コーセーがZ世代向け化粧品 質感と「遊べる」に着目

コーセーコスメポート(東京・中央)は20代前半の女性をターゲットにしたブランド「FORTUNE(フォーチュン)」から、特にZ世代に的を絞った商品群を2019年末に発売した。同社がZ世代を意識して投入したメークラインはこれが初。理由は、この世代が今後の消費やトレンドの中心となると考えているからだ。
フォーチュンがZ世代向けのコスメとしてこだわったのが、「特徴的な質感」と「遊べる」という2点だ。
例えば、ティントルージュ(色落ちしにくいリップ)の「マシュマロティントルージュ」では、「マシュマロのようなぽわんとした発色」と「柔らかく丸い印象を与える質感」を大切にした。ベルベットレッド、パフィキスベージュ、キャンディピンク、ジューシィオレンジの4色があり、それぞれつや感とマット感が異なっている。
例えば、ベルベットレッドでは濃密かつ滑らかな質感を大切にしているが、ジューシィオレンジでは透け感のある愛らしい質感を大切にしている。色に合わせて新しい質感をつくることで、使い慣れた色の系統でも新しさを感じられるようにした。
また、リップを「ひと塗り」した場合は透け感のある印象、「重ね塗り」した場合は立体感のある印象、指でぼかしながら塗る「ぽんぽん塗り」をした場合は血色感のある印象になるなど、メークの方法によってリップの印象が変わるのも特徴。そうすることで、ターゲットの遊び心を刺激する発色を狙った。
こうした特徴を取り入れた理由の一つに、Z世代の情報収集力やクリエーション能力の高さがあるという。

「自分に合うか」が大事
例えば、Z世代はSNSやブログでメイクの情報を集め、自分のメイクの参考にする人が多いという。Instagram(インスタグラム)の「メイク」タグには約566万件、「コスメ」タグには約471万件の投稿がある。
これらの投稿は、ただ単に商品写真だけをアップするのではなく、自分の手首をパレットにして色や質感を紹介したり、実際にメークした写真をアップしたりすることが多い。「リップAとリップBを重ね塗りしたら、こんなにきれいな色になった」「自分の肌に映える色になった」など、自己流の使い方による新たな仕上がりが発信されているのだ。フォーチュンの「特徴的な質感」と「遊べる」という持ち味は、このZ世代の傾向を踏まえたものなのだ。

同社はフォーチュンを開発する際、Z世代の特徴を把握するためにWebアンケートを実施。15~28歳までの女性を対象に、各年齢別に「価値観」「スマホ利用実態」「理美容/化粧品に対する意識/実態」「化粧品利用実態」「化粧品購買行動」を調査した。
この調査で分かったZ世代の特徴として、「Z世代は情緒的価値よりも機能的価値を重視する」ということがある。
「例えば、この世代はパーソナルカラーを表す『イエベ(イエローベース)』『ブルベ(ブルーベース)』といった言葉を多用する。一般的に、肌の色が黄みよりの人はイエベ、青み寄りの人はブルベに分類され、それぞれに映えるコスメの色があるといわれている。Z世代がこうしたワードを重視する背景には、『自分自身の肌に合う・合あわないを大切にする』という価値観があるのだろう」(コーセーコスメポートの商品開発部)
ただし、機能性を重視する一方で、ポイントメーク(リップやチークなど)では「ブランドの世界感も重視する」ということも分かった。
そこでフォーチュンは、「クリスタルトリッピング」という色素を全品に配合し、肌色になじみ、血色がよく見えることに徹底的にこだわった(機能的価値)。同時に、商品のパッケージでは「姫系」のかわいらしい世界観を表現し、世界観重視の層にも応えられるようにした(情緒的価値)。
情報はネットで、購入は店頭で
この調査ではもう一つ、Z世代のコスメの買い方の特徴も浮かび上がった。例えば、「Z世代は商品を購入する際、慎重かつ合理的に意思決定をする」という点だ。欲しい商品があれば、その商品に関する情報をネットや数件のお店で調べ、よく考え、本当に良いと思わなければ購入しない。堅実な買い物をする一方で、消費意欲自体は高く、好きなモノ・コトにはお金をかけてもいいと考える傾向が強いというのだ。
デジタルへの接触率も高かった。SNS(交流サイト)を利用しているZ世代は8割以上、高校生は9割以上だった。情報収集に使用するのは、インターネットの美容口コミサイトが中心でInstagramなどのSNSやドラッグストアの店頭が主流だ。
一方で、ECサイトの利用率はそれほど高くない。口コミは参考にするが、実際に自分で試してから購入したいという考え方が強いからだ。コスメを購入する際は、オンラインで情報を集め、オフラインでテスターを試し、ドラッグストアで購入するという流れが一般的だった。
フォーチュンでは、Z世代のこうした特徴を踏まえ、オンラインとオフラインの情報が融合したようなキャンペーンを展開した。
例えばマス宣伝では、Z世代から圧倒的な支持を得ている男性アイドルグループ、Hey!Say! JUMPを大々的に起用。同時に、YouTubeやInstagramを中心にデジタル上での商品情報の接触回数を高め、同世代の関心を得ることに努めた。

こうしたオンライン上でのキャンペーンと同時に、オフラインでのトライアルイベントも実施した。SHIBUYA TSUTAYAでは、実際に商品を試すことができる「『マシュマロティントルージュ』発売記念トライアルイベント@SHIBUYA TSUTAYA」を実施。オンラインで情報を集め、オフラインでテストして購入できる、という流れを大切にした。

(ライター 近藤彩音、写真提供 コーセーコスメポート)
[日経クロストレンド 2020年6月3日の記事を再構成]
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