざるを得ず、消費や生産の現場は構造変化が避けられない。コロナ危機後の回復局面では労働力の減少と生産性の低迷、過大債務という3つの重荷が、米経済の強みである変化への対応力をそぐリスクがある。

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