赤字のソフトバンクG、なぜ2.5兆円の自社株買い?
グロービス経営大学院教授が「企業価値評価」で解説

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2020/6/5 2:00
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ソフトバンクグループは5月18日、2020年3月期の決算を発表しました。1.3兆円という過去最大の営業赤字、そして8000億円という当期純損失にもかかわらず、年間配当金は前期と同様の1株当たり44円、さらに2.5兆円の自社株買い、そして2兆円の借入金返済を行うとしています。巨額の赤字を計上しながら、なぜ配当金、そして多額の自社株買いと借入金の返済をするのでしょうか。グロービス経営大学院の斎藤忠久教授が「キャッシュフロー」「企業価値評価」の観点から解説します。

【解説ポイント】
・赤字決算でも現金の出入りに注目
・投資会社としての価値と株価に大きな差

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■営業キャッシュフローは黒字

これまで、日立製作所東芝など一般の事業会社の場合、巨額の赤字を出すとキャッシュフローが大幅なマイナスとなり現金が枯渇してしまうことから、配当は中止するのが普通でした。ソフトバンクGは多額の赤字を計上したにもかかわらず、キャッシュフローは大丈夫なのでしょうか。

キャッシュフローとは文字通りキャッシュ(現金)の流れを指します。どれだけ会社にキャッシュが入ったか、あるいは出たか、結果どれだけ手元にあるかをまとめたものを、キャッシュフロー計算書といいます。

さて、ソフトバンクGのキャッシュフローを見る上でカギとなるのが、営業赤字の中身です。同社は事業会社というよりは「投資会社」であり、大幅な営業赤字に陥った原因は、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(以下、SVF)などを通じて投資した一部の企業の価値が大きく減少したことによる「投資の未実現評価損失」です。「投資の未実現評価損失」とは、ある企業に投資を行った際に、将来回収できる見込み金額が投資額を下回る際に計上する会計上の評価損失であり、この損失によってキャッシュは流出しません。

ソフトバンクGの決算発表資料にある「連結キャッシュフロー計算書」を見てみましょう。この中にある「営業活動によるキャッシュフロー」を説明します。まず純利益に、費用計上はしたがキャッシュは出ていかない減価償却費のような費用を足し戻し、事業運営に係る売掛金や買掛金といった運転資本の増加額を調整して計算します。これは、営業活動に伴って発生した資金が出入りした結果、キャッシュは生み出されたのか、それとも消費されたのか示しています。

純損失8000億円に対し、「SVF等のファンドからの投資損失」として1.8兆円が足し戻されており、この結果「営業活動によるキャッシュフロー」は1.1兆円の黒字になりました。ファンドの投資損失はあくまで「評価上の損失」で、キャッシュの流失は伴わないことから、多額の営業赤字がすぐにはソフトバンクGの資金繰りに影響を与えません。

ただし、同社が保有する投資資産の価値が目減りしたことは事実であり、将来投資先から回収できる資金額は減るため、長期的には資金繰りが影響を受けることになります。

■理論価値を下回る株価が自社株買いの背景

それでは、なぜソフトバンクGは2.5兆円もの大規模な自社株買い、さらには2兆円の借入金返済を行うのでしょうか。決算説明資料を見ると、同社が5月18日現在で保有する株式の時価は28.5兆円、純有利子負債(有利子負債から保有する現預金等を差し引いた、実質的な借入金)は6.8兆円です。差し引きすると、株主は時価ベースで21.6兆円の価値を保有していることになります。

これは株主に帰属する価値であり、発行済み株式総数(約20.9億株)で割れば、ソフトバンクG株の理論上の価値が簡単に計算できます。理論上の価値は1万300円程度で、5月18日の終値である4621円を大幅に上回っています。

なお、新型コロナウイルスの影響が出る前の2019年12月時点で保有株の時価額は29.0兆円でした。昨年末から今年の5月18日まで正味の影響額は0.5兆円(保有時価の1.7%)と、保有株の時価総額全体から見れば比較的軽微だったことになります。3月末時点では評価損が膨らみましたが、その後の株式相場の回復もあり米ウーバーテクノロジーズなどを中心に評価損失が減少したようです。

保有株のうち上場して流動性の高い(つまり、いつでも換金可能な)投資先としては、アリババが14.7兆円、ソフトバンクが4.5兆円、Tモバイルが3.2兆円。合計すると22.4兆円と全体の79%を占めています。流動性の高い株の時価だけでみても、ソフトバンクGの市場株価は理論株価を大きく下回っていることになります。

これは事業内容が複雑・多岐にわたる企業によく見られる現象で、「コングロマリット・ディスカウント」と呼ばれます。事業が複雑で多岐にわたり、かつ相互に関連していない場合、中身が分かりづらい、経営が難しくなる、黒字の事業から赤字の事業に資金が流出しやすいなどの理由から、投資家が投資をためらいがちになって低く評価されることがあるのです。

例えばエレクトロニクス、エンターテインメント、そして金融と幅広い事業を展開しているソニーに対して、物言う投資家である米サード・ポイントが半導体部門をスピンオフ、保険事業の売却、そして主力のエンターテインメント事業へ注力せよと、執拗に経営陣に迫ったことは記憶に新しいのではないでしょうか。

■スタートアップ投資の神髄問われる

ソフトバンクGも同じく、以前から理論株価を実際の株価が大幅に下回る乖離(かいり)現象が続いていました。そこへ新型コロナウイルスの影響が投資先であるスタートアップの経営に大きな打撃を与え、さらに新型コロナ収束後の経済環境も不透明です。このような環境下でソフトバンクGとしては、いったん割安な自社株を買った方が投資として有利である、そして不確実な経済環境を踏まえて借入金はできるだけ削減しておいた方が良いだろう、という判断に至ったものと思われます。

スタートアップ投資には事業や創業者を見切る目が求められる

スタートアップ投資には事業や創業者を見切る目が求められる

孫氏は17年に始めたSVFの投資先88社に関して「15社くらいは倒産する」「15社ほどは翼が生えてコロナの谷を飛び越えていく」とも語っています。スタートアップへの投資とは、そのくらい不確実性の高い事業といえます。もし15社が「コロナの谷を飛び越えて」いけば、投資から十分なリターンが得られます。しかし、そのような果実を獲得するには、海のものとも山のものとも判断が難しいスタートアップの事業内容と創業者の資質を見切る目が要求されます。それこそがスタートアップ企業に集中投資する「ベンチャー・キャピタル事業」の宿命であり、神髄ともいえましょう。

さいとう・ただひさ
グロービス経営大学院教授。銀行からコンサルティングファームに出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、音響機器メーカーの取締役CFOそして米国持ち株子会社の副社長兼CFO、米国通信系ベンチャーの日本法人代表取締役社長、エンターテインメント系ベンチャーの専務取締役、東証1部上場モバイル向けコンテンツ配信企業の取締役兼執行役員専務CFOを歴任。

「キャッシュ・フロー」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/24538276

「企業価値評価」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/38848dba(ともにグロービス学び放題のサイトに飛びます)

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