球場が呼んでいる(田尾安志)

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解説動画にありがたい低評価 ファン目線、興味深く

2020/6/7 3:00
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今年3月、動画投稿サイトのユーチューブに自分のチャンネル「TAO CHANNEL」を開設した。テレビやラジオではなかなか言えない本音や球界のこぼれ話を織り交ぜながら、私なりの野球の見方を紹介させてもらおうと思ったのが理由だ。

チームごとに今季の戦力分析や展望について話す動画を公開しているが、「2020年横浜DeNAベイスターズの戦力について」と題した動画の評価には驚いた。いわゆる「いいね」を表す高評価が70件であるのに対し、低評価は何と270件(6日午後2時現在)。ユーチューブの動画は高評価の方がはるかに多いものという印象があり、事実、他球団の解説動画は高評価の方が多いので、逆転現象には常識を覆される思いがした。はたして、どんな点が圧倒的な「不支持」につながったのか。

ユーチューブに開設した「TAO CHANNEL」で各チームの戦力を分析する動画を公開している

ユーチューブに開設した「TAO CHANNEL」で各チームの戦力を分析する動画を公開している

くだんの動画では、ここのところ出場機会が大きく減っている選手に注目した。まずは倉本寿彦。2年目の16年に157安打、打率2割9分4厘をマークしたが、19年はわずか24試合の出場で1割2分1厘に終わった。かつて不動の1番だった桑原将志も19年は72試合の出場で1割8分6厘の成績にとどまった。

彼らをもっと使ってはどうかと提案したところ、DeNAファンとおぼしき人たちから多くの反応があった。倉本については、同じ遊撃手で名手の大和と比べて守備力が劣ること、打撃でもセイバーメトリクスの多くの指標で大和の方が上回ることを理由に、倉本の出番減少は妥当だとするコメントが目立つ。

桑原に関しては、中堅のポジションを争う神里和毅の台頭や桑原自身の打撃不振から、やはり出場機会が大きく減ったのはやむを得ないとするコメントが多い。何より、倉本も桑原も十分にチャンスを与えられながら、それを生かせなかったことでレギュラーの座を手放すに至った、というのがおおむね共通の見解のようだ。

「使えない」と否定から入らない

05年、私が創設初年度の楽天の監督を務めるにあたって心掛けたことに「否定から入らない」ことがあった。オリックスと近鉄が統合し、分配ドラフトで選手を寄せ集めた楽天は明らかに選手層が薄かった。ただし、そこで「この選手はだめ」「使えない」などと思ったら終わり。「おまえが必要なんだよ」というメッセージやシグナルを発してやる気を起こさせ、全選手が「自分は戦力としてみられている」と思えるよう努めた。

ひところの巨人のように戦力が余っているチームであれば、一部の選手を重用するやり方も通じるだろう。そうでなければ現有戦力をいかにうまく使うかが重要になる。誰を「外そうか」ではなく、「どう使っていこうか」という思考。「使えない」と見切って控えの戦力が薄くなれば、試合に出ている人たちを休ませられず、無理がたたる。シーズンをトータルでみて、一試合でも多く勝つにはどうすべきかと考えていくと、「使わない」という切り捨ての発想では立ちゆかないのだ。

倉本の起用を提案したのは、何も大和に代わってレギュラーに据えよということではない。阪神時代、甲子園の土のグラウンドでいともたやすくイレギュラーバウンドをさばくなど、屈指の守備力を誇ってきた大和をレギュラーで使うのはうなずける。ただ、それで倉本を眠らせておくのはもったいないわけで、いま一度競争の土俵に上げてみてはどうかと言いたいのだ。スタメンがだめでも様々な方法で使う手がある。

出場機会が年々減っている倉本。このまま眠らせておくのはもったいない(DeNA球団提供)=共同

出場機会が年々減っている倉本。このまま眠らせておくのはもったいない(DeNA球団提供)=共同

十分にチャンスを与えられながら結果を出せなかった事実があるとしても、その間の数字をみて落ち目のように決めつけるのはどうか。選手はプロでやれる自信があるからユニホームを着ており、球団も見込みがあるからこそ契約している。選手は苦境のときほど一日でも長くユニホームを着続けようと努力するもので、そういう人を見捨てるのでなく、どう起用すれば結果が出るのかと期待を持ちながら見守る視点が大切ではないだろうか。

低評価と批判のコメントが多かったDeNAの動画だが、批判はむしろ歓迎だ。数々のコメントを読むと「ファンの人はこう考えているんだ」と参考になるし、発見にもつながる。ファンの皆さんがどんな考えを持っているかというのは、ユーチューブをやっていなければ分からなかったかもしれない。プロ入り時の胸板が薄かった頃からみてきた大和が、DeNAファンにこれだけ認められているんだと分かり、うれしい思いもした。

波風の立つ人生は面白い

批判を受け止めるのをしんどいと思う人もいるだろうが、私の考えは「波風の立つ人生は面白い」。ある程度波風が立ってもそれを乗り越えることに楽しさを感じるのは、経験というベースがあるからだろう。私が現役の頃は遠征にいくと若手もベテランも大部屋に泊まった。一人でいる時間はないに等しく、ある程度年齢がいっても苦言を呈する先輩が常にいた。スタンドからのヤジを含め、苦言は自分を律してくれるものという考えが根っこにあるから、批判もありがたく感じることができる。

怖いのは批判がエスカレートして凶器と化したとき。プロレスラーの木村花さんが亡くなった原因に、テレビ番組への出演を通じSNS(交流サイト)で誹謗(ひぼう)中傷を数多く受けたことが指摘されている。乗り越えられないまでに大きくなった波風を一身に受けて木村さんが抱いた孤独感、絶望感は想像を絶するものがある。

私は芸能界の人間ではないが、試合の解説や番組出演で何十年もテレビの世界に関わってきており、どうやって番組ができあがるかは大体分かっているつもりだ。往々にして、局やスタッフにゆとりがないと視聴率を上げることにばかり目がいき、出演者を守ることがおろそかになる。はたして木村さんの件ではどうだったか。

新型コロナウイルスの影響で人と会って話すことが減っていく中、画面上の文字だけのやりとりはますます存在感を増していくだろう。世の中は閉塞感に覆われているが、それで書き込む内容が暴力的になることがないよう祈る。愛のあるヤジは選手の肥やしになるが、単なる罵りは誰のためにもならない。

(野球評論家)

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