TSMC、苦渋の米シフト ファーウェイ制裁で

米中衝突
ファーウェイ
2020/6/9 21:15 (2020/6/10 5:41更新)
保存
共有
印刷
その他

TSMCの劉董事長(右)は米中摩擦への備えを急ぐ(9日、台湾・新竹での株主総会)

TSMCの劉董事長(右)は米中摩擦への備えを急ぐ(9日、台湾・新竹での株主総会)

【新竹=伊原健作】半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が中国から米国へのシフトを強める。劉徳音董事長(会長に相当)は9日、米国の制裁強化で中国・華為技術(ファーウェイ)向けの受注を失う場合、米顧客などとの取引増で補う方針を明らかにした。米中ハイテク摩擦を受け米に「踏み絵」を踏まされた格好だ。影響は中国市場に期待してきた日本などのサプライヤーにも及ぶ。

「2020年12月期の設備投資や売上高目標を変えるつもりはない」。同社は9日に台湾北部・新竹市内で定時株主総会を開き、劉氏は総会後の記者会見でこう言い切った。前期比2割近い増収、設備投資には過去最高の150億~160億ドルと、日本円で1兆7千億円超をつぎ込む計画を死守する構えだ。背景には米国シフトによってファーウェイ需要の欠損を補う算段がある。

TSMCは米アップルのスマートフォンなど、多彩な電子機器の頭脳となる半導体を受託生産する。米インテル、韓国サムスン電子と並ぶ業界の「ビッグ3」と呼ばれるが、米中摩擦で逆風が強まっていた。米が5月に米国製の製造装置を使ったファーウェイ向け半導体の輸出禁止を表明。売上高の15%前後を占める第2位顧客との取引が断絶するリスクが高まる。

5月までに受注済みの分は9月中旬まで通常通り出荷できるが、それ以外は輸出に際し米の許可が必要になる。劉氏は制裁への対応について「法解釈を検討中」と繰り返したが、関係者によれば既にファーウェイからの新規受注は停止した。

劉氏は会見で「既に顧客から(ファーウェイの)欠落で生じる生産能力を割り振ってほしいとの要望がある」と明らかにした。台湾のサプライヤー首脳によると、TSMCは受注増に生産が追いついていない。アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)など米のファブレス(工場なし)半導体大手からサーバー向けなどの製品の増産要請が殺到しているという。

ファーウェイの穴は大きいが、米需要で埋められるというのが今期の計画を据え置く理由だ。

TSMCはもともと米国向けで成長した。売上高に占める顧客の比率でみると、米国が60%で、中国は20%。ただ中国の比率は過去5年で13ポイントも上昇した。2010年代半ばからファーウェイ向けを増やした結果だ。

今後は成長のけん引役を米に戻す。カギを握るのは米南西部アリゾナ州で120億ドルを投じる新工場だ。米での初の大型工場で、21年に着工し、24年に本格量産に入る。米政府はTSMCに戦闘機向けなど機密性の高い軍用半導体の米本土生産を要請していた。劉氏は「商業向けも入る」とし、一般の企業顧客の需要開拓も狙う。

劉氏は「サプライヤーも一緒に米国に行く」とも述べた。装置大手の東京エレクトロン、ウエハーを供給する信越化学工業など多数の日本勢にとってTSMCは最重要の取引先で、米シフトは日本勢にも対応を迫る。

ただし、米生産は「コストが高く、補助金について米政府などと交渉中だ」(劉氏)といい、収益化の見通しは完全ではない。同社が1987年の設立時、台湾で受託生産に特化する新たなビジネスモデルを選んだのは、多くの有能な技術者を安価に採用できたからだ。収益性の低下を招けば巨額投資で技術競争に先行する勝ちパターンが揺らぎかねない。

「TSMCだけでなく、世界中の企業が二大国の板挟みになるだろう」。劉氏は株主総会でこう述べた。半導体業界は米中の需要を両取りする路線が厳しさを増し、不透明な状況で決断を迫られる試練に直面している。

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]