6割高のIPO銘柄、深追い禁物(苦瓜達郎)
三井住友DSアセットマネジメント シニア・ファンドマネージャー

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2020/6/5 2:00
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写真はイメージ=PIXTA

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前回の本欄で、直近IPO銘柄の下落は異常であり、割安株投資の対象として魅力的だと指摘しましたが、掲載前後のタイミングで状況は一変してしまいました。公開価格から大幅に売り込まれていた企業群が、ほぼ同じタイミングで急反発を開始し、多くの銘柄があっという間に公開価格を回復してしまったのです。4月下旬に一旦その動きは落ち着きましたが、ここへ来てふたたび急上昇する銘柄も増加してきています。

あまりに上昇速度が速かったため、残念ながら、目をつけていた企業すべてに対し、十分な投資を行うことはできませんでした。ファンドへの資金流入がない限り、急落銘柄を拾うためには、既存の投資先を売却しなければなりません。執筆当時は市場全体も底値から多少回復したばかりの段階だったため、急速に既存銘柄の売却を進めることができなかったのです。「新型肺炎の脅威もあり、まだまだ投資機会は続くだろうから、買付を進めつつ本欄で繰り返し指摘を続けよう」などと考えていた面もあるのですが、甘かったようです。

結果として多くのIPO銘柄の底となった4月6日は、現時点で最後に新規公開を行なった企業である松屋アールアンドディの上場日でした。同社の初値も公開価格を下回りましたが、他社と同じタイミングですぐに回復へ転じ、あっという間に公開価格の2倍以上に上昇しました。縫製作業の自動化技術に特長を持つ企業ですが、ここまで急に評価が一変するとは思いませんでした。

実は、同社の後もIPO予定企業が目白押しだったのですが、なんと13社連続で需要予測後に上場を中止するという前代未聞の事態が発生しました。4月7日に緊急事態宣言が発令されたという特殊要因があるとは言え、3月から流行拡大は起こっていたことであり、発表前にIPO延期を決断できなかったのかという疑問は残ります。現在、上場中止企業のうち数社がふたたび公開予定を発表しているのを見ると、その思いはより強くなります。

もっとも、この上場中止ラッシュが、それ以前にIPOしていた銘柄群の株価反転につながったのは確かでしょう。ほとんどの上場予定企業は小ぶりのため、理論的な意味での需給要因はさほど問題ではありませんが、IPO→公開価格割れ→IPO→また公開価格割れの連鎖が止まり、株価上昇に必要な数の投資家がリスクを取ってもいいと考えられるようになったのは、株価反発の必要条件だったと思います。

それにしても、株価回復の速度は異常です。3月のIPO企業24社で見ると、4月6日から5月26日までの間に全社の株価が上昇しており、平均上昇率は60%を超えています。新型肺炎などの理由によって、前期業績の下方修正や厳しい今期予想を発表した企業も複数存在することを考慮すると、この上昇速度はちょっと速過ぎるという印象を受けます。

直近IPO銘柄の多くが、同じタイミングで上昇したり反落したりしている点も気になります。4月10日前後の回復局面初期では、ほとんどすべての銘柄が直近にIPOしたという要因だけで急上昇している印象でした。最近の値動きはさすがにばらついていますが、それでも、日中の値動きを観察していると、なにか共通の要因で上げ下げしているように見えます。

おそらく、前回の本欄でも指摘したように、個別企業の情報がまだまだ市場全体に浸透していないのでしょう。通常時でもIPO企業の内容は無視されたり逆に過大視されたりしがちですが、現在は新型肺炎という特殊要因によって、この効果が増幅されていると思います。

このような動きをもたらしているのは、じっくり腰の据わった投資家の不在だと思われます。新型肺炎による不確実性の高まりなどを背景に、多くの長期投資家が積極的な活動を控えていると推測されます。外出自粛などによって逆に活性化した短期視点の個人投資家の資金が市場に流入したため、中小型株市場の一部が荒れ模様になっているのでしょう。その意味で、テレワーク関連や創薬関連の活況と、直近IPO銘柄の急反発は、共通した動きと言えます。

現在の状況下では、株価の深追いは禁物です。短期志向で移り気な投資家が主導する市場のため、上昇相場の持続力は低く、反落リスクが大きいと考えられるからです。もし運良く保有銘柄が急上昇した場合は売却の機を逃さず、着実にポイントを積み重ねるべきでしょう。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。
苦瓜達郎(にがうり・たつろう)


1968年生まれ。東京大学経済学部卒業後、91年大和総研入社。アナリストとして窯業やサービス業の担当を経て中小型株を担当。2002年に当時の大和住銀投信投資顧問入社。中小型株ファンドの運用に携わる。

[日経ヴェリタス2020年6月7日付]

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