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佐々木朗希、160キロがもたらす異次元の試練
編集委員 篠山正幸

2020/6/9 3:00
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間もなく対外試合デビュー、と思われたロッテのドラフト1位ルーキー、佐々木朗希に急ブレーキがかけられた。160キロを2度計測したシート打撃登板後の回復が思わしくなかったためだ。「常時160キロ」の世界は人類にとって、異境といえる。大谷翔平(エンゼルス)同様、佐々木朗もまた類例のない戦いに挑むことになる。

5月26日のシート打撃に初登板し、最速160キロをマークしたロッテ・佐々木朗=球団提供・共同

5月26日のシート打撃に初登板し、最速160キロをマークしたロッテ・佐々木朗=球団提供・共同

6月4日の日本ハムとの練習試合後、井口資仁監督は開幕前の16日まで予定される練習試合での佐々木朗の登板を見合わせる、と話した。

5月26日のシート打撃初登板では打者3人に対し、11球中160キロを2度計測。いよいよ次は実戦登板、との期待が高まったばかりだった。しかし、その160キロこそが、今の佐々木朗にはもろ刃の剣になりかねないのかもしれない。

井口監督は当面登板を見送ることについて、こう説明した。「一番体の張りが出てくる時期。後退するわけではないが、現状維持しながらやっていけたら。ここでフォームを崩して、故障というのが一番怖い。筋量も徐々に増えてきているけれど、まだ1年間トータルで投げられる体ではない」

深刻な状態ではないようだ。しかし、超高速の球を投げ続けるための土台づくりは容易ではないこともうかがえる。

シート打撃では1人目の菅野剛士に右中間の柵越えを喫した。160キロが出たのはそのあとだった。

「いままで対戦したバッターで一番高いレベル。その面で気持ちが入ったし、ホームランを打たれてさらに集中力が増した」と佐々木朗は話した。

井口監督も「1人目の菅野に打たれてからギアチェンジして160キロを2回出す。さすがだなと感じた。1年目で、あのマウンドさばきというか、どっしりした感じは並大抵のルーキーじゃないと感じた」と評価したものだった。

肉体的負担を考慮したスロー調整

しかし、160キロという速度が肉体に与える負荷は、本人を含め、誰にも予想できない部分がある。特に実戦で打者を相手にし、あるいはピンチでテンションが上がって、針が振り切れるような動きをした場合、その後の肉体的な反動は大きくなるものと想像される。首脳陣が、シート打撃後の経過を時間をかけて観察してきたのもそのためだった。

「ああいうゲーム形式の練習で投げて、強度が急に上がったので、その後、(体の)回復とか、反応がどうなのかな、と見ていたが、思った以上にかえって(戻って)こなかった。フォーム固めも体力づくりも含めて、ゆっくりやろうかなというふうに考えている」と吉井理人投手コーチは話す。

球界の宝を預かったロッテは吉井コーチとトレーナーらが練り上げたプログラムによって、キャンプでのブルペン入りもしばらく見合わせるなど、慎重のうえに慎重を期してきた。

シート打撃登板はそうしたスロー調整の結果、もう大丈夫、と判断したうえでのものだったはず。

それでも、シナリオ通りにいかないところに、異次元の世界に入っていくための難しさがある。

160キロ超のスピードボールを投げることが、どれだけ肉体的負担をもたらすか。思い出すのは打撃マシン作りの名人から聞いた話だ。

千葉県で打撃マシンを作る吉田加工所を営む吉田義さんは、マシンのすべてを知り尽くしたゴッドハンドとして知られる。

あるとき、160キロ超えのボールを再現してほしい、とテレビ局から依頼を受けたことがあった。しかし、その道の名人にして、マシン作りは困難を極めたという。

140キロから150キロほどを想定している打撃マシンを160キロ超の仕様にするには、単にそのパワーや部品の強度を1~2割増しにするだけでは足りない。

投手の筋肉にあたるスプリングの強度が必要なのはもちろんだが、それを支える土台を含めた機械全体、つまり骨格の強度を上げる必要があり、さらに必要な電力も異なってくる。どこかが強すぎても、弱すぎてもいけない。全体のバランスをとらないと故障する。

規格外の速球は肉体への負担も大きく、コーチ陣も起用に慎重を期している=共同

規格外の速球は肉体への負担も大きく、コーチ陣も起用に慎重を期している=共同

要するに同じ10キロ速度を上げるのでも、140キロから150キロに上げるのと、150キロから160キロに上げるのでは難易度が全然違ってくるのだ。

機械と人間を一緒にするわけにもいかないが、すくなくとも、佐々木朗や大谷が挑んでいる超高速の世界が、人体にもたらす負荷を考えるための模式図にはなるだろう。

大谷も悩まされた指先の「衝撃」

靱帯の再建手術からの復帰を目指す大谷は指先のマメに煩わされることもあった。160キロを超える球との最後の接点である指先にどれだけの衝撃があるのか、人間の皮膚はどこまで耐えられるのか。そこにも未知の領域がある。

「160キロぐらい出しちゃうと、今の体ではたぶんもたないと思う」と吉井コーチは話した。「メディカル(医療サポート)の方からの報告でも、まだ十分に中身が成長しきっていないので、それで強度が強くなると、大きな故障につながる可能性があるので『そこは慎重にお願いします』と言われている。ちょっと逆戻りして、またつくっていこうと思っている」

シート打撃では「前回打撃投手で駄目だったフォークがよくなった」と話し、手応えを得ていた佐々木朗。スピードもさることながら、それをきちんと制御できているところに天賦の才を感じさせた。

「一時停止」のシグナルは、本人としても、悔しいことだろう。我々としても、新型コロナウイルスの影響で異常な事態となった今季、清新なスターを渇望する気持ちは例年以上に強い。しかし、ここで焦ってはいけないようだ。我々もステイホームを耐え忍んだ根気でもって、お披露目の時を待とう。

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