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女子サッカー、新プロリーグに込めた大いなる理念

サッカージャーナリスト 大住良之

日本の女子サッカーが大きな変化のときを迎えようとしている。

2011年夏にドイツで開催されたワールドカップで「なでしこジャパン」が劇的な優勝を飾り、東日本大震災で打ちひしがれていた日本社会に大きな感銘と勇気を与えた女子サッカー。世界ナンバーワンの選手となった澤穂希を中心に選手の大半が所属する日本のトップリーグ「なでしこリーグ」にも大きな注目が集まった。

しかし翌年のロンドン・オリンピックで銀メダル、15年の女子ワールドカップで準優勝とふんばってきたなでしこジャパンが16年リオデジャネイロ・オリンピックでアジア予選敗退という痛手を負い、なでしこリーグの人気も落ちた。11年には2796人を記録した1試合平均の入場者数も、19年には1200人台にまで落ち込んだ。

ロンドン五輪で銀メダルを獲得したなでしこジャパンだが、リオ五輪ではアジア予選敗退に終わった=共同

そしてなでしこジャパンも、19年の女子ワールドカップ・フランス大会ではラウンド16(決勝トーナメント1回戦)で敗退。急速に成長する世界の女子サッカー、なかでも欧州勢のレベルアップへの危機感やこのままでは置いていかれる一方になるという思いが、日本の女子サッカーを「プロ化」へとせき立てた。

6月3日、日本サッカー協会はオンラインで記者会見を開き、21年秋にスタートを切る新しい女子プロサッカーリーグの名称を「WEリーグ」と発表した。

監督かコーチに女性を少なくとも1人

新リーグは現在のなでしこリーグの上部リーグとして設立され、なでしこリーグは今後もアマチュアの全国リーグとして存続する。当初は6~10クラブで開催し、順次クラブを増やしていく。しばらくは降格はなし。各クラブは15人以上(うち「完全プロ」と呼べるA契約は5人以上)のプロ選手を保有し、監督あるいはコーチに女性を少なくとも1人、そしてクラブの役職員の半数以上は女性とする。

「プロ」といっても、Jリーグの選手のように何千万円あるいは億を超す年俸など、まず望むことはできない。「一般企業における大卒新卒程度を最低年俸としたい」と、新プロリーグの設立をけん引する今井純子・日本サッカー協会女子委員長。それでも「サッカーだけに専念できるなら」と、プロ契約を求める選手は引きも切らないだろう。

Jリーグが誕生したころには、日本代表クラスでも、何人もの選手が一生を保証された会社員の地位を捨ててハイリスクのプロ選手となることをためらった。だが女子選手たちにはそうしたためらいは少ないと、私は思っている。

オンラインで記者会見し、WEリーグ発足を発表する日本サッカー協会の田嶋幸三会長=共同

「緊急事態宣言」が解除されたばかりで、日本サッカー協会自体がまだ「ほぼテレワーク」といった時期に「オンライン」という形で重要な会見を行った背景には、3週間後に迫る重要なイベントがあった。国際サッカー連盟(FIFA)が6月25日に23年女子ワールドカップの開催国を決定することが、5月半ばに発表されたのだ。

23年女子ワールドカップには、日本のほか、オーストラリア+ニュージーランド(共同開催)、ブラジル、コロンビアが立候補していたが、ここにきてブラジルが立候補取り下げを発表。2月にはFIFAの視察チームによる視察が行われ、6月25日のFIFAカウンシル(以前の理事会にあたる)での投票を待つばかりとなっている。

日本が示した会場候補は、北から札幌ドーム、ユアテックスタジアム仙台、埼玉スタジアム、国立競技場、豊田スタジアム、京都スタジアム、パナソニックスタジアム吹田、ノエビアスタジアム神戸の8つ。約1カ月間、史上最多の32チームが参加する大会が日本で開催されることになれば、WEリーグにとって大きな「追い風」となる。

女性活躍社会への貢献、「WE」で表現

WEリーグとは、「Women Empowerment League」の略称である。「能力開花」「権限付与」などと訳され、現在ではビジネス面でも重視される考えとなっている「エンパワーメント」の概念は、社会の仕組みとして能力を発揮できていない人びとに対し、その仕組みを改善し、潜在的にもっている能力をフルに発揮させようという考え方であると私は理解している。同時に、女性運動のイメージの強い言葉でもある。

1990年代はじめにつくられた「Jリーグ」という名称はその後のスポーツ界に大きな影響を与え、「Vリーグ(バレーボール)」「Bリーグ(バスケットボール)」「Fリーグ(フットサル)」など、いくつもの「アルファベット・リーグ」を生んだ。この形は日本の枠も飛び出し、アジアではプロサッカーリーグの愛称として使用する国も少なくなかった。

WEリーグ発足を発表したオンライン記者会見で、ロゴマークを掲げる佐々木女子新リーグ設立準備室長=共同

だがWEリーグという名称は単なる「頭文字」ではない。新リーグに託す思いが表現されており、単なる女子のプロサッカーの成功・不成功を超え、広く「女性活躍社会」への貢献という理念までが込められている。

しかしJリーグの名称がヒット商品となったのは、名称が斬新だったためではない。選手たちが奮闘してファンをひきつけ、「サポーター」というそれまでの日本になかった文化を生み、そして何よりも、各クラブがそれぞれのホームタウンに貢献するという理念に真剣に取り組んだ結果だったことを忘れてはならない。

WEリーグには、継続的にスポンサーを確保することだけでなく、選手たちにどれだけ本物の「プロフェッショナリズム」を根づかせることができるかといった根本的な問題まで、さまざまな課題が待ち構えている。女子新リーグ設立準備室の佐々木則夫室長(前なでしこジャパン監督)は、「成功のめどは、1試合平均観客5000人。10年間で1万人をめざす」と話している。日本社会に新しい女性文化を花咲かせようという壮大な目標に向かって、協会、リーグ、クラブ、選手、そしてサポーターが、一丸となって取り組まなければならない。

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