今日も走ろう(鏑木毅)

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コロナ禍を豊かに変えるヒトの知恵

2020/6/11 3:00
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5月、東京マラソン財団が主催するトレイルランニングの初心者向けオンライン講座を実施した。これまで数多くの講演やトークイベントに参加してきたが、新型コロナウイルスの影響で2月末からランニングイベントがなくなり、緊急事態宣言も発令され約3カ月間、自宅にこもる生活をしている。家族以外と話す機会もめっきり減り、はたしてスムーズに講演できるのかと久しぶりに緊張した。

初体験のオンライン講演の1時間はあっという間だった

初体験のオンライン講演の1時間はあっという間だった

開始前、北海道から九州までさまざまな地域の参加者が画面上の私を見つめるとぐっと緊張が増す。話し始めると、参加者がうなずいたり、メモをとったりするのが見える。パソコンの小さな画面とはいえ、表情もわかり、久々に大勢の前で話す高揚感を味わった。1時間はあっという間に過ぎた。

自宅の一室からパソコン画面を通して語るのは何とも不思議な感覚だ。やはり、聴衆に相対しての講演とは異なり、会場の空気感というか熱気といったものを肌で感じることはできない。通常なら参加者の微妙な表情の変化や雰囲気を察知したら臨機応変に話題を変えたり、雑談を交えたりして徐々に一体感が出てくるもの。こちらから一方的に話を続けている感じだと、参加者の反応がやはり気になる。

イベント後のアンケートでは、地方の参加者からとりわけ好評を得たようだ。というのも地方ではランニングイベントの機会も少なく、ましてやトレイルランニングは数少ないせいか、新鮮だったようだ。自分自身、オンラインでの講演は初めての経験。要領を得ない部分も多かったけれど、途中で参加者とのコミュニケーションの時間をはさむなどの工夫を施せば、より参加者との一体感を醸成できるように思えた。

3密を避けたオンライン飲み会といった楽しみ方もあるという。講演においても、参加者も私も、スポーツの大会やイベントがないコロナ禍において、少しでもこのスポーツを感じる場に身を置きたいとの思いが独特の連帯感を生み出していた。新しいイベントスタイルの可能性を感じることができた。

このところ夕方になると街中を走る人が増えているように感じる。いかにも最近走り始めたという雰囲気の人も多い。3密につながる可能性のあるチーム競技や屋内スポーツができず、運動不足解消やストレス発散のために走り始めたのだろうか。そう考えると、ランニング人口はまだ掘り起こせそうだ。

通勤時間がなくなるテレワークが増加、その分を余暇の時間にできる。コロナウイルスによって生じた社会生活の変化のうち、数少ない前向きな影響といえるかもしれない。我が家も夕方に家族で散歩に出かけるのが日課になった。それぞれが日々追われるように生きていたこれまでには決して意識することのなかった、家族一緒に過ごす時間の豊かさを実感する。

人類学の権威、京都大学の山極寿一学長は、弱みこそチャンス、人類は弱みを強みに変える戦略で生き延びてきたという。だとすれば、今は現状を受け入れてできることを前向きにやり続ける中に、ウィズコロナ時代の生活の質を豊かに変えていくヒントが隠されているのかもしれない。そんなふうに思えてくる。

(プロトレイルランナー)

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