LCCにコロナの逆風 JAL系は貨物専用便で初就航

日経ビジネス
2020/6/8 2:00
保存
共有
印刷
その他

ジップエアは貨物専用便という苦渋の策で第一歩を踏み出した(6月3日、成田空港)

ジップエアは貨物専用便という苦渋の策で第一歩を踏み出した(6月3日、成田空港)

日経ビジネス電子版

新型コロナウイルスが航空業界に打撃を与える中、特に苦境に陥っているのが格安航空会社(LCC)だ。日本航空(JAL)傘下のジップエア・トーキョー(千葉県成田市)は3日に初就航を迎えたが、旅客利用が見込めず、当面は貨物専用便としての運航となる。フルサービスキャリア(FSC)に比べ高い搭乗率を保つことが前提のビジネスモデルが、新型コロナの感染拡大による航空需要の低迷で大きく揺らいでいる。国内外で急成長し、訪日外国人客の増加に寄与してきたLCCは生き残っていけるのか。

【関連記事】
・高まる再編圧力 スカイマークは生き残れるか
・スカイマークに再び暗雲 現金流出、想定より早く

6月3日夕方、成田空港。「ZIPAIR」と胴体に書かれた見慣れない外装の旅客機に、貨物がどんどん搭載されていく。その一方で、搭乗のためのタラップ(階段)を上る乗客の姿はまったく見られない。

午後5時35分。機械部品や化学製品など13トンの貨物だけを積んだ旅客機はほぼ定刻通り、タイ・バンコクのスワンナプーム国際空港へと飛び立っていった。

■「旅客便のスタートが第2段階」

「ぜひスタートは旅客便でと思っていた。(事業開始の)第1段階が今日(3日)で、第2段階が旅客便のスタートだと考えている」。こう話すのはジップエア・トーキョーの西田真吾社長だ。

同社はJALの完全子会社として2018年7月に設立された。JALはオーストラリア・カンタス航空などとの合弁で設立したジェットスター・ジャパン(千葉県成田市)でLCCを手掛けてきたものの、自社独自での進出は初めてだ。日本を発着する短距離路線のLCCには国内外の事業者が多く参入し、既に飽和状態であるため、国内では珍しい北米など中長距離路線の就航を目指す。「大西洋間の移動の10%以上はLCCが担っている。太平洋でも同じことが起きるはずだ」(西田社長)。5月に成田―バンコク線を就航させ、7月にはソウル線、そして今冬には本丸のホノルル線に進出する算段を描いていた。

そこに襲来したのがコロナ禍だ。旅客需要は大きく減少。初就航先のタイは当局が国際線の旅客便の入国を一時的に禁止しているため就航を延期していた。

旅客需要が減少する一方で、航空貨物はFSC各社の大幅な減便によって需給がひっ迫し、輸送単価が上昇している。LCCは小型旅客機を使うのが一般的だが、ジップエアは中長距離路線への参入を視野に入れているため、中型旅客機の米ボーイング製「787-8」を利用する。小型機に比べて航続距離が長いだけでなく、収納庫が広いという特徴がある。旅客を乗せず、貨物だけを輸送しても「(燃料費などの)変動費くらいはまかなえる」(西田社長)と判断して貨物専用便での就航に踏み切った。ホノルル線など北米路線の運航に必要な、長時間洋上を飛行するための認可事項「ETOPS」をクリアするための運航実績を積む意味合いもある。

緊急事態宣言の解除などを受け、LCC各社は日本に関連する旅客便の運航再開を続々と決めている。ANAホールディングス(HD)系のピーチ・アビエーション(大阪府田尻町)は6月中に国内線の全路線で運航を再開する。海外勢も韓国LCCのエアプサンやジンエアーが徐々に日本路線を含めた国際線の運航を再開させる方針だ。ジップエアも旅客を乗せて運航したいのはやまやまだが、旅客便としてのバンコク線やソウル線の運航開始時期は決めていない。国際線に関しては各国の渡航制限などの影響があり、移動需要がどこまで回復するかが不透明なためだ。

■「狭い」「満席」で敬遠される恐れも

さらにLCCと新型コロナはすこぶる相性が悪い。LCCは簡単に言えば、FSCに比べ狭いシートピッチに設定した旅客機に、旅客を満席に近い状態まで乗せ、高頻度で飛ばすことで、旅客単価が安くても利益が出るというビジネスモデルだ。搭乗率でいえば「損益分岐点がFSCは5~6割なのに対し、LCCは7~8割」(航空アナリスト)。航空需要の低迷が長期化すれば、LCCのビジネスモデルは根本から覆される。

航空機は換気設備なども充実しており、機内感染のリスクは低いとされているが、LCCの「狭い」「満席」というイメージが「3密」と直結し、利用者が敬遠する可能性もある。座席を間引くなどの感染対策を講じれば、LCCの売りであるはずの価格が上昇してしまう。

需要減に伴う減便が相次ぎ、成田空港は人もまばらだ(6月3日)

需要減に伴う減便が相次ぎ、成田空港は人もまばらだ(6月3日)

加えて、LCCはFSCに比べ観光需要に依存している。長期的に見れば「観光需要の戻りの方がビジネス需要に比べ早いのではないか」(近畿大学経営学部の高橋一夫教授)との声があるものの、短期的に見ると、最繁忙期の夏期までに観光需要が一定程度回復しなければLCCへの打撃は一段と大きくなる。

近年、LCCは国内外で急速に事業規模を拡大させてきた。国際航空運送協会(IATA)やオーストラリアの航空シンクタンクCAPAなどのデータによると、LCCがけん引役となり、18年までの10年間で世界の旅客数は年23億人から年43億人まで増えた。東南アジアや中米などでは既に供給座席量ベースのシェアでLCCがFSCを逆転している。「LCC後進国」とされてきた日本でも18年の国際線旅客数のシェアは約26%と、ここ数年で急拡大した。

LCCの普及は日本政府の観光政策を後押しした。LCCの台頭によって、韓国や中国、台湾といった東アジアの中間層が日本を訪問しやすくなった。地方空港はその需要を引き込もうと、誘致合戦を進め、中にはLCC頼みの収益構造になっている空港もある。

■LCCへの支援のあり方は

「各国政府は全ての航空会社を平等に扱っていない」。こう嘆くのは欧州LCC大手、ライアンエアーHDのマイケル・オライリー最高経営責任者(CEO)だ。

ドイツ・ルフトハンザは政府による資本注入、イタリア・アリタリア航空は100%国有化へ――。各国を代表する「フラッグキャリア」に対しては政府が支える姿勢を見せている事例が多い。その一方で、公共交通機関としての色合いが比較的薄いLCCには十分な支援体制が整っていないのが現状だ。

そんな中、日本はどう立ち回るのか。国内を見ると、LCC大手のピーチやジェットスター・ジャパン、そしてジップエアはANAHDまたはJALのグループ内にあり、FSCを通した支援の手が届く可能性は高い。ただ、海外系LCCのエアアジア・ジャパンや春秋航空日本、さらに日本に就航する海外勢がどれだけコロナ禍を持ちこたえられるかは不透明だ。

LCC各社の事業規模の縮小は、日本の観光政策や地方の空港政策をも左右する。LCCへの支援のあり方を考えることは、今後の日本の観光のあるべき姿を考えることでもある。

(日経ビジネス 高尾泰朗)

[日経ビジネス電子版2020年6月4日の記事を再構成]

日経ビジネス電子版セット

週刊経済誌「日経ビジネス」の記事がスマートフォン、タブレット、パソコンで利用できます。雑誌発行日の前週の水曜日から順次記事を公開。日経電子版とセットで月額650円OFFです。

保存
共有
印刷
その他

日経BPの関連記事

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]